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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第47話 OJT(実地研修)と、世界の「底」にあるもの

「いいか、新人ども! 現場は『段取り八分』じゃ! 安全第一で動け!」 「「「は、はいぃぃッ!!」」」


地下帝国の最深部、拡張工事エリア。 葛城総理(現場監督モード)の怒号が飛び交う中、元・魔王軍四天王たちは、血と汗と泥にまみれていた。


「クソッ、なんで俺様が土木工事なんて……!」 炎のイグニスが悪態をつきながらも、指先から精密な火炎放射を放ち、鉄骨を瞬時に溶接していく。


「文句を言うなイグニス! 作業が遅れると昼飯の弁当が『のり弁』になるぞ!」 水の四天王アクアが、高圧水流カッターで岩盤を綺麗に切断しながら叫ぶ。


「チッ……。この俺の風魔法を、粉塵除去ダスト・パージに使うとはな」 風の四天王がため息をつきつつ、トンネル内の換気を完璧にコントロールしている。


「……ふん。悪くない地盤だ」 土の四天王に至っては、もはや魔法を使わず、素手で岩を砕きながら楽しそうに整地していた。


彼らは不満タラタラだが、そのスペックは異常に高い。 本来、勇者パーティを苦しめるはずの強大な魔力が、ここでは「超高効率な重機」として機能していた。



「ほう。進捗スケジュールは順調のようだな」


視察に訪れたのは、ヘルメットを被ったアーサーたち《食卓の騎士》と、コーデリアだった。


「ゲッ、社畜騎士団……!」 イグニスが嫌な顔をする。


アーサーは手にしたバインダー(工程表)を見ながら、冷徹な目で現場を見渡した。


「溶接の継ぎ目が甘い。やり直しだ」 「なっ!?」 「ガラハッド、安全帯の使用状況を確認しろ。コンプライアンス違反があれば即刻報告だ」 「了解。……おい、そこの水色。ヘルメットの顎紐が緩んでいるぞ。死にたいのか?」


「う、うるせぇ! 細かいことグチグチと……!」 「細かいことではない。――現場での不注意は、即ち『ロスト』だ」


アーサーの声色が、急に低くなる。 彼の胸ポケットには、あのネクタイがしまわれている。 トリスタンという犠牲を出した彼らにとって、「安全管理」は冗談ではなく、血の滲むような教訓なのだ。


その迫力に押され、イグニスたちは舌打ちしながらも顎紐を締め直した。


「……意外ね」 私は隣にいた葛城総理に話しかける。 「彼ら、もっと反発するかと思いましたけど」


「カカカ。魔族というのは単純での。今まで『破壊』しか教わってこなかった奴らに、『創造』の喜びと、働いた後の飯の美味さを教えれば、意外とハマるもんじゃよ」


総理はニカっと笑い、しかしすぐに鋭い目つきになった。


「それにの、嬢ちゃん。……掘り当てたぞ」


「え?」


「お主らが探している『システムの外側』への入り口じゃ」


総理が指差したのは、四天王たちが掘り進めているトンネルの最奥。 土の四天王が、困惑したように手を止めている場所だった。


私たちはそこへ向かう。 岩盤が崩されたその先に、奇妙な壁が露出していた。


それは岩ではない。金属でもない。 黒く、光を吸い込むような質感。そして表面には、微かに緑色の文字列が流れている。


《Error: Texture Not Found / Sector 99》


「……これは」 私が壁に触れようとすると、指先がビリビリと痺れた。


「おい、なんだこれ? 俺の『岩石溶解パンチ』が通じねえぞ」 土の四天王が首をかしげる。


その時だった。 アーサーの胸ポケットに入っていたネクタイが、淡い光を放ち始めた。


「係長……? ネクタイが、熱を帯びています」 「……共鳴しているのか?」


アーサーがネクタイを取り出し、黒い壁に近づける。 すると、壁に流れる緑色の文字が激しく明滅し、ノイズ混じりの音声が周囲に漏れ出した。


『……ザザッ……警告……ここハ……廃棄……データノ……墓場……』


「トリスタンの……声?」 ランスロットが息を呑む。


私は確信した。 第26話でトリスタンが消された時の現象。あれは「完全消去」ではなかった。 PCのファイルをごみ箱に入れるように、この世界のシステムは、不要になったデータやバグ要素を、地下深くのこの領域(セクタ99)に隔離・投棄しているのだ。


「……葛城総理」 私は振り返った。


「ここ、ただの地下帝国じゃありませんね?」


総理は箒を杖代わりにして、静かに頷いた。


「ああ。ここは、この世界の『ゴミリサイクルビン』じゃ。地上の運営共が捨てた、バグ、エラー、そしてお主らの友人のような『不都合な真実』が吹き溜まる場所」


だからこそ、四天王もここへ落ちてきたのだ。彼らもまた、敗北して「用済み」になったデータだから。


「……道は繋がったわ」


私は黒い壁を見据える。 この壁の向こうに、トリスタンのデータがある。そして、この世界を管理する「神(運営)」へのバックドア(裏口)があるかもしれない。


「イグニス、アクア、ウィンド、アース!」 私は現場監督チーフの声で叫んだ。


「あ? なんだよ急に」


「あなたたち、魔王軍をクビになった恨み、晴らしたくないですか?」


四天王たちが顔を見合わせる。


「この壁をぶち抜けば、あなたたちを捨てた『上の連中』の喉元に届きます。……残業手当は弾むわよ?」


その言葉に、イグニスの目に怪しい光が宿った。 ブラック企業(魔王軍)への未練などない。今の彼らは、プライドを傷つけられた荒くれ者の労働者だ。


「……へっ。面白いじゃねえか」 イグニスがヘルメットのツバを上げた。


「おい野郎ども! 休憩終わりだ! この『わけのわからん壁』をブチ壊すぞ!!」 「「「おう!!」」」


四天王の魔力が一気に膨れ上がる。 食卓の騎士たちも、アタッシュケースを開き、戦闘(業務)モードへと移行する。


「我々も加勢する。……トリスタンを迎えに行くぞ」 アーサーがネクタイを腕に巻き付けた。


地下深く、世界の底。 かつて敵対していた勇者パーティと魔王軍幹部が、今、ひとつの「巨大なシステム」に向かって、ツルハシと剣を振り上げた。


『警告。不正なアクセスを検知――』

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