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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章:虚構の箱庭 編

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第33話:神々の遊び(デバッグ)は、あまりに無慈悲で

『――排除対象ヲ確認。セキュリティレベル・クリムゾン』


塔の壁面が割れ、そこから這い出してきたのは、無数の黒いケーブルと機械のアームが融合した、醜悪な守護者ガーディアンだった。 その巨大な単眼がギョロリと動き、私たちをロックオンする。


「来るぞ! 総員、防御陣形!」


アーサーが叫ぶが、遅い。 ガーディアンのアームが、音速を超えて薙ぎ払われた。


「ぐあっ!?」


ライオネルさんが片手で剣を振るうが、半透明になった右手の力が弱く、弾き飛ばされる。 私も魔法障壁を展開するが、敵の質量が大きすぎて支えきれない。 全滅か――そう思った瞬間だった。


3人の「容疑者」たちが、同時に動いた。



【容疑者A:異端審問官・ゼクスの場合】


「邪魔だ、ガラクタ風情が」


ゼクスは槍を捨て、素手でガーディアンの前に進み出た。 彼は空中に浮かぶ赤い警告ウィンドウを、まるで物理的な物体のように手で掴み、握り潰した。


「――権限行使オーバーライド。識別コード:Z-001。命令する」


ゼクスの瞳が、バイザーの奥で深紅に発光した。


「《ひれ伏せ(Shutdown)》」


ズガァァァン!!


彼の言葉一つで、巨大なガーディアンが目に見えない重力に押しつぶされたように、床にめり込んだ。 魔法ではない。システムの根幹にある「命令権」による強制停止だ。


「な……?」


私は絶句した。 「識別コードZ-001」? 「001」ということは、彼はこの世界の最初の登録者、つまり――?


ゼクスは冷ややかに私を一瞥した。


「勘違いするな。私はただ、掃除のために『鍵』を借りているだけだ」


その言い訳は、あまりに苦しい。 あの権限レベルは、GMゲームマスタークラスのものだ。



【容疑者C:記憶喪失の少女・ルミの場合】


「うふふ。おじちゃん、乱暴だなぁ」


床にめり込んだガーディアンが、再起動しようと火花を散らす。 その頭上に、ルミがふわりと飛び乗った。


彼女は無邪気に笑いながら、ガーディアンの鋼鉄の装甲を、まるで粘土のように指先で捏ね始めた。


「痛いのはかわいそう。だからね……**『書き換えて(Rewrite)』**あげる」


ルミがポン、と手を叩く。


ボフッ。


次の瞬間、凶悪な機械の守護者が、大量の**「白い花」**に変化して弾け飛んだ。 鉄の塊が、一瞬で植物データに置換されたのだ。


「え……?」


アーサーたちが腰を抜かす。 破壊でも削除でもない。「定義の変更」。 敵を花に変えるなんて、創造主カミの気まぐれ以外の何物でもない。


ルミは花びらの中でクルクルと回り、銀色の瞳で私を見つめた。


「ねえ、おねえちゃん。綺麗な世界になったでしょ?」


その無垢な笑顔は、背筋が凍るほどに「人間離れ」していた。 善悪の概念がない。ただ、思い通りに世界を塗り替える全能感だけがある。



【容疑者B:吟遊詩人・エルモの場合】


ゼクスの重力制御と、ルミの現実改変。 二つの強大な力が衝突し、塔そのものが悲鳴を上げ始めた。 天井が崩れ、巨大な瓦礫が私たちの頭上に降り注ぐ。


「きゃあっ!?」 「しまっ……間に合わん!」


ライオネルさんが私を庇おうとするが、瓦礫の量が多すぎる。 もはやこれまで――。


「~♪ はい、カーット」


軽い声と共に、リュートの音が**ジャン!**と響いた。


その瞬間。 世界が停止した。 落ちてくる瓦礫も、舞い散る花びらも、爆発の煙も。すべてが映像の一時停止ポーズのように空中で静止した。


動けるのは、吟遊詩人エルモただ一人。


「やれやれ。役者が勝手にアドリブを入れすぎだよ。これじゃあシナリオが台無しだ」


エルモは止まった時間の中を悠々と歩き、空中の瓦礫を指でツンツンと突いて、軌道を少しだけずらした。 そして、私の耳元で囁いた。


「大丈夫。まだ君の出番ターンは終わらせないよ。……僕が観測している限りはね」


エルモが再び指を鳴らす。


「――アクション」


時間が動き出した。 ズドドドドッ! 瓦礫は私たちのギリギリ横をすり抜け、誰も傷つけることなく地面に突き刺さった。 あり得ない確率。ご都合主義の極み。 それはまるで、誰かが**「脚本を書き直した」**かのような奇跡だった。



静寂が戻る。 残されたのは、花に変わった敵の残骸と、無傷の私たち。 そして、互いに牽制し合う3人の怪物たち。


私は震える足で立ち上がり、彼らを交互に見た。


「……嘘でしょ」


私は乾いた笑い声を漏らすしかなかった。 犯人捜し? バカバカしい。 ここには「カミサマ」級の化け物が3人もいる。 この中の誰が黒幕でもおかしくないし、あるいは……全員がグルという可能性だってある。


「さあ、第一関門は突破だ」


エルモが何事もなかったかのようにリュートを構えた。


「行こうか、愛しき主人公たち。この塔の最上階に、答えの一部があるはずさ」


3人の怪物が、私を促す。 私はライオネルさんの半透明な手を握りしめた。 この手だけが、私の唯一の現実リアル


「……ええ、行ってやるわよ」


私は覚悟を決めた。 神々がサイコロを振るなら、私はその盤面ボードごとひっくり返してやる。


最上階への階段が、地獄への入り口のように口を開けていた。

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