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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第62話 魔のプレゼンテーションと、命を削るトマト

翌朝。財務省の重厚な鉄扉の前には、異様な集団が整列していた。 私、コーデリアを先頭に、食卓の騎士団、そしてボロボロの衣服を纏った50名の亜人たち。


「いいですか、皆さん。これから会うのは、この国で一番『金』にうるさい鉄の女です」


私は亜人のリーダーたち――狼獣人のボルグ、エルフの長老、ドワーフの親方に念を押した。


「ですが、怯む必要はありません。あなたたちには『技術スキル』がある。堂々と振る舞ってください」


「お、おう……。でもよ、本当に人間が俺たちの話を聞くのか?」 ボルグが不安げに尻尾を丸める。


「聞かせます。……物理と論理の両面で」


私はアタッシュケースを開き、分厚いファイルを片手に、鉄扉を蹴り開けた。


「失礼します! **『新規事業計画書』**の提出に参りました!」



執務室の空気は、昨日以上に凍てついていた。 財務大臣イチヨウは、咳き込みながら書類の山と格闘していた。彼女の顔色は土気色で、机の上には半分残したカップ麺が冷え切っている。


「……またあんたか。今日は何の用どす?」


イチヨウは顔も上げずに言った。


「本日は、我が国の慢性的なリソース不足を解決する、画期的なソリューションをお持ちしました」


私は合図を送る。 ぞろぞろと入室してくる亜人たちを見て、イチヨウの手が止まった。


「……汚い恰好やな。廃棄区画の不法占拠者どすか? 排除命令を出したはずやけど」


チャキリ。 彼女が背負った黄金の算盤が変形し、戦闘態勢に入る。 ボルグたちが殺気に当てられ、「ひっ」と後ずさる。


「排除? とんでもない。彼らは本日付けで私が採用した**『高度専門職スペシャリスト』**です」


私は一歩前に出て、イチヨウの視線を遮った。


「彼らを正規雇用し、各省庁に配属することで、我が国の生産性は劇的に向上します。つきましては、彼ら50名分の**『人件費』と『設備投資予算』**を承認してください」


「……寝言は寝て言え」


イチヨウの目が冷たく光る。


「どこの馬の骨とも知れん連中に払う金はない。それに、異種族を入れたら現場が混乱する。……リスク管理もできんのか、新人は」


「リスク? いいえ、これは**『先行投資』**です」


私は不敵に笑い、エルフの長老に目配せをした。


「長老。……見せてあげて」


「う、うむ」


エルフの長老がおずおずと前に進み、イチヨウのデスクの上に「枯れた観葉植物」の鉢植えがあるのを見つけた。 彼はその鉢に手をかざし、静かに詠唱する。


《精霊魔法・豊穣の息吹》


ボウッ! 枯れていた植物が一瞬で緑を取り戻し、さらには真っ赤な実――トマトのような果実をたわわに実らせた。 部屋の中に、瑞々しい土と野菜の香りが広がる。


「な……っ!?」


イチヨウが目を見開く。 地下帝国では、新鮮な野菜は金以上の価値がある。太陽がないため、魔法による育成しか手段がないが、それには莫大な魔力コストがかかるからだ。


「彼らエルフ族の魔法を使えば、地下農場の生産効率は300%向上します。……そして、これだけではありません」


次はドワーフの親方だ。 彼はイチヨウの背後にある、故障して火花を散らしている空調魔導具に近づいた。


「ふん。配線がイカれてやがる。……貸してみな」


ドワーフは工具も使わず、バン! と魔導具を叩き、素手で配線を繋ぎ直した。 ブゥゥゥン……。 異音を立てていた空調が、静かで滑らかな稼働音を取り戻す。


「科学技術省のネット大臣に修理を頼めば、高額な技術料を請求されますが……彼らなら、現場の廃材だけで直せます」


最後に、獣人のボルグ。 彼は部屋の隅に山積みになっていた「未処理の伝票」の山(高さ2メートル)を一瞬で持ち上げた。


「俺たちの脚力なら、このビルの最上階から地下最下層まで、5分で荷物を運べるぜ」


「物流コストの削減、および業務効率化」


私は畳みかけるように、イチヨウの目の前に「試算表」を叩きつけた。


「彼らを雇えば、初年度だけで金貨5,000枚のコストカットが見込めます。対して、彼らの人件費は金貨500枚。……差し引き4,500枚の黒字です」


私は机に手をつき、イチヨウの顔を覗き込んだ。


「どうですか、財務大臣? この『金の卵』をみすみす逃しますか?」


イチヨウはしばらく沈黙していた。 彼女は震える手で、エルフが実らせたトマトを一つもぎ取り、口へと運んだ。


シャクッ。


瑞々しい音。 口いっぱいに広がる甘味と、凝縮されたマナ。 それは、カップ麺とサプリメントで命を繋いでいた彼女にとって、劇薬のような生命の味だった。


「…………」


イチヨウの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。 彼女は慌ててそれを拭い、片眼鏡を直した。


「……美味いな」


「ええ。彼らが丹精込めて育てた命ですから」


「……分かった」


イチヨウは懐から決裁印を取り出した。 そして、私の提出した「新規事業計画書」に、力強く、バンッ! と捺印した。


「承認したる。……ただし!」


彼女は鋭い目で私を射抜いた。


「彼らの管理責任者はあんたや。もし問題を起こしたら、あんたの首を飛ばす。……それと」


彼女はトマトをもう一つもぎ取り、愛おしそうに眺めた。


「このトマト……毎日、私のデスクに届けること。……これが条件や」


「契約成立ですね」


私はニヤリと笑った。 この鉄の女も、やはり飢えていたのだ。本物の「生」に。



「よし! 全員、仕事にかかれ!」


予算を獲得した私たちは、直ちに行動を開始した。


【国土交通省・第1土木課】


「おう、新入りか! 使えるんだろうな?」


ガンテツ大臣の現場に、ドワーフ族と元四天王イグニスたちが並ぶ。 最初は睨み合っていたが、作業が始まると空気が変わった。


「おい炎の兄ちゃん! そこ溶接頼む!」 「おうよ! 任せろ!」 「へへっ、いい腕だ! 気に入ったぜ!」


土木魔法のプロである元四天王と、精密加工のプロであるドワーフ族。 両者の技術が噛み合い、トンネル工事の進捗は爆発的に加速した。


【厚生労働省・衛生管理課】


「まあ♡ 珍しい身体構造ね」


カルテ大臣は、獣人たちのしなやかな筋肉を見て目を輝かせていたが、彼らがテキパキと医療物資を搬送する姿を見て、考えを改めたようだ。


「解剖するのは後回しにしてあげる。……あなたたちのおかげで、薬品の在庫管理が楽になったわ」


【第99区画・新区画】


エルフたちは、広大な地下空洞を「農場」へと変貌させていた。 キノコの光に照らされた緑の畑。 そこで採れた野菜は、食糧難にあえぐ地下帝国の住民たちに配給され、皆に笑顔が戻りつつあった。



数日後。 私は、寮の自室で「給与明細」を確認していた。


【支給額:金貨5枚(約50,000円)】


「……ふぅ。まだ少ないけど、銀貨3枚よりはマシね」


手取りが増えた。 それは、私が勝ち取った「役職手当(人事部長代行)」と、各省庁からの「業務改善ボーナス」のおかげだ。


「係長! 見てください!」


アーサーが興奮して部屋に入ってきた。 彼の手には、ドワーフたちが打った新品の剣と、エルフたちが織った強化繊維のローブが握られていた。


「装備が更新されました! これで、本来のスペックの30%くらいは出せそうです!」


「よかったわね。……でも、油断しないで」


私は窓の外、活気づく地下帝国の街並みを見下ろした。


「組織が大きくなれば、必ず『歪み』が生まれる。……そして、それを面白く思わない連中も出てくるわ」


私の予感は的中していた。 ビルの最上階、総理の執務室のさらに奥。 そこでは、私たちの急速な勢力拡大を冷ややかに見つめる「影」が動き出していたのだ。


「……調子に乗るなよ、新人」


モニター越しに呟く、フードを被った男――科学技術大臣ネット。 彼の指が、キーボードに「排除プログラム」を打ち込んでいた。

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