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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章:現実世界侵攻 編

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第59話 無法地帯への出張営業と、コンプライアンス執行

「――君たちへの次なる業務命令タスクだ」


翌日。官房長官サキョウは、地図上の薄暗いエリアを指し示した。 そこは地下帝国と地上の境界にある、無法のスラム街**《灰色の市街地グレー・ゾーン》**。


「最近、このエリアで粗悪な**『違法魔薬ジャンク・ポーション』**が出回っている。服用した者を狂暴化させ、死ぬまで暴れさせる劇薬だ」


サキョウは眉をひそめた。


「我が国にとって、労働力(国民)は貴重な資源だ。それを使い潰すような害悪は看過できん。……よって、流通ルートを特定し、組織を壊滅させよ」


「はっ。……担当官は?」 アーサーが尋ねる。


「私よん」


紫煙と共に現れたのは、深紅のスーツを着崩した美女、スカーレット大臣だった。 彼女は長いキセルをふかし、私たちを値踏みするように見下ろした。


「あらあら、昨日カルテに血を抜かれたばかりでしょう? 使い物になるのかしら、このボロ雑巾たちは」


「ご心配なく。……『連勤』には慣れていますので」 ランスロットがうつろな目で答える。


「ウフフ、頼もしいこと。じゃあ行くわよ。……私の足を引っ張ったら、その綺麗な顔、灰皿にするわよ?」


スカーレットの目が、爬虫類のように細められた。 彼女は諜報・暗殺のプロ。この任務は、私たち新人が「実戦」で使えるかどうかのテストでもあるのだ。



《灰色の市街地》。 そこは、腐った水と鉄錆の臭いが充満する、欲望の掃き溜めだった。 路地裏には目が虚ろな中毒者が座り込み、暴力と略奪が日常茶飯事に行われている。


「……酷いな。治安維持法など存在しないようだ」 ガラハッドが眼鏡を直しながら、周囲を警戒する。


「ここを取り仕切っているのは『マッド・ドッグ』と呼ばれるギャング団よ。彼らが魔薬を売りさばいている」


スカーレットは優雅に歩きながら説明する。襲いかかってくるチンピラがいれば、キセルの一振りで瞬時に首をへし折る。 その動きは洗練されており、確かに「七閣僚」の名に恥じない強さだ。


「さあ、あそこがアジトよ。……どうする? 正面から殴り込む?」 彼女が指差したのは、武装した荒くれ者が守る廃工場だった。


私は首を横に振った。


「いいえ。……ここは**『法人営業』**のスタイルでいきましょう」


「は?」


「総員、身だしなみチェック! ネクタイを締めなさい!」


「「「イエス・マム!」」」


騎士たちが、血と泥にまみれた作業着の襟を正し、ビシッと整列する。 その異様な迫力に、スカーレットが少し引いている。


「……何をする気?」


「これから彼らに、**『退去勧告(物理)』**を行います。……ランスロット、突撃アポイントメントをお願い」


「承知しました。……失礼しまぁぁぁすッ!!」


ドガァァァン!! ランスロットがドアを蹴り破り、爽やかな営業スマイルで工場内に飛び込んだ。


「こんにちは! 本日は皆様に、**『人生の終了』**をご提案に参りました!」


「な、何だテメェら!?」 ギャングたちが慌てて武器を取る。


「まずは名刺交換から! 《千枚名刺・乱れ撃ち》!」


シュパパパパッ! 鋭利な刃物と化した名刺が、ギャングたちの武器を弾き飛ばし、服を壁に縫い付ける。


「次、ガラハッド!」


「はい。――コンプライアンス・チェック(暴力行為の禁止)を行います」


ガラハッドが大盾を構えて突進する。 「オラァ! 死ねぇ!」 ギャングが放った魔法や銃弾は、全て不可視の障壁(六法全書バリア)に弾かれる。


「攻撃的行為を確認。……**『正当防衛』**による鎮圧を許可します」 バゴォン!! 盾の一撃が、ギャングたちをボウリングのピンのように吹き飛ばした。


「な、なんだコイツら!? 騎士か!? いや、作業着だぞ!?」


パニックになる工場内。 最後に、アーサーが静かに歩み出た。


責任者ボスはどこだ。……クレーム対応に来た」


その背後には、地獄の業火のようなオーラ(社畜のストレス)が立ち上っている。 ギャングのボスらしき男が、震えながら奥から出てきた。


「ひぃッ……! く、来るな! これを飲めば俺は無敵だ!」


ボスは紫色の液体――違法魔薬を一気に飲み干した。 ボコボコと筋肉が膨張し、皮膚が裂け、巨大な異形の怪物へと変貌していく。


「グルルルァァァ!! 死ネェェェ!!」


暴走する怪物。 スカーレットが「チッ、面倒ね」とキセルを構えた時、私が彼女を制した。


「スカーレット様、手出しは無用です」


「は? あれは強化個体よ? 新人じゃ荷が重――」


「いいえ。……あれはただの**『クレーマー(理不尽な暴力を振るう客)』**です」


私はアーサーに合図を送る。 アーサーはネクタイを外し、それを剣のように構えた。


「お客様。……当店(我が国)では、暴力行為を固く禁じております」


《社畜剣技・定時退社スラッシュ(一刀両断)》


一閃。 怪物の剛腕が振り下ろされるより速く、アーサーの剣閃がその巨体を斜めに両断した。


「ガ……ァ……?」


怪物が崩れ落ち、元の人間(気絶状態)に戻る。 工場内は静寂に包まれた。 制圧完了まで、わずか3分。


「……ふぅ。業務終了です」 アーサーが汗を拭い、ネクタイを締め直す。


スカーレットは、口を開けて呆然としていたが、すぐに「フン」と鼻を鳴らして笑った。


「……やるじゃない。ボロ雑巾かと思ったけど、意外と**『高機能な雑巾』**だったわね」


「お褒めに預かり光栄です」


私はギャングの事務所から、帳簿と魔薬の在庫リストを押収した。 これを見れば、流通元が分かるはずだ。


「あら? それは私が解析するわ」 スカーレットが手を伸ばすが、私は帳簿を背中に隠した。


「いいえ。これは**『経費精算』**に使いますので、まずは経理を通させていただきます」


「……あざとい新人ね」


スカーレットは苦笑いし、しかしその目には、昨日までのような軽蔑の色は消えていた。 どうやら、第一関門は突破したようだ。


【一方その頃:元四天王の日誌】 場所: 建設予定地 B-4エリア 担当: 水のアクア


「水漏れだー! アクア、止めろ!」 「はいはい、分かってますよ!」


水のアクアは、地下水道のパイプ工事を行っていた。 彼の水魔法は、パイプ内の水流を自在に操り、バルブ無しで止水できるため、現場では重宝されていた。


「しかし……この水、おかしいな」


アクアは、パイプから滲み出る水を指先で舐めた。 普通の地下水ではない。微かに**「魔力を活性化させる成分」**が含まれている。


「まるで、さっき地上で流行ってるって聞いた『魔薬』の原料みてーな……」


アクアは首を傾げたが、ガンテツ親方の「サボるな!」という怒号が飛んできたため、思考を中断して作業に戻った。 彼らが整備しているこの水道網が、実は**「国全体を巨大な錬成陣にするためのパイプライン」**であることに、まだ誰も気づいていない。

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