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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第39話:そのスキルは、システム制限(デバフ)により不発となる

「――執行(Execute)」


ガラハッドが指を振るうと、空間から無数の「光の鎖」が出現した。 それは物理的な拘束具ではない。対象の行動アクションを制限する《法縛の鎖》。


「散開せよッ!」


ゼクスが叫び、白装束を翻して跳躍する。 彼は槍を構え、その切っ先に青白い光を収束させた。


「我がスキルは**《ザン》**。因果、未練、そしてシステムコード……あらゆる繋がりを断ち切る絶対切断!」


ゼクスが槍を一閃させる。 本来なら、その一撃は空間そのものを切り裂き、ガラハッドの首を胴体から「切断された」という結果だけ残して落とすはずだった。 だが。


ガギィィィンッ!!


槍の刃は、ガラハッドの喉元数センチで、見えない壁に阻まれて止まった。


「ぐっ……! やはり、重い……!」


ゼクスの身体に、赤黒い紋様が浮かび上がっている。 それは心臓を中心に全身へ根を張る、植物の蔦のようなノイズ。


「無駄ですよ、ゼクス。あなたの《断》の切れ味は、現在30%未満まで低下しています」


ガラハッドは冷ややかに見下ろした。


「あなた方『裏国家』の構成員には、全員に**《大罪の呪い(System_Curse)》**が付与されています。私の許可なく、フルスペックを発揮することは不可能です」


「チッ、忌々しい……!」


ゼクスがバックステップで距離を取る。 その隙を埋めるように、リュートの音が響いた。


「~♪ 嘆きの壁よ、リズムを狂わせたまえ。  ~♪ 0は1になり、遅延ラグは加速に変わる」


吟遊詩人エルモのスキルは**《ウタ》**。 それはただの音楽ではない。世界のBGM(環境音)を書き換えることで、戦場の「ルール」と「テンポ」を操作するバフ・デバフの複合魔術だ。


「さあ、この場の主導権テンポは僕がもらうよ!」


エルモの歌声に合わせて、ゼクスの動きが加速する――はずだった。


ブツッ、ザザッ……。


リュートの弦が一本、突然切れた。 同時にエルモが喀血し、膝をつく。


「ごふっ……! くそっ、喉が焼けるようだ……」


「騒音ですね。ミュートします」


ガラハッドが手をかざすと、エルモの周囲の空気が真空状態になり、歌声がかき消された。


「そして、ネズミがもう一匹」


ガラハッドの背後の影から、音もなくルミが現れた。 彼女のスキルは**《カゲ》**。 それは「削除されたデータ」の残滓を操り、実体を持たない影の軍勢として使役する召喚術。


「おじちゃん、うしろ!」


ルミの影が巨大な鎌となってガラハッドの首を刈り取ろうとする。 しかし、その影はあまりに薄く、輪郭がボヤけていた。


「影が薄いですね。……データ容量不足ですか?」


ガラハッドは振り返りもせず、背中から「光の翼」を展開した。 強烈な光が、ルミの影を瞬時に蒸発させる。


「きゃあっ!?」


ルミが吹き飛ばされ、床に転がる。 彼女の小さな体にもまた、赤黒いノイズの蔦が絡みついていた。


「あはは……。ダメだねぇ。やっぱり、この呪いがある限り、僕たちはただの雑魚キャラ(モブ)同然か」


エルモが口元の血を拭いながら自嘲する。 圧倒的戦力差。 本来ならカミに対抗しうるだけの「切りジョーカー」であるはずの3人が、あらかじめ仕込まれていた呪いによって、手も足も出ない状態にされている。


私はコンソールに向かいながら、その光景を歯噛みして見ていた。


(《大罪の呪い》……。あれは、彼らのソースコードの深層に書き込まれた『制限プログラム』だわ。解除するには、管理者権限でルートディレクトリに潜るしかない。でも、今の私にはそんな時間は……)


「終わりです。あなた方の反逆ごっこは、ここで打ち切り(サ・エンド)です」


ガラハッドが両手を広げる。 サーバー室の空気が凍てつく。 彼が発動しようとしているのは、個別の攻撃魔法ではない。 この空間にいる「自分以外」を全消去する、エリア・フォーマットだ。


「――法務部より通達。全違法オブジェクトへ、最終処分を言い渡す」


光が膨れ上がる。 ゼクスが槍を構え直す。 エルモが切れた弦を張り直す。 ルミが影を集める。 全員、死を覚悟している。だが、勝機は見えていない。


「ダメ……! みんな逃げて!」


私が叫んだ、その時だった。 私の背負っていたライオネルさんが、カタリと音を立てて床に降りた。


「……ライオネルさん?」


彼はもう、全身が9割方透明になっていた。 顔の輪郭すらあやふやで、そこに「誰か」がいることしか認識できないほどの希薄な存在。 だが、その手には、しっかりと剣が握られていた。


「……ガラハッド」


ノイズ混じりの声が響く。


「お前の言う秩序(法)とは……部下を捨て、友を消し、愛する人を泣かせることか」


「ライオネル様。……いいえ、ウイルス・ライオネル」


ガラハッドが無機質な瞳を向ける。


「あなたには失望しました。カミの寵愛を受けながら、バグに堕ちるとは。……大人しく消えていれば、美しい思いアーカイブとして保存して差し上げたものを」


「断る。……私は、思い出になる気はない」


ライオネルさんが一歩、踏み出した。 その足元から、青い光が波紋のように広がる。


「私は……コーデリアの隣で、明日も、明後日も、美味い飯を食うんだ!!」


ドクンッ!!


彼の身体から、青い閃光が爆発した。 それは消滅の光ではない。 彼の中に眠っていた「何か」が、呪いも、制限も、バグすらもねじ伏せて覚醒しようとする輝きだった。


ゼクスが目を見開く。


「あの光……まさか、奴が『器』なのか……?」


戦局が、動く。 瀕死のウイルス騎士が放つ最後の輝きが、最強の管理者に届くのか。

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