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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第36話:その帰還は、百鬼夜行よりタチが悪い

一方、北の最果てにある拠点ログハウス。 ここでは、留守を預かる魔王軍四天王とドワーフたちが、奇妙な共同生活を送っていた。


「おいドワーフ。風呂の温度が低いぞ。もっと薪をくべろ」


「うるせえな、釜焚きはテメェの仕事だろ火属性! ……へっ、それにしても平和だなぁ」


四天王リーダーのイグニスと、ドワーフの親方が、ウッドデッキで茶を啜っている。 ここには強力な結界があるため、外の世界の崩壊など知る由もない。 彼らにとって、今の悩みと言えば、今夜の夕飯が肉か魚かということくらいだった。


しかし。 その平穏は、地響きと共に粉砕された。


ズズズズズズ……ッ!!


「あ? なんだ、地震か?」


イグニスがカップを置く。 振動は急速に大きくなり、森の木々がバキバキと音を立てて倒れていく。


「南の方角から、何かが来るぞ! 魔物のスタンピード(暴走)か!?」


シャドウが屋根の上に飛び乗り、遠眼鏡(魔法製)を覗き込んだ。 次の瞬間、彼は顔面蒼白になり、ガタガタと震え出した。


「ひぃっ……! ち、違う! 魔物じゃねえ! もっと恐ろしいモノだ!」


「なんだと? ドラゴンか? 巨人か?」


「……『地獄』っす」


「は?」


シャドウが指差した先。 舞い上がる土煙の中から、それは現れた。


先頭を走るのは、凶悪な爪を持つ巨大恐竜鳥マッハ・ランナー。 その背には、髪を振り乱し、鬼の形相で手綱ワイヤーを操る悪役令嬢。 彼女の背後には、青白く透けた幽霊のような男がしがみついている。


そして、その後ろに続くのは――。


「ギャァァァァァァァ!!」 「死ぬぅぅ! でも定時には間に合わせるぅぅぅ!!」


白目を剥き、よだれを垂らしながら絶叫する、銀色の鎧を着たサラリーマン集団。 彼らの顔は風圧で変形し、ドーピングの副作用で眼球が血走り、もはや人間としての原形を留めていない。 それは、ボスの描いた地獄絵図よりも尚、狂気じみた光景だった。


「な、なんだあれは……!?」


イグニスが後ずさる。 ドワーフの親方が、その異様な光景を見て、ガクガクと膝を震わせながら呟いた。


「……見たか、おい。あの先頭のアーサーの顔……。あれは、この世の苦しみを全て煮詰めたような相だ……」


「あ、ああ……。俺には見えるぞ……。あいつの口の奥に、**《真理の扉》**が開いているのが……」


「見ちゃダメだ! 深淵を覗いたら、こっちが引きずり込まれるぞ!」


四天王たちがパニックになる。 魔界の住人ですら「関わりたくない」と思うレベルの圧。 それが、時速80キロで突っ込んでくるのだ。


「止まれぇぇぇぇッ!!」


コーデリアの裂帛の気合いと共に、先頭の鳥がドリフトしながら急停止した。 後続の鳥たちも、ドミノ倒しのように重なり合って止まる。


ズガァァァァン!!


ログハウスの目の前で、巨大な砂煙が舞い上がった。 静寂。 イグニスたちが唾を飲み込んで見守る中、煙の中から、ゆらりと影が現れた。


「……到着チャク、っと」


髪ボサボサ、ドレスはボロボロ。しかし目はランランと輝いているコーデリアが、半透明になったライオネルを背負って出てきた。


「おい、ボーッとしてんじゃないわよ! 救護班! 急いで!」


「ひぃっ! オ、オバケ!?」


イグニスが悲鳴を上げる。 コーデリアの背にいるライオネルは、もう首から下がほとんど見えない。ただの「生首が浮いている」ような状態に見えたのだ。


「オバケじゃないわよ! バグりかけてるだけ! ……親方! 掘り当てた遺跡はどこ!?」


「あ、ああ……! 温泉の源泉のさらに奥だ! 鉄の扉があって、そこから先には進めねぇ!」


「案内しなさい! 1秒でも遅れたら、この鳥たちの餌にするわよ!」


コーデリアがナイフで恐竜鳥を指すと、鳥たちが「ギャオッ(御意)」と一斉に親方を睨んだ。


「わ、わかった! こっちだ! ついてきな!」


親方が走り出す。 コーデリアはライオネルを背負い直した。


「ライオネルさん、意識はある?」


「……ああ。だが、少し……眠いな」


ライオネルの声は、ラジオのノイズのように途切れがちだ。 彼の存在確率は、もう10%を切っているかもしれない。


「寝たら許さないわよ。……私とのスローライフ、まだ1ページ目しか終わってないんだから」


「ふふ……。厳しいな、私の婚約者は……」


地下へ続く洞窟。 硫黄の匂いが立ち込める中、一行は最深部へと急ぐ。 そこに眠る《メインコンソール》が、希望となるか、それとも絶望の決定打となるか。


背後では、ようやく正気に戻ったアーサーたちが、地面に這いつくばって呻いていた。


「……ここはどこだ? 天国か?」 「いや、地獄だろ。俺たちの職場せかいに、天国なんてあるわけねえ……」


彼らの目には、もう光がなかった。 しかし、それでも体だけは動く。悲しき社畜のサガで、彼らもまたヨロヨロと地下へ向かうのだった。

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