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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第76話 ワイヤーフレームの空と、右手のノイズ

ヴァーミリオンが消滅し、現れた光の階段。 私たちは警戒しながら、その長い回廊を登っていた。 一歩進むごとに、背後の《バベル・サーバー》が小さくなり、眼下の地上世界が遠ざかっていく。


おい、なんかおかしくねぇか? イグニスが空を見上げて呟く。


ここから見える空は、地上で見ていた青色ではなかった。 黒い背景に、緑色の格子線グリッドが無限に走る、無機質な幾何学空間。 まるで、作りかけのゲームマップの中に放り出されたようだ。


空気が薄いですね。……それに、匂いがありません。 ランスロットが鼻を鳴らす。 風の匂いも、土の匂いもしない。完全な無臭です。


テクスチャが貼られていないのよ。 私は独りごちた。 ここは世界の「舞台裏」。 一般プレイヤー(住民)が決して見てはいけない、システムの素顔だ。


その時、私の右手にピリッとした違和感が走った。


っ……?


私は手袋を外し、自分の右手を見た。 心臓が凍りついた。 私の小指の先端が、肌色ではなく、荒いドットの集合体モザイクになって点滅していたのだ。


(な、何これ……バグ?)


私は慌てて手を握りしめ、手袋を戻した。 回復魔法でも治らない感覚。 まるで、私の存在そのものがこの世界に拒絶され、解像度を落とされているような。


どうしました、コーデリア様? アーサーが心配そうに覗き込んでくる。


な、なんでもないわ。少しめまいがしただけ。


私は強がって見せたが、冷や汗が止まらなかった。 転生者である私にだけ起きている異変。 これが意味するものは何なのか。


おい! あれを見ろ! スカーレットが叫んだ。


階段の踊り場に差し掛かった時、空のグリッド線の一部が大きく裂け、その向こう側に「外の景色」が映し出されていた。


あれは……幻影か? ガラハッドが目を細める。


裂け目の向こうに見えたのは、灰色の砂漠だった。 そして、その砂漠に埋もれるようにして、錆びついた鉄塔が斜めに突き刺さっている。 赤と白の縞模様の鉄塔。 そして、崩れ落ちた高層ビル群。


……東京タワー?


私は思わず声を漏らした。 間違いない。あれは私の知っている現実世界リアルの東京だ。 だが、私の記憶にある繁栄した都市ではない。 文明が崩壊し、数百年が経過したような、完全なる廃墟。


コーデリア、あの塔を知っているのか? スカーレットが鋭く問う。


……ええ。私の故郷にあった建物に似ているわ。 でも、あんなボロボロじゃなかった。


私は混乱した。 総理は「現実世界への帰還」や「現実の上書き」を目論んでいるはずだ。 だが、帰るべき現実があんな廃墟なら、何のために? もしかして、総理が目指しているのは……。


思考を巡らせようとしたその時、空間の裂け目から、サイレンのような異音が響き渡った。


『ピー、ガガッ。……未定義領域への侵入者を検知。』 『これより、デバッグ作業を開始します。』


裂け目から、無数の白い物体が湧き出してきた。 それは魔物でも兵士でもない。 目も口もない、のっぺりとした白い人型ポリゴン。 手にはほうきや塵取りのような形状をした武器を持っている。


なんだコイツら? デザインが手抜きすぎねぇか? イグニスが構える。 彼の武器は溶けてしまったため、今は近くのサーバーラックから引きちぎった鉄パイプを握っている。


気をつけて! あいつらは魔物じゃない! この空間の【自動清掃プログラム(ガーベッジ・コレクタ)】よ!


私が叫ぶと同時に、白いポリゴンたちが襲いかかってきた。 動きは単調だが、速い。 ランスロットが双剣で迎撃する。


斬ります!


スパッ! 双剣がポリゴンの胴体を切断する。 だが、切断面から血は出ない。 切られた部分が瞬時に再結合し、何事もなかったかのように動き続ける。


手応えがありません! 修復された!?


違う、ダメージ判定がないんだ! ガラハッド、弾き飛ばして!


ガラハッドが大盾でタックルをかます。 白いポリゴンが吹き飛ぶが、空中で姿勢制御し、物理法則を無視して滑空して戻ってくる。 そして、その箒のような武器でガラハッドの盾を「掃いた」。


シュッ。


うわっ!? 盾が!?


ガラハッドの盾の表面が、掃かれた部分だけ透明になり、消滅した。 破壊されたのではない。データとして削除されたのだ。


触れるな! 触られた箇所が消されるぞ! ガラハッドが青ざめる。


厄介な掃除屋だぜ……! イグニスが鉄パイプに炎を纏わせる。 物理が効かねえなら、燃やすしかねえ!


イグニスが殴りかかるが、やはり効果が薄い。 敵は「倒す」対象ではなく、「処理」する対象なのだ。 数も多い。裂け目から無限に湧いてくる。


くっ……キリがないわ!


その時、私の右手が再び疼いた。 小指のノイズが、手首まで広がってくる感覚。 熱い。痛い。 でも、同時に「繋がっている」感覚があった。


(あいつらのコード……私と似てる?)


私は直感に従い、前に飛び出した。


コーデリア様!?


私はアタッシュケースを捨て、ノイズの走る右手を、襲い来るポリゴンの顔面に突き出した。


アクセス……承認!


私が念じると、右手のノイズが激しく発光し、ポリゴンの身体に侵食した。 バチバチバチッ! ポリゴンが痙攣し、その白い体色が私と同じ「肌色」に変わり、そして崩れ落ちた。


『エラー。……権限の衝突を確認。……停止します。』


ポリゴンがデータの塵となって消滅する。


消えた……? コーデリア、何をしたの? スカーレットが驚愕する。


……分からない。 でも、私の体が「管理者権限キー」の一部になっているみたい。


私は震える右手を見つめた。 ノイズは肘まで広がっていた。 この力を使えば、この世界を突破できるかもしれない。 だが、使いすぎれば……私は私でいられなくなる。そんな予感がした。


道は開いたわ! 強行突破する! あの裂け目の向こう……《天空の城》へ!


私の号令で、騎士たちが駆け出す。 無限に湧く掃除屋を、私の右手の接触ハッキングで消滅させながら、私たちは光の階段を駆け上がった。


そしてたどり着いた頂上。 そこで私たちは、この世界の「天井」を見る。


そこには、巨大なマザーボードの上に築かれた、白亜の城が浮いていた。 葛城総理の居城、そして人類補完計画の箱舟。 《電脳天守閣・アヴァロン》。


ここが……ラストダンジョンか。 イグニスが鉄パイプを担ぎ直す。


行きましょう。 総理に、経費精算ツケを払ってもらうために。

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