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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第37話:猛獣(新人)は、社内カースト最下層を知る

地下遺跡への道を下りながら、私は脳内で現在の状況ステータスを冷静に整理していた。


【現状報告書】


目的:地下にある《メインコンソール》への物理アクセスおよび、ライオネルの修復、世界崩壊の阻止。


障害:ライオネルのデータ消失率はおよそ85%。残された時間は数時間以内。


戦力:


私(管理者代理・権限一部所有)


ライオネル(半透明・戦闘不能)


食卓の騎士団(ドーピング中毒・SAN値低下中)


四天王&ドワーフ(後方支援・ドン引き中)


聖獣リュカ(システム守護者)


マッハ・ランナー隊(新規採用・強制)


「……よし。タスクは明確ね」


私は走りながら頷いた。 問題は、未だに見えない「カミ(黒幕)」の正体だが、ここまで来たら中枢に直接聞くのが早い。


一行は、源泉のさらに奥、古代の金属扉の前で停止した。


「ここだ。この先に『遺跡』がある」


ドワーフの親方が指差す。 そこには、明らかにこの世界の文明レベルを超越した、継ぎ目のないチタン合金のような重厚なゲートが鎮座していた。


「到着ですね。……さて」


アーサーが、汗だくの顔で振り返った。 彼らの背後には、ここまで私たちを運んできた凶悪な捕食者――《マッハ・ランナー》の群れが、荒い息を吐いて並んでいる。


「お疲れ様でした。君たちの走りは悪くなかったですよ」


アーサーが、ボス鳥の太い脚をポンポンと叩く。


「とりあえず、ここで待機だ。次の指示があるまで、身体を休めておくように。水くらいなら支給しますから」


「これ、装備サドルがズレてるぞ。直しておいてやるか」


「おい新入り、顔つきがいいな。次の営業(戦闘)も期待してるぞ」


社畜騎士たちは、当然のように恐竜鳥たちを労い、毛繕いを始めている。 まるで、彼らが長年の相棒か、あるいは「同じ部署の新人」であるかのように。


これに対し、ボス鳥の内心はパニックだった。


(……ギャオ?(は? なに馴れ馴れしく触ってんだコイツら?))


ボス鳥は困惑していた。 自分たちは、荒野の覇者マッハ・ランナーだ。 本来なら、こんな弱そうな人間たちなど、一噛みで引き裂いて捕食する側の存在だ。 さっきは、あの背中のコーデリアが怖すぎて一時的に従ったが、ここは狭い地下洞窟。 今なら、やれるんじゃないか?


(ギャルル……(調子に乗るなよ家畜ども。俺様は猛獣だぞ。今ここで食い殺して……))


ボス鳥が、鋭い牙を剥き出しにし、アーサーの頭に狙いを定めた、その瞬間。


「――ワフッ(おい)」


足元から、可愛らしい声がした。 ボス鳥が見下ろすと、そこには手のひらサイズの銀色の子犬――リュカが座っていた。


「クゥーン……、ワフ。ガウッ?(その人たちは主の『備品』だ。傷つけたら、そのトサカから尻尾まで裏返して、永遠に再生しないようにデータを焼くけど、いい?)」


聖獣語(システム言語)による、直接的な脅迫。 しかも、リュカの背後には、巨大なフェンリルの幻影がゆらりと浮かび上がり、ボス鳥を冷ややかに見下ろしている。


(……!!)


ボス鳥の顔色が、緑から青へ、そして土気色へと変わった。 言葉は通じないが、格付け(ヒエラルキー)は理解できた。


あの女(魔王)


この犬(神)


ゾンビ人間たち(古株社員)


自分たち(新人バイト以下)


(ギャ、ギャウ……(い、いえ、なんでもないです。羽繕い、ありがとうございます……))


ボス鳥はスッと牙を収め、アーサーの手に頭を擦り付けた。 媚びた。 荒野の覇者が、生き残るためにプライドを捨てた瞬間だった。


「おっ、デレたか? かわいい奴め」


「よしよし、いい子だ。あとでビーフジャーキーやるぞ」


事情を知らない騎士たちが、ニコニコしながら猛獣を撫で回す。 その屈辱的かつ理不尽な光景に、ボス鳥の目から一筋の涙が流れた。


(……帰りたい。荒野に帰りたい……)


しかし、一度ブラック企業(コーデリア一行)に関わってしまったが最後、退職は許されない。 猛獣は、理不尽な憐れみを一身に受けながら、大人しく「待て」をするしかなかった。



「……カオスな光景だが、今は助かる」


私はその様子を一瞥し、すぐに扉へと向き直った。 ライオネルさんを背負ったまま、パネルに手をかざす。


【Authentication Required】 【Voice Print Check...】


音声認証。 私は息を吸い込み、かつて何度も口にした言葉を告げた。


「――合言葉は、『進捗どうですか』」


ピピッ。承認されました。


なんて嫌なパスワードだ。 重厚な金属音が響き、扉が左右にスライドする。 プシュゥゥゥ……と白い冷気が漏れ出し、その奥に広がっていた景色に、全員が息を呑んだ。


そこにあったのは、魔法的な遺跡ではない。 無機質な白い壁。整然と並ぶサーバーラック。点滅するLEDランプ。 そして中央に鎮座する、巨大なモニター。


「ここは……」


アーサーが震える声で呟く。


「……俺たちの、サーバールーム?」


そう。 そこは、私たちが前世で死ぬほど見慣れた、現代の《データセンター》そのものだった。


「行くわよ。……ここに、全ての答えがある」


私は一歩を踏み出した。 背中のライオネルさんが、消え入りそうな声で囁く。


「……不思議だ。初めて見るのに、懐かしい気がする」


その言葉が、私の胸を締め付けた。 彼が懐かしさを感じる理由。 それは、彼がここで生まれた《存在》だからに他ならない。


モニターの前には、一脚のオフィスチェアが置かれている。 そこに、誰かが座っていた。 ゆっくりと、椅子が回転し、こちらを向く。


「――ようこそ。お待ちしておりましたよ、チーフ」


そこにいたのは、糸目の吟遊詩人・エルモでも、異端審問官ゼクスでも、少女ルミでもなかった。 見覚えのある、しかし決定的に違う顔をした人物が、薄ら笑いを浮かべていた。

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