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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第67話 継承されるヘルメットと、灼熱の溶接工

戦いの爪痕は深かった。 新魔王軍の撃退には成功したものの、ガンテツ親方が身を挺して守った第1トンネルは完全に崩落。 地下帝国の玄関口は瓦礫の山となり、物流も防衛機能も麻痺していた。


おい! ここの支柱、角度がズレてるぞ! あっちの地盤も緩んでる! 早く補強材を持ってこい!


国土交通省・第1土木課の現場は混乱を極めていた。 これまではガンテツ親方が、その経験と勘で全ての工程を指示していた。 だが、その柱を失った今、ドワーフたちも元四天王たちも、どう動けばいいのか分からず、右往左往していた。


くそっ……! 親方なら、一目で弱点を見抜いて指示を出せたのに……!


炎のイグニスは、煤けた顔で瓦礫を殴りつけた。 彼の魔法は強力だが、建設現場では「破壊」になりかねない。 繊細なコントロールが必要な場面で、彼は己の無力さを痛感していた。


これじゃあ、次の襲撃までに壁が直らねえ……。


現場に絶望的な空気が漂い始めた時、瓦礫の下からキラリと光るものが見えた。 イグニスが駆け寄って掘り起こすと、それはガンテツ親方が愛用していた**【傷だらけのヘルメット】**だった。 内側には、汚い字でこう書かれている。


『安全第一。死ぬな、生きろ』


イグニスの手が震える。 親方は、死にたくて死んだんじゃない。 俺たちを生かすために、自分が盾になったんだ。


イグニスさん。


背後から声をかけたのは、私、コーデリアだった。 私はイチヨウ大臣から引き継いだ黒革の手帳を抱え、彼を見つめた。


悲しんでいる暇はありません。 壁が直らなければ、次は帝国の住民たちが死にます。 ……誰かが、指揮を執らなければならないのよ。


誰がやるんだよ! イグニスが叫ぶ。


ドワーフのベテラン連中は頭が固いし、俺たち四天王は土木の素人だ! 親方の代わりなんて、誰にも務まらねえよ!


ええ。親方の代わりはいません。 でも……親方の【意志】を継ぐことはできるはずです。


私はイグニスの手にあるヘルメットを指差した。


あなたは炎の四天王。 すべてを燃やし尽くすその火力……使い方を変えれば、最強の【創造の炎】になるんじゃないかしら?


創造の……炎?


思い出してください。親方の背中を。 彼は魔法を使わずとも、熱いハートで現場を動かしていました。 あなたにも、その熱があるはずです。


イグニスはハッとして、自分の手を見た。 かつては人を殺すために使っていた炎。 だが、この地下で親方と共に働き、鉄を溶かし、仲間と汗を流した日々。 その中で、炎の質は変わっていたはずだ。


……ああ、そうだな。


イグニスはゆっくりと立ち上がり、ガンテツのヘルメットを被った。 サイズは少し小さいが、魂はぴったりとハマった。


おい野郎ども! 聞けェェッ!


イグニスの怒号が現場に響き渡る。 ドワーフたち、アース、アクア、ウィンドの手が止まり、彼を見る。


今日から俺が現場監督だ! 文句ある奴は前に出ろ! 焼き尽くしてやる!


なっ……新入りが生意気な! ドワーフの一人が噛み付こうとするが、イグニスは指先から青白い炎を出した。 それは破壊の炎ではない。極限まで圧縮された、切断と溶接のための【加工炎】だ。


アース! お前は土魔法で基礎を固めろ! 強度は親方の基準を守れ! アクア! 冷却水を循環させろ! 1秒も遅れるな! ウィンド! 粉塵を飛ばせ! 視界を確保しろ! そしてドワーフの皆さんは、俺の炎に合わせて鉄骨を組んでくれ!


イグニスは瓦礫の山に飛び乗った。


俺が見せてやるよ! 四天王流・超高速土木工事をなッ!


《四天王奥義・プロミネンス溶接ウェルディング》!


イグニスの両手から放たれたレーザーのような炎が、瞬時に崩れた鉄骨を溶かし、繋ぎ合わせていく。 その精度はミリ単位。速度は神速。 ガンテツ親方の豪快さとは違う、元エリート魔族ならではの緻密で完璧な仕事だった。


す、すげぇ……! 鉄が飴細工みてぇだ! これならイケるぞ!


ドワーフたちが歓声を上げ、動き出す。 現場に活気が戻った。いや、以前よりも熱く、激しい【連帯感】が生まれていた。


フッ……。単純な男たちね。


現場の様子を見ていたスカーレット大臣が、瓦礫の陰から現れ、煙管を吹かした。


泥臭いのは嫌いだけど……悪くない眺めだわ。


スカーレット様。偵察任務、お疲れ様でした。 私は彼女に向き直る。


ええ。敵の動きを探ってきたわ。 ……悪い知らせよ。新魔王軍は、次の手を打ってきている。


次の手?


ヴァーミリオンは撤退したんじゃない。 彼らは地下の水脈に、魔界の**【腐敗毒】**を流し込んだわ。 このままだと、数日以内に地下帝国の水源は全滅。飲み水も、農業用水も、全て死の毒水に変わる。


なっ……!? 私が絶句する。 壁を直しても、内部から干上がらせるつもりか。なんて卑劣な。


解毒剤はあるんですか?


一般の解毒魔法じゃ無理ね。 中和するには、地上にある【聖女の泉】の湧き水が必要よ。 ……でも、そこは今、新魔王軍の制圧下にあるわ。


詰んだ、と言いたげなスカーレット。 だが、私はすぐに計算を始めた。 水がなければ、エルフの農場も、カルテの病院も、そしてイグニスたちの冷却水も止まる。 これは国家存亡の危機だ。


取りに行きましょう。


私はアタッシュケースを握りしめた。


聖女の泉だろうが魔王城だろうが、必要なリソースなら現地調達するだけです。 ……スカーレット様、案内をお願いできますか?


あら、私を使う気? 高いわよ?


経費(予算)なら、私が捻出します。 ……イチヨウ大臣が残してくれたこの国を、毒なんかで死なせはしませんから。


私の目を見て、スカーレットは面白そうに笑った。


いいわ。乗った。 ……新人のくせに、いい面構えになったじゃない。


こうして、新たなミッションが決まった。 壁の修復は二代目親方イグニスに任せ、私は少数精鋭で地上の敵地へ潜入し、水を奪還する。 メンバーは食卓の騎士団、そして案内役のスカーレット。


待っていなさい、新魔王軍。 弊社のインフラに手を出した代償、高くつかせてやるわ。

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