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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第49話 中間管理職の限界と、真のフィクサー

「さあ、会議バトルの時間だ。……仕様変更リテイクの話をしようか」


プロジェクト・マネージャー黒井の言葉は、氷の刃のように私たちの心臓を突き刺した。 カカタ……ッ。 彼がキーボードに指を置く。それだけで、アーサーたち騎士団の顔色が土気色に変わる。


「ひっ……! あ、あの音……」 「徹夜明けの深夜3時に響く、エンターキーの強打音……!」 「やめろ……! 『明日までに修正』はもう聞きたくない……!」


彼らは英雄ではない。ここではただの「トラウマを抱えた元社員」に戻ってしまっている。 黒井は、怯えるかつての部下たちを見て、嗜虐的な笑みを深めた。


「ハハハ! 傑作だ。ゲームの中では英雄気取りだったようだが、ここ(現実)では無力な社畜のままだな。――さあ、まずは誰から『削除クビ』にしてやろうか」


黒井の指が、Deleteキーへと伸びる。 私が「やめて!」と叫ぼうとした、その時だった。


コツン。


場違いなほど硬質で、落ち着いた音が、オフィスの床を叩いた。


「――やかましいのう」


空気が、変わった。 黒井の殺気とも、私たちの恐怖とも違う。もっと重厚で、抗いがたい「威圧感」が、オフィス全体を支配した。


「あ?」 黒井が不快そうに視線を逸らす。


そこには、薄汚れた作業着にヘルメット、そして手には竹箒を持った小柄な老人が立っていた。 地下帝国から着いてきた、葛城総理だ。


「なんだジジイ。清掃員か? 部外者は立ち入り禁――」


「控えんか、若造」


一喝。 怒鳴り声ではない。静かな一言だ。 だが、その声には、一国のトップとして修羅場をくぐり抜けてきた、本物の「長」だけが持つ重みがあった。


黒井の指が、空中でピタリと止まる。 「な……ッ?」


総理は、ゆっくりと歩を進める。 その歩みは、作業着姿であるにも関わらず、まるで国会議事堂の赤絨毯を歩くかのように堂々としていた。 彼は黒井のデスクの前まで来ると、散乱したエナジードリンクの空き缶を、竹箒の先で「汚い」とばかりに退けた。


「お主がここの責任者か?」


「あ、ああ……そうだ。俺はここのPMプロジェクト・マネージャーだぞ! 警備員を呼ぶぞ!」


黒井が虚勢を張って叫ぶ。 しかし、総理は鼻で笑った。


「PM? ……ふん、ただの『現場監督』ではないか」


総理の眼光が、黒井を射抜く。 それは、政治家として数多の官僚や企業トップを相手にしてきた、値踏みするような目。


「わしには分かるぞ。お主のその顔……上に媚び、下に当たり散らす、典型的な小物(中間管理職)の顔じゃ」


「なっ……!?」


「用はない。そこを退け」


総理は、黒井に興味を失ったように視線を外し、オフィスの天井(あるいはもっと上)を見上げた。


「話にならん。――『代表(CEO)』を出せ」


その言葉が放たれた瞬間、黒井の表情が劇的に変わった。 さきほどまでの傲慢な笑みは消え失せ、顔面が蒼白になり、脂汗が滝のように噴き出す。


「だ、代表を……呼べだと……?」


「聞こえんかったか? わしは、お主のような権限のない若造と話すつもりはないと言っておるんじゃ」


「し、しかし……代表は今……」


「呼ばんかッ!!」


ドンッ!! 総理が竹箒の柄で床を突く。 たったそれだけの動作が、黒井には雷鳴のように響いたらしい。


「ひぃッ!?」


黒井は椅子から転げ落ちるように立ち上がり、震える手でデスクの電話(内線)を掴んだ。 私たちが一度も見たことのない、卑屈で、怯えきった顔。


「は、はい! た、ただいま! すぐに繋ぎます! 少々お待ちを……!」


受話器を握る手が震えすぎて、ボタンを押し間違えている。 「あ、あの、第13開発室ですが……き、緊急事態で……はい、いえ、警察ではなく……その、とんでもない・・・がいらして……」


ペコペコと電話口で頭を下げるその姿は、私たちが恐れていた「絶対的な支配者」の姿ではなかった。 ただの、上司の顔色を伺う、小心者のサラリーマンだった。


その様子を後ろで見ていたアーサーが、ポツリと漏らす。


「……なんだ」


彼の肩から、力が抜けていく。


「あいつ……あんなに、小さかったっけ?」


「……ええ」 ランスロットも、呆気にとられたように頷く。 「俺たちが恐れていたのは、黒井個人じゃなかった。彼が笠に着ていた『会社の権威』だったんだ」


「その権威よりも強い『本物』の前では……ただのパシリですね」 ガラハッドが眼鏡の位置を直し、冷ややかな目で見下ろす。


胸のつかえが、スーッと取れていく音がした。 恐怖の対象が、滑稽な道化に変わる瞬間。 私たちは、黒井が必死に電話機にしがみつく無様な背中を見て、ほんの少しだけ――いや、かなり**「スカッ」とした**気分を味わっていた。


「……お電話、繋がりました!」


黒井が裏返った声で叫び、スピーカーフォンに切り替える。


『――騒がしいな。黒井くん』


スピーカーから流れてきたのは、人工的で、感情のない、しかし黒井とは比べ物にならない「底知れなさ」を感じさせる声だった。


『デバッグルームの壁が破られた報告は受けている。……そこにいるのは、誰だね?』


葛城総理は、ニヤリと不敵に笑い、スピーカーに向かって言い放った。


「はじめまして、じゃな。……いや、『久しぶり』と言うべきかの?」


総理は、まるで旧知の悪友に話しかけるように続けた。


「お主らの作った箱庭(異世界)は、なかなか楽しかったぞ。――ユグドラシル殿」


ついに、物語の黒幕――このブラック企業、そして異世界そのものを支配する「CEO」との対話が始まる。

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