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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第42話:その地下帝国は、昭和の残香(ノスタルジー)を纏っている

エルモの案内で、私たちは荒野にある枯れた古井戸の中へと飛び込んだ。 そこには隠された転移ゲートがあり、目眩がするような浮遊感の後に辿り着いたのは――信じがたい光景だった。


「……嘘でしょ?」


私は開いた口が塞がらなかった。 そこは、広大な地下空洞。 天井には発光する苔ではなく、人工的な《LED照明》が星空のように配置されている。 そして、私の目の前に広がっていたのは、石造りの家でも、木造のログハウスでもない。


コンクリートと鉄骨で組まれた、**《現代風のビル群》**だった。


「ようこそ、僕らのホームへ」


エルモが得意げに手を広げる。 立ち並ぶ雑居ビル。点滅するネオンサイン。路地裏から漂う排気ガスの匂い。 それは、魔法の世界とはかけ離れた、まるで昭和の日本か、あるいはサイバーパンクなスラム街のような景色だった。


「ここが……裏国家?」


「正確には、現実世界の廃材データ(ジャンク)を集めて再構築した『リサイクル都市』さ」


ゼクスが説明しながら、慣れた足取りで舗装されたアスファルトの上を歩く。 私はキョロキョロと周囲を見回しながら、彼らの後をついていった。



都市の中央に、ひときわ高くそびえ立つ、黒いガラス張りの高層ビルがあった。 《裏国家本部ビル》。 入り口には自動ドアがあり、その前で一人の小柄な老人が、竹箒を使って熱心に掃除をしていた。


「サッサッ……。やれやれ、今日は埃が多いのう」


作業着にねじり鉢巻。どこにでもいそうな、好々こうこうやといった風情だ。 私が通り過ぎようとすると、前を歩いていたゼクス、エルモ、そしてルミの3人が、ピタリと足を止め、その老人に向かって直立不動の姿勢を取った。


「――帰還いたしました」


3人が同時に、深々と頭を下げる。 その動作には、ガラハッドに対してすら見せなかった、心からの敬意と畏怖が込められていた。


「えっ?」


私が驚いていると、老人は手を止めて顔を上げ、柔和な笑みを浮かべた。


「おお、おかえり。……遠足は楽しかったかね?」


「はっ。トラブルはありましたが、無事に《貴賓(VIP)》をお連れしました」


ゼクスが私のほうを示す。 老人の目が、ゆっくりと私に向けられた。 その瞬間。 私は背筋に電流が走るような感覚を覚えた。 ただの老人ではない。その瞳の奥には、何百年もの時を見通してきたかのような、底知れぬ知性と覇気が渦巻いている。


「ふむ。……そちらが、噂の悪役令嬢ちゃんか」


老人は箒を立てかけ、作業着のポケットから手ぬぐいを取り出して汗を拭いた。


「初めまして。……わしがこの薄暗い掃き溜め、裏国家の代表を務めておる」


老人は、まるで近所のおじさんのような口調で、とんでもない肩書きを名乗った。


「名は葛城 天成カツラギ・テンセイ。……一応、**《総理大臣》**と呼ばれておるよ」


「そ、総理大臣……!?」


私は絶句した。 葛城天成。その名前を、私は歴史の教科書で見たことがある気がする。 いや、それ以前に。 ファンタジー世界の地下に、現代日本の総理大臣がいる? 情報量が多すぎて処理落ちしそうだ。


「ま、立ち話もなんだ。……茶でも飲みながら話そうか。とびきり渋い緑茶があるんじゃ」


葛城総理は、カカカと笑いながら自動ドアの奥へと歩き出した。 その背中は小さいけれど、背後にそびえ立つ高層ビルよりも大きく見えた。


「……行きましょう、コーデリアさん」


エルモが小声で促す。


「あの方は、この世界で唯一、『カミ』と対等に渡り合える政治力カードを持った御方だ。……粗相のないようにね」

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