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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第65話 血塗られた引継ぎ事項と、黒字倒産の危機

ガンテツ大臣が命を賭して築いた「鉄壁の遮断壁」。 その向こう側からは、依然として新魔王軍の攻撃音が響き続けていた。


ドォン! ドォン! 壁が震えるたびに、地下帝国の天井からパラパラと砂が落ちる。


「泣くな! 手を動かせェェ!!」


第1土木課の現場。 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたイグニスが、炎の溶接バーナーを握りしめて叫んでいた。


「親方が作ってくれた時間だ! 1秒たりとも無駄にするな! この壁をさらに補強し、迎撃用の砲台を設置するんだ!」


「お、おうよ! 親方の墓標(壁)に傷なんかつけさせてたまるか!」


アースが土壁を練り上げ、アクアが冷却水を回し、ウィンドが換気を行う。 かつては敵同士だった元四天王とドワーフたちが、今は一つの生き物のように連携していた。 そこには、亡き親方から叩き込まれた「職人魂(プロ意識)」だけが燃えていた。



【厚生労働省・集中治療室】


「……ひどい損傷ね」


カルテ大臣は、搬送されてきた負傷者たち――スカーレット配下の諜報員や、前線の警備兵たちを治療していた。 だが、その手つきはいつものような「楽しげな解剖」ではない。 機械的で、焦燥感に満ちていた。


「カルテ様。……薬品の在庫が切れそうです」 看護師(ドワーフの女性)が報告する。


「イチヨウに請求しなさい。……言っても無駄でしょうけど」


カルテは血のついた手袋を外し、ゴミ箱へ投げ捨てた。 彼女は、部屋の奥で静かに明滅しているモニターを見つめた。 そこには、昏睡状態のゼクスたちのデータと、そしてもう一つ――**「財務大臣イチヨウ」**の生体データが表示されていた。


「……馬鹿な人。これじゃあ、決算期(寿命)までもたないじゃない」


モニターの警告音が、死へのカウントダウンのように冷たく響いていた。



【財務省・大臣執務室】


私は、イチヨウ大臣の執務室を訪れていた。 追加予算の申請ではない。彼女の安否を確認するためだ。


「失礼します」


返事はない。 重い扉を開けると、そこには床に散らばった書類の海の中で、机に突っ伏しているイチヨウの姿があった。


「イチヨウ大臣!?」


私は駆け寄り、彼女の肩を抱いた。 軽い。羽毛のように軽い。 着物の上からでも分かるほど、彼女の体は痩せ細り、熱を失っていた。


「……なんや、騒がしいな。……少し、仮眠をとっていただけや」


イチヨウが薄く目を開ける。 その口元は鮮血で染まり、背中の「黄金の算盤」は完全に光を失い、ただの鉛の塊になっていた。


「嘘をおっしゃらないでください! あなたのライフ(予算)はもうゼロです! これ以上能力を使えば……」


「……使わな、国が死ぬ」


イチヨウは私の腕を振り払い、震える手で筆を執った。 彼女が向き合っているのは、血の手形で汚れた**「裏国家・特別会計台帳」**。


「ガンテツの阿呆が逝ってしもうた。……あいつの作った壁を維持するには、土木課への魔力供給を今の3倍にせんとあかん。……そしたら、次は医療費が足りんようになる」


彼女は喀血しながら、数字を書き殴る。 自分の命を削り、魔力に変え、それを各部署へ「配当」としてばら撒く。 それが、この国の財務大臣の仕事。


「どうして……どうしてそこまで? 総理の計画が、私たちを使い潰すものだと知っているのに!」


私は叫んだ。 こんなの、あまりにも報われない。


イチヨウは筆を止め、静かに私を見上げた。 その瞳には、諦念と、微かな誇りが宿っていた。


「……総理のためやない。この地下におる、何万もの国民(社員)のためや」


彼女は窓の外、薄暗い地下街の灯りを見た。


「あそこにはな、地上を追われた者、行き場のない者たちが暮らしてんのや。……ここが潰れたら、あの子らはどこへ行けばええ? 総理が極悪人でも、この会社(国)があの子らの唯一の居場所なんや」


彼女は、母のような顔で微笑んだ。


「やから、ウチが守る。……最後の1円(命)までな」


「イチヨウさん……」


彼女は懐から、一冊の黒革の手帳と、重厚な鍵を取り出した。 そして、それを私の手に押し付けた。


「……コーデリア。これを持っとき」


「これは?」


「**『裏帳簿』と『第二金庫の鍵』**や。……ウチになんかあったら、あんたが引き継ぎなはれ」


「なっ……!? 私に財務大臣を代行しろと!?」


「あんたならできる。……あの時、ウチにカチコミかけてきた度胸と、数字への執着。……合格点や」


イチヨウは激しく咳き込み、椅子に深々と体を預けた。


「頼んだえ。……この国を、黒字倒産させるなよ……」


その言葉を最後に、彼女の意識が途切れた。 死んではいない。だが、深い昏睡状態だ。魔力の使いすぎによる「枯渇」。 カルテの元へ運んでも、回復するかは分からない。


「……っ」


私は黒革の手帳を握りしめた。 重い。 金貨の重みではない。一人の女性が命を削って守り抜こうとした、国家の重みだ。


(……引き受けましたよ、クソ上司)


私は涙を拭わず、立ち上がった。 感傷に浸っている暇はない。外では新魔王軍が、壁を破ろうとしている。



【裏国家本部・大会議室】


「緊急招集!」


私が会議室の扉を開けると、サキョウ長官、スカーレット、ネット、カルテ、そしてミナ&マナが集まっていた。 皆、イチヨウが倒れた報告を聞き、沈痛な面持ちだ。


「イチヨウ大臣は戦線離脱。ガンテツ大臣は殉職。……我が国の経済と防衛は崩壊寸前だ」 サキョウが苦渋の表情で告げる。


「敵の攻撃は激化している。このままでは、壁が破られるのも時間の問題だ」


「どうする? 撤退するか?」 ネットが弱気な発言をする。


「逃げ場なんてないわよ。……やるしかないわ」 スカーレットがキセルをへし折る。


議論が紛糾する中、私はテーブルの上に、イチヨウから託された**「第二金庫の鍵」**を叩きつけた。


「……逃げません。そして、負けません」


全員の視線が私に集まる。


「本日ただいまより、私が**『財務大臣代行』**として、全予算の指揮権を掌握します」


「なっ……!? 新人が何を!」 ネットが反論しようとするが、サキョウがそれを制した。


「……イチヨウの指名か。よかろう、認めよう」


私はホワイトボードの前に立ち、作戦図を描き殴った。


「現時刻をもって、防衛方針を変更します。……専守防衛は中止。『積極的買収カウンター』に移行します」


「買収だと?」


「ええ。敵は強大ですが、所詮は『軍隊』です。……補給線があり、指揮系統があり、そして**『欲望』**がある」


私はニヤリと笑った。 イチヨウが命懸けで残してくれた「隠し資産」。そして、私がスカウトした亜人たちの「技術」。 これらを組み合わせれば、戦況をひっくり返せる。


「食卓の騎士団、および特務部隊へ通達! これより、新魔王軍に対し**『敵対的TOB(殴り込み)』**をかけます!」


「資源も、人材も、敵の命さえも……全て我が国の利益(黒字)に変えてやりましょう」

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