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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第45話:その宿屋は、全国展開している実家のような安心感

「話し合いはこれで終わりじゃ。今日は色々あって疲れたじゃろう」


葛城総理は、好々爺の顔に戻って箒を手にした。


「今日はもう休みなさい。……そこの角を曲がったところに、わしらが経営する宿屋がある。いつでも利用していいように手配しておいたからの」


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


私は深々と頭を下げ、裏国家本部ビルを後にした。 自動ドアを出て、ネオン輝く地下街を歩く。 緊張の糸が切れたのか、背後をついてくる社畜騎士たちから、一斉に重たい音が漏れた。


「…………はぁぁぁぁぁぁ(クソデカ溜息)」


振り返ると、アーサーたちがアスファルトの上に座り込んでいた。


「し、死ぬかと思った……。総理大臣のプレッシャー、半端ないです……」


「俺、緊張しすぎて一言も喋れなかった……。名刺出すタイミング完全に逃した……」


ランスロットが頭を抱え、ガラハッドは胃を押さえている。 そんな中、トリスタン(の遺志を継ぐネクタイを持ったアーサー)が、尊敬の眼差しで私を見上げた。


「それにしても、チーフ……いえ、コーデリア様は凄いです。あの化け物揃いの幹部たちを相手に、一歩も引かずに交渉をまとめるなんて」


「ああ。昔のプレゼンを思い出したよ。……やっぱり、この人は一生ついていくべきリーダーだ」


「買い被りすぎよ。……さあ、行くわよ。宿屋で泥のように眠りなさい」


私は彼らを促し、総理に教えられた角を曲がった。 そこには、緑とオレンジの見慣れた看板が、地下の闇に煌々と輝いていた。


【HOTEL ROUTE-INNホテル ルートイン


「……ここ、異世界よね?」


私は目を疑った。 日本全国、どこに行ってもロードサイドにある、あの安心と信頼のビジネスホテル。 まさか地下帝国にチェーン展開していたとは。


「うわぁ……! ルートインだ! 大浴場付きの!」 「朝食バイキング無料だぞ!」


騎士たちが歓声を上げて駆け出す。彼らにとって、ここは城よりも落ち着く「実家」なのだ。



フロントに入ると、そこには人工観葉植物と、コーヒーの無料サービス機、そして新聞コーナーがあった。 完璧だ。完璧に日本のビジネスホテルだ。


「いらっしゃいませ。ご予約のコーデリア様ですね」


フロントアンドロイドっぽいが微笑む。 私はカウンターに置かれた「宿泊者名簿レジカード」にペンを走らせた。


【氏名:コーデリア】 【住所:死の森 ログハウス1-1】 【電話番号:なし】


(……懐かしい)


前世、出張のたびに繰り返したこの動作。 住所を書き、前金で支払いを済ませ、薄いカードキーを受け取る。 エレベーターホールのアメニティコーナーで、髭剃りとブラシを取るアーサーたちの手つきも、完全に手慣れたサラリーマンのそれだった。


部屋に入る。 シングルルームの狭さ。シモンズ製ベッドの硬さ。枕元にある照明のスイッチ。 すべてが、私の記憶にある「休息」の形をしていた。


「……はぁ」


私はベッドに倒れ込んだ。 ライオネルさんの指輪をサイドテーブルに置く。


「おやすみなさい、ライオネルさん。……ここは、安全よ」


天井の白いクロスを見上げながら、私は泥のような眠りに落ちていった。 明日からの激戦を前に、この「日常」の空間だけが、唯一の救いだった。



一方その頃。 地上の荒野では、魔王軍四天王(5人)が、絶望の淵に立たされていた。


「ど、どうするんだイグニス……! 騎士団を取り逃がした上に、俺たちも逃げ帰ってきたなんて報告したら……」


「魔王様に消されるぞ! 今度こそ減給どころじゃ済まねえ!」


焚き火を囲む5人の顔は、死人のように暗い。 彼らは路頭に迷っていた。魔王城には帰れない。かといって、人間の街にも行けない。


「……俺、もうバイト辞めたいっす」


闇属性のシャドウが、虚ろな目で呟いた。


「有給も消化しきったし、もうバックレていいすか?」


「バカ野郎! 連帯保証人になってんだぞ! お前が逃げたら俺たちが借金ペナルティ背負うんだよ!」


イグニスが怒鳴った拍子に、シャドウが足を滑らせた。


「あっ」


彼が座っていたのは、古びた枯れ井戸の縁だった。


「うわぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」


シャドウの体が、井戸の暗闇へと吸い込まれていく。


「シャドウーーッ!!」 「おい! 大丈夫か!?」


イグニスたちが慌てて井戸を覗き込む。 底は深くて見えない。 だが、微かに風の流れを感じる。


「……おい、何か光が見えないか?」


「まさか、ダンジョンか? ……あいつを助けに行かないと、5人揃わないと『四天王(5人)』のシフトが回らねえ!」


「クソッ! 行くぞ!」


ヤケクソになった四天王たちは、次々と井戸の中へ飛び込んだ。 長い落下の果てに、彼らが辿り着いたのは――。


ドスンッ!


「いってぇ……。ここはどこだ?」


顔を上げたイグニスたちの目に飛び込んできたのは、地下深くに広がる、ネオン輝く摩天楼だった。


「な、なんだこの文明は……!?」 「魔界より都会じゃねーか!」


彼らが落ちたのは、偶然にも裏国家の「繁華街エリア」の路地裏だった。 呆然とする彼らの前に、一人の老人が竹箒を持って通りかかった。


「おや? 空から客人が降ってくるとは珍しい」


葛城総理が、ニコニコと笑って彼らを見上げた。


「……お主ら、職に困っておる顔をしておるな?」


「な、なぜそれを……!?」


「わかるよ。わしは政治家じゃからな。……どうじゃ? 宿と飯は保証する。わしの下で『再就職』せんか?」


悪魔の囁き(ヘッドハンティング)。 行き場を失った四天王たちは、顔を見合わせ……そして、その老人の手を取った。


「「「「「よ、よろしくお願いしますぅぅぅ!!」」」」」


こうして、役者は揃った。

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