表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/86

第55話 自宅待機命令と、嵐の前のバケーション

「……負けたわ」


オフィスの中心で、幼女姿のアリスが、悔しそうに唇を噛んでいた。 その隣には、漆黒のスーツを着こなした絶世の美丈夫――真の姿を取り戻した葛城総理が、悠然と立っている。


「約束通り、これからの『世界征服方針』は、わしの案を採用させてもらうぞ。アリス」


「ええ、いいわよ。……あなたの手駒(社畜たち)が、私の作った『無敵』をシステムごと破壊したんだもの。効率オーダーより混沌カオスの方が、外の神を殺すには有効だって認めざるを得ないわ」


アリスは不承不承ながらも、葛城の手を取った。 これで決定だ。 この仮想世界から、創造主がいる「真の現実」への侵攻作戦は、葛城総理主導による**『ドロ臭い総力戦』**で行われることになった。


「では、総理。……私たちも直ちに『外』へ?」


私がアタッシュケースを閉じて尋ねると、葛城は首を横に振った。


「いや。まだ早すぎる」


葛城は、オフィスの窓――赤黒い空が広がる外の景色を見やった。


「わしとお主らがいるこの階層オフィスは、あくまで外の世界への『玄関口』に過ぎん。ここから神の領域へハッキングを仕掛け、侵攻ルート(バックドア)を構築するには、膨大な時間がかかる」


「つまり……?」


「わしとアリスは、ここに残る」


葛城はステッキで床を叩いた。


「この第13開発室を前線基地(司令部)とし、二人で愛を育みながら……いや、喧嘩しながら、外殻を突き破るためのプログラムを組む。その間、お主らには別の任務を与える」


葛城が指を鳴らすと、私たちの足元に転送陣(エレベーターの光)が現れた。


「任務? またデスマーチですか?」 アーサーが身構える。


「逆じゃ。……**『自宅待機』**じゃよ」


「え?」


「侵攻ルートが完成するその時まで、お主らは地下に戻り、英気を養っておけ。……要するに、**無期限の有給休暇バケーション**じゃ」


その言葉に、食卓の騎士たちが「ゆ、有給……!?」と震え上がった。彼らにとって、それは伝説上の概念でしかなかったからだ。


地下ここでの生活環境は保証する。あのホテルも、温泉も、カレーも、好きに使っていい。……その代わり」


葛城の目が、鋭く光った。


「わしが『GO』を出した時は、地獄の底から這い上がり、神の喉笛を食いちぎる『ウィルス』となれ。……よいな?」


それは、恐ろしくも甘美な命令だった。 戦いの時まで、存分にスローライフを謳歌せよ、というのだから。


「……承知いたしました(イエス・ボス)」


私が深く頭を下げると、アリスが少しだけ頬を染めて、そっぽを向いた。


「勘違いしないでよね。……あなたたちを休ませるのは、最高のパフォーマンスを出させるためのメンテナンスなんだから。……精々、美味しいものでも食べて、太っておきなさい」


「ありがとうございます、代表アリスちゃん


私が微笑むと、アリスは「ちゃん付けするな!」と怒ったが、その表情は以前のような冷酷なものではなかった。


ヒュンッ。


光が収束する。 私たちは、司令部となるオフィスに残る二人――に見送られ、下層へと転送された。



「……戻って、来ましたね」


気がつくと、私たちは「地下帝国」の入り口、あのネオン輝く看板の前に立っていた。


【HOTEL ROUTE-INNホテル ルートイン】


懐かしい、出汁の匂いと、空調の音がする。 四天王(アイテム扱いから解放された)たちは、「おえぇ……酷い目にあった……」と地面に這いつくばっているが、生きてはいる。


「係長。……我々は、元の世界(真の現実)には帰れませんでした」


ランスロットが、少し寂しげに空を見上げる。 そこにあるのは、岩盤の天井だ。


「ああ。だが……」 アーサーはネクタイを緩め、どこか晴れやかな顔で笑った。


「希望は繋がった。それに、考えてもみろ。……明日から、目覚まし時計をかけずに眠れるんだぞ?」


その一言が、全員の心に染み渡った。 納期はない。仕様変更もない。魔王も倒した。 次なる指令が下るその日まで、ここは私たちだけの楽園サンクチュアリだ。


「そうですね。……とりあえず」


私は、ルートインの自動ドアを指差した。


「チェックインしましょうか。今日は、大浴場で足を伸ばして……その後は、祝勝会(宴会)よ!」


「「「イエス・マム!!」」」


歓声が地下帝国に響く。 社畜騎士たちはアタッシュケースを放り投げ、四天王たちも「宴会? 酒あるのか!?」と起き上がり、全員でロビーへと雪崩れ込んでいく。


トリスタンのネクタイが、風もないのに少し揺れた気がした。 彼もまた、データの中で笑っているのかもしれない。


これは、長い戦いのほんの「中休み」。 いつか訪れる「神殺し」の日まで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ