表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/85

第72話 禁忌の基盤と、剥がれ落ちた空

三人の大臣の葬儀と組織再編を終え、いよいよ地上への逆侵攻作戦が始まろうとしていた矢先。 私は科学技術省のラボに緊急招集されていた。


ボス、出撃前にどうしても見てほしいものがある。


ネット大臣が、酷いクマを作った顔で手招きする。 彼の目の前にあるのは、第70話で破壊した機甲のアイゼンの胴体パーツ(残骸)だ。


アイゼンの解析結果が出たのですか?


ああ。動力炉の中枢を分解してみたんだが……意味が分からないんだ。


ネットは首を傾げながら、ピンセットで摘まんだ「小さな緑色の板」を私に見せた。 それは、魔法陣が描かれた魔石などではない。 無機質なシリコンと金メッキで構成された、超微細な電子回路だった。


これだ。アイゼンの思考と動力を制御していたコアパーツだ。 ……魔力が一切通っていない。代わりに、電気信号で動いていた形跡がある。 こんなナノ単位の加工技術、ドワーフの国宝級職人が百年かけても不可能だ。それに……。


ネットが拡大鏡スコープを私に手渡す。


ここの刻印を見てくれ。古代語か? 僕のデータベースにはない言語なんだ。


私はスコープを受け取り、その小さなチップの表面を覗き込んだ。 そこにレーザー刻印されていた文字を見て、私の心臓が早鐘を打った。 それは古代語でも、異世界語でもなかった。


『PROPERTY OF US MILITARY - CLASSified』


……US、ミリタリー? 私が震える声で呟く。


なんだ、ボスは読めるのか?


ええ。……『合衆国軍・所有物・機密』と書いてあるわ。


は? なんだその国は。地上の新興国か?


いいえ……もっと遠い、別の次元の国よ。


私は冷や汗を拭った。 私の予感は確信に変わった。 新魔王軍の正体は、魔族ではない。 現実世界リアルの「軍事兵器のデータ」が、何らかの方法でこの世界に転送され、実体化したものだ。 だからこそ、こちらの魔法や物理法則が通用せず、ネットのハッキング(電子戦)だけが有効だったのだ。


ネット。このチップのことは他言無用よ。 ……これは、パンドラの箱だわ。


解析を続けるネットを残し、私はラボを出た。 廊下を歩きながら、私は拳を握りしめた。 敵の中身は「現実世界のシステム」そのものだ。 葛城総理が目論む「対・神戦争」。その意味が、恐ろしいほどの解像度で理解できてきた。



数時間後。 地上への逆侵攻作戦の準備が整った。 メンバーは私、食卓の騎士団(アーサー、ランスロット、ガラハッド)、二代目親方イグニス、そして案内役のスカーレット大臣。


準備はいいか、野郎ども! イグニスがガンテツ親方のヘルメットを叩いて気合を入れる。 彼の背中には、親方が使っていた巨大ツルハシが背負われている。


問題ありません。……有給休暇を取り消された怒りを、全て敵にぶつけます。 アーサーが殺気立った目で剣を点検する。


では、行きましょう。


私たちは、ネット大臣が修理した業務用エレベーターに乗り込み、地上を目指した。 ガガガガ……。 重い駆動音と共にエレベーターが上昇する。 地下深くから、地上の光へ。


チン。 扉が開くと、そこは先日制圧したスラム街《灰色の市街地》の外れだった。 かつては薄暗い曇り空が広がっていた場所だ。


だが、エレベーターから降り立った私は、空を見上げて絶句した。


……な、何よ、あれ。


空が、割れていた。 いや、雲の切れ間ではない。 青空の一部が正方形に欠落し、その向こう側に「黒い格子状の空間ワイヤーフレーム」が剥き出しになっていたのだ。 まるで、ゲームのテクスチャが読み込めずにバグった画面のように。 空の一部が【表示エラー】を起こしている。


空が……変ですね。妙に四角い雲が多い気がします。 アーサーが怪訝そうに眉をひそめる。


雲? あれが雲に見えるの?


ええ。少し不自然な形ですが……ただの雲でしょう? ランスロットも首を傾げる。


(……見えていないの?)


私は戦慄した。 彼らNPC(住人)の認識フィルタでは、あれはただの「変な気象現象」にしか見えていないのだ。 だが、転生者である私にははっきりと見える。 この世界の「外壁」が剥がれ落ち、データの裏側が露出している光景が。


世界が……壊れ始めている。 新魔王軍(現実世界)の侵食により、このファンタジー世界の容量メモリが限界を迎えているのだ。


おい、あれを見ろ。 スカーレットがキセルで前方を指した。


地平線の彼方に、禍々しい要塞がそびえ立っていた。 かつて聖女が管理していた聖域。 今は、新魔王軍の本拠地となっている場所だ。


でも、あれは……城じゃないわ。


私は目を凝らした。 遠目には城に見えるが、その壁面は石材ではなく、無数の「サーバーラック」と「冷却パイプ」で構成されていた。 ファンタジーの城郭と、現実のデータセンターが悪魔合体したような、異様な建造物。


あそこが、新魔王軍の本拠地……《バベル・サーバー》よ。 スカーレットが忌々しげに言う。


あの中に、地上を汚染する毒の発生源も、アイゼンのような兵器の生産ラインも、全てがあるわ。


上等です。 私はアタッシュケースを握りしめた。


あそこを制圧し、この世界のバグを修正デバッグします。 ……総員、突撃準備!


イエス・マム!!


私たちは、バグり始めた空の下、異形の要塞へと足を踏み出した。 ここから先は、剣と魔法だけでは戦えない。 現実と虚構が入り混じる、狂った戦場の幕開けだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ