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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第70話 亡き友の薬と、鋼鉄の逃亡者

カルテとイチヨウ、二人の大臣の遺体が横たわる病室を背に、私は走っていた。 手には、カルテが命を削って精製し、イチヨウが最期まで守り抜いた解毒剤の小瓶。


(泣いている暇はない。……この薬を、浄水プラントへ!)


私の頬には涙が乾いた跡があったが、足は止めなかった。 彼女たちの「意地」を、無駄にするわけにはいかない。



【地下帝国・第1浄水プラント】


「急いで! 毒が回る前に!」


私は食卓の騎士団と共に、プラントの中枢へ飛び込んだ。 だが、ろ過装置の前には、異様な巨影が立ちはだかっていた。


「ピー、ガガッ。……生体反応多数。排除プロセスを開始」


それは、全身を重厚な機械装甲で覆った、身長3メートルを超える鋼鉄の魔人だった。 新魔王軍四天王・機甲のアイゼン。 彼の背中からは蒸気が噴き出し、右腕は巨大なパイルバンカーに変形している。


「ここは通行止めだ。……おや? その小瓶は解毒剤か。無駄なことを」


アイゼンが無機質な声で告げる。


「このプラントの制御権は我々が掌握した。貴様らが何をしようと、毒の散布は止まらない」


「止めさせるわ。……この薬は、二人の大臣の命そのものなのよ!」


私はアタッシュケースから、ネット大臣が開発した「対装甲ハッキング・デバイス」を取り出した。


「騎士団! 彼の動きを止めて! 私がシステムを取り返す時間を稼ぐ!」


「イエス・マム!!」


アーサーとランスロットが左右に展開する。


「邪魔だ、鉄クズ!」 アーサーが斬りかかるが、アイゼンの装甲は魔法障壁でコーティングされていた。 カィィン! 剣が弾かれる。


「硬い……! 物理も魔法も通じない!?」


「ククク。旧式のアナログ攻撃など効かん。消えろ」


ドォォォン!! アイゼンのパイルバンカーが炸裂する。 衝撃波だけでガラハッドの盾がひしゃげ、騎士たちが吹き飛ばされる。 圧倒的な火力と防御力。これが新魔王軍の技術力か。


「……チェックメイトだ」


アイゼンが私に照準を合わせる。 だが、その時。


『――させるかよ、ポンコツOSが!』


私の通信機から、科学技術大臣ネットの声が響いた。 同時に、プラント内の照明が一斉に赤く明滅し、アイゼンの動作がカクついた。


「な、なんだ……!? 処理落ち(ラグ)……!?」


『へへっ! アイツらの弔い合戦だ! 僕の特製ウイルス【超重量級スパム】を食らえ!』


ネットが遠隔で電子戦を仕掛けたのだ。 アイゼンの動きが鈍る。


「システム……エラー……! 貴様ら、ハッキングを……!?」


「今よ、アーサー! 装甲の隙間、動力炉を狙って!」


「了解!!」


アーサーがネクタイを外し、全魔力を剣に込める。 亡き大臣たちの無念と、社畜の怒りを乗せた一撃。


「お客様! ……当社のインフラを汚すことは、規約違反ですッ!!」


《社畜剣技・強制初期化ハードウェア・リセット》!!


ズドォォォォン!! アーサーの剣が、動作の止まったアイゼンの胸部装甲を貫き、内部の動力炉を粉砕した。


「ガ、アァァァァッ!? 動力……停止……! 臨界点……突破……!」


アイゼンの巨体から黒煙が噴き出し、激しいスパークが走る。 勝った。誰もがそう思った。


「……見事だ、人間。まさか、ハードウェアごと破壊されるとはな」


崩れ落ちるアイゼンの体内から、不気味な声が響く。


「だが、この【ボディ】は所詮ただの器。……我の本質は、データそのものだ!」


シュバッ!!


爆発寸前のアイゼンの首が、突如として胴体から分離した。 そして、首の底面から青いバーニア炎が噴射され、ロケットのように垂直上昇したのだ。


「なっ……!? 首が飛んだ!?」


緊急脱出エジェクト。……貴様らの戦力データは頂いた。この借りは、必ず返すぞ!」


アイゼンの首(頭部ユニット)が、空中で変形し、飛行形態となる。 その技術力は、魔法ファンタジーの域を完全に逸脱していた。


「待て! 逃がすかぁ!」


ランスロットが跳躍するが、アイゼンの首はマッハの速度で加速し、排気ダクトの中へと消えていった。 致命傷を与えたはずが、常識外れのテクノロジーで逃げられたのだ。


「……速すぎる。あんな推進システム、見たことないわ」


私は歯噛みしたが、すぐに気持ちを切り替えた。 今は、逃げた敵より目の前の使命だ。


私は制御パネルに駆け寄り、ろ過装置の投入口を開けた。 カルテとイチヨウの想いが詰まった小瓶。その蓋を開け、中身を注ぎ込む。


「お願い……届いて!」


青い液体が水流に混ざり、浄水システム全体へと拡散していく。 数秒後、モニターの数値が【水質汚染:危険】から【安全】へと切り替わった。


『……確認したよ。毒素の中和、完了だ』


ネットの声が震えていた。 その場にいた全員が、その場に崩れ落ちるように安堵した。


守れた。 水源は、彼女たちの命と引き換えに守られたのだ。


「……帰りましょう」

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