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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第54話 無敵のバグと、全会一致の稟議書アタック

「き、貴様ら……! 土足で人の城の床を突き破るとは、何たる無礼!」


魔王がマントを翻し、ワインまみれの玉座から立ち上がった。 さすがはラスボス。その全身から放たれるオーラは、これまで戦ったどのモンスターとも桁が違う。 頭上には、アリス(運営)によって改竄された絶望的なステータスが表示されている。


【魔王ディアボロ:HP ∞ / 防御力 ∞ / 全属性耐性:無効】


「ククク……。勇者よ、あのような小細工でここまで来たことは褒めてやろう。だが、ここが貴様の終着点だ」


魔王が指をパチンと鳴らすと、彼の周囲に**「絶対防御障壁アドミニレータ・シールド」**が展開された。 それは、ゲームのプログラムレベルで「ダメージ計算を行わない」という、チートそのもののバリアだ。


「無駄だぞ。我が身体は、この世界の管理者アリス様によって『無敵』と定義されている。貴様が持つ聖剣とて、我には届か――」


ガギィンッ!!


魔王が喋り終わる前に、私は聖剣をフルスイングで叩き込んでいた。 しかし、手応えは石壁を殴ったように硬い。 魔王の頭上に表示されたダメージは――『0』。


『あはは! 無駄よ、無駄!』


天井(虚空)から、アリスの嘲笑う声が響く。


『言ったでしょ? その魔王は「イベント戦闘」用なの。正規のイベントフラグを全部立てて、長い会話シーンを見て、感動的なBGMが流れるまでは、絶対に倒せない仕様なのよ! RTAなんて認めないわ!』


「だ、そうです」 私は剣を引く。


「フハハハ! 聞こえたか! 貴様らの時短テクニックなど、この『正史』の前では無力!」


魔王が勝ち誇り、巨大な暗黒球を生成し始めた。 食卓の騎士たちが身構える。 「係長、どうしますか!? 物理も魔法も通りません!」


「……ええ。まともにやれば(・・・・・・・)、ね」


私は眼鏡を光らせ、システムウィンドウを開いた。 アリスは完璧主義者だ。だからこそ、彼女の組むプログラムには「整合性」への強いこだわりがある。 そして、強すぎる整合性は、時に致命的な**「矛盾パラドックス」**を生む。


「総員、配置につきなさい。――**『稟議書リンギ』**を回すわよ」


「はっ?」 魔王がキョトンとする。


私は、インベントリから引きずり出した四天王たちに命令を下した。


「イグニス、アクア、ウィンド、アース。あなたたちは元々、この魔王の『身体の一部リソース』から作られた存在ね?」


「あ、ああ……そうだが?」 酔いから冷めたイグニスが答える。


「なら、あなたたちの魔力波長は、魔王の障壁を『味方』として通過できるはず。……全員で、この聖剣に触れなさい」


「はぁ!? 俺たちが勇者の剣に触ったら浄化されちまうぞ!?」


「いいから触るの! 残業手当弾むって言ったでしょ!」


私の怒号に、四天王たちは涙目で聖剣の柄に手を重ねた。 ジジジッ……と彼らの手が焦げる音がするが、無視だ。


「アーサー、ランスロット、ガラハッド! あなたたちは魔王を押さえ込みなさい!」


「了解! 物理拘束ハラスメントですね!」


騎士たちが音速で動き、魔王の四肢を羽交い締めにする。 「なっ、貴様ら離せ! 攻撃は効かんと言っているだろう!」


「攻撃ではありません。**『捺印』**の強要です!」


アーサーたちが魔王を無理やり玉座に座らせ、動けないように固定する。 そこへ、私――勇者(元PM)が、四天王たちの魔力を吸い上げた聖剣を構えて歩み寄る。


「システムロジック、解析開始」


私は脳内で、この世界のダメージ計算式を書き換える。


魔王の定義:「勇者の攻撃以外無効」かつ「配下(四天王)の攻撃はフレンドリーファイアとして無効」。


現状: 勇者の剣に、配下(四天王)の魔力が上乗せされている。


判定: システムは混乱する。


「勇者の攻撃だ! ダメージを通せ!」


「いや、配下の魔力だ! 味方判定(回復orバフ)だ!」


相反する二つの命令が、同時に魔王のコアに叩き込まれる。 するとどうなるか?


【Error: Damage Calculation Overflow】


プラスとマイナスが衝突し、計算式がバグる。 防御力が「無限大」から、一周回って**「マイナス限界突破」**へと反転する瞬間。


「今よ! ――最終奥義《全会一致・強制決裁スタンプ・ラリー》!!」


私は、四天王の手と共に、聖剣を魔王の胸(決裁欄)へと突き立てた。


ズブブブブッ……!!


「ぐ、がぁぁぁぁぁぁッ!?」


「バ、バカな!? なぜ障壁が……貴様ら、まさか……裏切ったのか!?」 魔王が、剣に手を添えている四天王たちを見て絶叫する。


「ち、違います魔王様! これは業務命令で……!」 「俺たち、派遣バイトなんで逆らえないんスよぉぉ!」


四天王たちの悲痛な言い訳と共に、聖剣が深々と突き刺さる。 それは、部下全員から「NO」を突きつけられた上司の末路。


「ダメージ計算、オーバーフロー確認。……さあ、退場ログアウトしてください」


私が剣を捻ると、魔王の身体に亀裂が入った。 傷口から噴き出すのは血ではなく、バグった文字列の羅列。


【Damage: 99999999999...Error】


「お、のれぇぇぇ……! システムが……崩壊……するぅぅぅ……!!」


魔王の断末魔が、ノイズに変わる。 無限のHPが、計算エラーによって一瞬で蒸発した。


「勇者……いや、社畜どもよ……! 貴様らの執念……見事なり……!」


パリンッ。


世界最強のラスボスは、ガラス細工のように砕け散った。 後に残されたのは、静寂と――空中に浮かぶ**【GAME CLEAR】**の文字。


「……ふぅ。お疲れ様でした」


私は聖剣を納め、乱れた髪を直した。 四天王たちは「手が焦げたぁぁ」と泣き喚き、騎士たちは「さすが係長、強引な稟議の通し方だ」と感心している。


『…………嘘でしょ』


天井から、アリスの震える声が降ってきた。


『私の……私の完璧な無敵設定が……。バグ技と、内部不正(四天王の利用)で突破された……?』


「仕様には穴があるものです、代表」


私は虚空に向かって、名刺を掲げた。

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