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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第48話 回帰、あるいは悪夢の13階開発室

『警告。深刻なシステム障害が発生。セクタ99の壁が崩壊――』


無機質なアナウンスがノイズに混じり、世界が白く弾けた。 四天王の魔力と、食卓の騎士の物理攻撃アタッシュケース、そして私の「怒り」が一点に集中し、世界の底を突き破った瞬間だった。


轟音。閃光。 そして、浮遊感。


私たちは、光の渦の中へと吸い込まれていった。 天地が逆転し、意識が混濁する。 土埃の匂いが消え、代わりに鼻をついたのは――埃っぽく乾燥した空調の風と、煮詰まった安っぽいコーヒーの匂い。


(……え?)


その匂いを、私は知っている。 脳の奥底にこびりついて離れない、あの忌まわしい記憶が蘇る。


――数秒前までの記憶は、薄暗いオフィスにあった。 デスマーチ真っ只中の午前3時。3日徹夜の末、エナジードリンクを片手にキーボードを叩き……そして、突然胸が締め付けられるような痛みに襲われて、視界が暗転したはずだ。


「……ッ、はぁ、はぁ……!」


私はガバッと身体を起こした。 心臓が早鐘を打っている。脂汗が止まらない。 まさか、夢? 異世界転生も、スローライフも、社畜騎士団との出会いも、すべては死にかけた私の脳が見せた走馬灯だったというの?


「……嘘、でしょ」


目を開ける。 そこに広がっていたのは、死の森でも、地下帝国でもなかった。


無機質なグレーのパーティション。 天井には、目を刺すような蛍光灯の列(いくつかはチカチカと点滅している)。 耳障りなサーバーの排気音と、どこかの席で鳴り続ける電話のコール音。


そして、デスクの上に山積みにされたエナジードリンクの空き缶と、仕様書の山。


「……あ、あぁ……」


間違いない。 ここは、私が過労死した現場。 株式会社ユグドラシル・システムズ、第13開発室だ。


「な、なんだここは……?」 「空気が……悪い。淀んでいる……」


背後で声がした。 振り返ると、そこには銀色の鎧を纏ったアーサーたちが、呆然と立ち尽くしていた。 異様な光景だった。現代のオフィスに、ファンタジーの騎士と、作業着姿の魔族(四天王)がいるのだから。


「おい、ここは何処だ? 壁の向こうは神の国じゃなかったのかよ?」 イグニスがヘルメットを脱ぎ、周囲をキョロキョロと見回す。


しかし、食卓の騎士たちの反応は違った。 彼らは、まるで亡霊を見たかのように顔面蒼白になり、震える手でデスクの上の書類を手に取った。


「……馬鹿な」


アーサーが、うめくように声を漏らす。


「見覚えがある……。このデスクの配置、この剥がれかけた床のタイル……」


ランスロットが、あるデスクの前に立ち尽くしていた。そこには『営業部・ランスロット(仮名)』ではなく、彼が生前使っていたであろう名札が転がっている。


「係長……。ここは、我々がいた会社です」 「ああ。間違いない……」


そして、ガラハッドが震える指で、ホワイトボードに書かれた文字を指差した。


【新規VRMMOプロジェクト『ファンタジア・リブート』開発ロードマップ】 【※納期厳守。遅延は許されない。死ぬ気でやれ】


「……思い出しました」


アーサーが、吐き捨てるように言った。


「我々はこのプロジェクトの初期メンバーだった。だが、上層部の無茶な仕様変更とスケジュールの短縮に抗議し……そして」


「……プロジェクトから外された(・・・・・・・・・・・・・)」


トリスタンのネクタイを握りしめ、アーサーが続ける。


「いや、正確には……過労で倒れたり、精神を病んだりして、次々と『脱落』していったんだ。……悔しいが、ここは我々の墓場であり、我々を捨てた場所だ」


彼らにとって、ここは単なる前世の職場ではない。 自分たちの命をすり減らし、それでも完成させることができず、無念のまま追放された(あるいは死んだ)**「敗北の記憶」**そのものだったのだ。


「じゃあ、何か? 俺たちが今までいた世界は……」 イグニスが引きつった笑みを浮かべる。


私は、自分のデスク――私が死んだその場所――に置かれたモニターを見た。 スクリーンセーバーが解除され、そこには見覚えのある「ログハウス」の映像が映し出されていた。


「……そう。私たちがいた世界は、この会社が開発していたオンラインゲームの中」


そして、私は視線を上げる。 オフィスの奥。重役用の革張りの椅子に、誰かが座っている。


「そして、魔王(運営)の正体は……」


椅子がゆっくりと回転し、その人物がこちらを向いた。 ヨレヨレのスーツに、無精髭。目の下には濃いクマ。 しかし、その目は狂気的な光を宿して、私たち――「画面から出てきたバグデータ」を見つめていた。


「やあ。おかえり、社畜諸君」


男が薄ら笑いを浮かべる。


「まさか、デバッグルームの壁を突き破って、**『サーバー室(現実)』**まで上がってくるとはね。……優秀だよ、君たちは。本当に」


その男の顔を、私は知っている。 私に無理難題を押し付け、デスマーチを強要し、私が倒れた時も「チッ、使えねえな」と舌打ちした上司。


プロジェクト・マネージャー、黒井クロイ


「さあ、会議バトルの時間だ。……仕様変更リテイクの話をしようか」


現実と虚構の境界が崩壊したオフィスで、 元・社畜(私たち)と、現役の悪魔(上司)との、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

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