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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第52話 仕様の穴と、人道的支援(リソース回収)

「うわぁぁん! スライムが怖いよぉ~!」


情けない悲鳴が響く。 勇者ハルト(Lv.1)は、最弱のモンスターであるスライムに追い回され、鼻水を垂らして逃げ惑っていた。


「……あー、もう! イライラする!」 イグニスが頭を抱える。 「なんで俺たちが、あんなガキの尻拭いをしなきゃならねえんだ! さっさと焼き払って経験値吸わせりゃいいだろ!」


「駄目です。ハルト君は『ビビリ属性』持ちです」 ガラハッドが冷徹にステータス画面を分析する。 「強い魔物が近くにいるだけで『恐怖状態』になり、経験値取得効率が90%ダウンします。……つまり、我々が強すぎて逆に成長を阻害しています」


「詰んでるじゃねえか!!」


現場は阿鼻叫喚だった。 残り時間は3日。このペースでは、魔王城にたどり着く頃には、彼は良くてLv.5。魔王のワンパンで塵になる未来しか見えない。


(……効率が悪すぎる)


私、コーデリアは、少し離れた岩陰からその光景を冷ややかに見つめていた。


アーサーたちは必死に「介護」しているが、これは無理だ。 アリス(運営)は、最初からクリアさせる気がない。これは「無理ゲー」を押し付け、私たちが絶望する様を楽しむための嫌がらせだ。


(まともにプレイしていたら、絶対に間に合わない。……なら)


私は、システムメニューを呼び出し、**「ヘルプ」**の項目を高速でスクロールさせた。 探すのは「勇者の定義」と「アイテムの所有権」に関する記述。


かつて私がこの会社のPMだった頃、プログラマーたちが愚痴っていた「バグ報告」の記憶を引っ張り出す。


『あー、黒井さん。勇者が死んだ時の処理、どうします?』 『ああ? 面倒だから**「重要アイテムドロップ」**扱いでいいだろ。次の候補者が拾えば継承ってことで』 『え、それだとPKプレイヤーキルが起きませんか?』 『起きねーよ。仲間が勇者を殺すメリットなんかねえだろ』


(……あったわ。ここに)


私は、口元だけで笑った。 黒井の適当な仕様決定(やっつけ仕事)が、今ここで私の最大の武器になる。


この世界のルールにおいて、「勇者」とは「ハルトという人格」ではない。 **『称号データ:勇者』と『ユニークアイテム:聖剣』**を所持しているオブジェクトのことだ。


そして、このゲームは「フレンドリーファイア(味方への攻撃)」が無効化されていない。 さらには、「重要NPCが死亡した際、キーアイテムはその場にドロップする」という、古臭いMMOの仕様が残っている。


(つまり……ハルト君を殺せば、彼は「勇者」と「聖剣」を落とす)


それを私が拾えばいい。 私が「勇者」になれば、レベル上げ(育成)の時間はゼロ。 私たちが持っている最強のステータスで、聖剣を振り回せるようになる。


「……ごめんね、ハルト君」


私は眼鏡を押し上げた。 そこに罪悪感はない。あるのは「納期クリア」への執念だけだ。


「みなさん、少し下がっていてください。私がハルト君に『特別な指導』をします」


「おっ? さすがコーデリア様!」 「頼みます! 俺たちじゃ手加減が難しくて!」


アーサーたちが安堵して道を空ける。 彼らは知らない。私がこれからしようとしていることが、教育でも介護でもなく、**「処分」**であることを。


私は、笑顔でハルト君に近づいた。


「ハルト君、大丈夫? 怖かったわね」


「お、お姉ちゃん……助けて……」


少年が涙目で私にすがりついてくる。 その無防備な背中。 HPバーは残りわずか。私の指先一つで、簡単にゼロにできる。


(目撃されると面倒ね。……事故に見せかけないと)


私は優しく彼の肩を抱きながら、周囲のマナ(魔力)を密かに操作した。 私のスキル**《食材偽装》**。 対象を「モンスターのエサ」として認識させる、ヘイト誘導スキルだ。


「ハルト君。……あそこの崖の方に、安全な場所があるわ」


「う、うん……」


私は彼を、見通しの悪い崖際へと誘導する。 そして、その背中にそっと手を添え――


《スキル発動:誘引フェロモン(モンスターホイホイ)》


「えっ? なんだか、いい匂いが……」


「さあ、行ってらっしゃい。……次の人生リスポーンへ」


私がトン、と背中を押した瞬間。 崖下から、巨大な「大口食虫植物マンイーター」が飛び出した。私のスキルによって、ハルト君が「極上の肉」に見えているのだ。


「うわああああああ!?」


「きゃあ! ハルト君!?」


私はわざとらしく悲鳴を上げ、しかし**「助けるフリをして、足元の石を崩した」**。


ガガッ! ハルト君の体勢が崩れ、そのまま食虫植物の口の中へとダイブする。


バクンッ。


【System Alert: 勇者ハルトが死亡しました】


無機質なログが流れる。 アーサーたちが「なっ!?」と絶句して駆け寄ってくる。


しかし、そのコンマ数秒前。 私は誰にも見えない速さで、食虫植物の口から吐き出された(ドロップした)**「光り輝く剣」と「勇者の紋章アイテム」**を空中でキャッチし、自分のインベントリ(亜空間)へと放り込んでいた。


「ああっ……! 間に合わなかった……!」


私はその場に膝をつき、悲劇のヒロインのように顔を覆った。 指の隙間から、冷徹な目でシステムログを確認する。


【アイテム獲得:聖剣エクスカリバー】 【称号獲得:勇者(二代目)】 【使用条件クリア:魔王への攻撃が可能になりました】


(計画通り)


アーサーたちが蒼白な顔で到着する。 「そ、そんな……勇者が……!」 「終わった……。ゲームオーバーだ……」


絶望する彼らに、私はゆっくりと立ち上がり、涙を拭うフリをして振り返った。


「いいえ。……まだ終わっていません」


私の手には、先ほど奪い取った聖剣が握られている。 そして、私の頭上には、ハルト君から剥奪した**【勇者】**のマーカーが輝いていた。


「え……? 係長、その剣は……?」 「その称号は……まさか!?」


「ハルト君は……最期に、私にこれを託してくれました(大嘘)」


私は聖剣を掲げる。 Lv.1の少年が持つには重すぎた剣が、私のステータス補正によって、本来の輝きを取り戻していく。


「彼の遺志は、私が継ぎます。……さあ、行きましょう。RTA(最短攻略)の開始よ」

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