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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第69話 劇薬のキスと、二つの星の墜落

病室は、血と薬品の混じった異臭に包まれていた。


グググ……! 生意気な女だ!


新魔王軍四天王・変幻のザイードが、その肉体を不定形のスライム状に変形させ、カルテに襲いかかる。 彼の狙いは、ベッドで昏睡状態にある財務大臣イチヨウだ。


させるもんですか!


カルテは白衣を翻し、イチヨウのベッドの前に立ちふさがった。 彼女は手にしたメスと薬品瓶を乱れ投げ、ザイードを牽制する。


無駄だ! 物理も魔法も、俺には効かん!


ザイードの身体の一部が鞭のようにしなり、カルテを壁に叩きつける。 ドガッ! カルテが喀血する。 衝撃で部屋の機材が火花を散らし、イチヨウの生命維持装置が嫌な警告音を上げ始めた。


あ……! 維持装置が……!


カルテが青ざめる。 イチヨウは今、魔力を使い果たして仮死状態だ。この装置が止まれば、彼女の命は数分ともたない。


ククク、貴様が守ろうとしているその女も、もう終わりだ! まとめて喰らってやる!


ザイードが巨大な口を開け、イチヨウごとカルテを飲み込もうと迫る。 カルテは迷わなかった。 彼女は懐から一本の注射器を取り出し、迷わず自分の首筋に突き立てた。


患者イチヨウには……指一本触れさせないわ。


プシュッ。 注入されたのは、彼女自身の血液を猛毒に変える禁断の術式。


《カクテル・デス・パレード》


ザイードが覆いかかり、カルテをその粘液の中に飲み込んだ。 捕食完了。 ザイードが勝利を確信した、その瞬間。


ゴボッ……!?


ザイードの動きが止まった。 彼の体が、内側から紫色に変色し、激しく痙攣し始めたのだ。


ガ、ア……!? な、なんだ……体が……溶ける……!?


私の味は、どうかしら?


ザイードの体内から、カルテの静かな声が響く。


貴様……俺の中で何を……!?


私自身を【猛毒】に変えたのよ。 ……あなたは私を消化できない。私があなたを細胞レベルで壊死させるから。


な、にぃ……!?


ザイードの細胞が連鎖的に崩壊を始める。 彼はカルテを吐き出そうとするが、毒の回りが早すぎる。 カルテという劇薬を取り込んだ時点で、彼の敗北は決まっていたのだ。


離せ……! 出て行けぇぇッ!!


ザイードが絶叫し、ドロドロに溶けた肉塊となって床に崩れ落ちた。 新魔王軍の幹部は、自らの能力を逆手に取られ、消滅した。


後に残ったのは、赤黒いシミと……ボロボロになった白衣の女性、カルテだけだった。 彼女は床に倒れ伏し、荒い息をついていた。 全身が紫色に変色している。自分自身を毒に変えた代償。それは確実な死だった。


……ふぅ。害虫駆除、完了ね。


カルテは震える手で、ポケットから小さな小瓶を取り出した。 ザイードの核から精製した、地下水の解毒剤だ。 彼女は這いずりながら、イチヨウのベッドへと近づいた。


イチヨウ……。起きて。 薬、できたわよ……。


カルテの手が、ベッドのシーツを掴む。 しかし、返事はない。 生命維持装置のモニターは、無情にも【心停止】を示していた。 戦闘の衝撃で電源が断たれた装置は、イチヨウの僅かな余命すらも奪い去っていたのだ。


あ……あぁ……。


カルテの目から涙が溢れ出す。 守りきったはずだった。 命と引き換えにしてでも、彼女だけは生かそうとしたのに。


ごめんね……イチヨウ。 私、ヤブ医者だったみたい……。


カルテは、イチヨウの冷たくなった手に、解毒剤の小瓶を握らせた。 そして、そのままベッドの脇に力尽き、静かに息を引き取った。


……


静寂に包まれた病室。 そこには、二人の大臣の遺体だけが残されていた。


数分後。 私、コーデリアが病室に飛び込んだ時には、もう全てが終わっていた。


カルテ! イチヨウさん!


返事はなかった。 カルテはイチヨウの手を握りしめたまま事切れており、イチヨウは眠るように安らかな顔で亡くなっていた。 ガンテツ親方に続き、この国の頭脳と心臓までもが、失われてしまった。


……っ、うぅ……!


私はその場に崩れ落ちた。 イチヨウの手に握られた小瓶――解毒剤だけが、希望の光として残されていた。


彼女たちは命を懸けて、この薬と、国を守った。 イチヨウさんは守られた。でも、その命を繋ぎ止める鎖は、あまりにも脆かった。


……行きましょう。


私は涙を拭い、イチヨウの手から解毒剤を受け取った。 二人の体温はもうない。 だが、その意志は熱く、私の掌に残っている。


この薬を水源に撒くわ。 ……それが、彼女たちへの唯一の弔いよ。

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