白衣の天使と不死身の狂戦士②
いらっしゃいませ! ご来店ありがとうございます。
大変遅くなりました!
白衣の天使と不死身のバーサーカー編、最終話でございます!
お姫様を狙って館に多数の族が侵入した。これを忠義の騎士が迎え撃つ。
騎士の腕は確かなものだったが多勢に無勢。賊が手にした刃が卑劣にも背後から騎士の身体を貫いた。しかし騎士は倒れない。体に刃を埋め込まれたまま、逆に賊の首を一刀のもとに切り落とす。
ずぶり。今度は槍が腹を貫いた。騎士は言葉にならない雄たけびを上げると槍を腹から引き抜き投げ返す。恐ろしい力で放たれた槍は賊数人をまとめて串刺しにする。
剣が、槍が、無数の矢が、騎士の身体を蹂躙する。
しかし彼の動きを止めることはできない。最初の一撃で、あるいはその後のどこかで、騎士は既に死んでいるのだ。殺すことなどできるわけがない。
やがて全ての賊を切り伏せた後、役目を終えてやっと自分の死に気づき、騎士はお姫様の腕の中で安らかな終わりを迎える。
これはマディアの図書館の本に書かれている物語。似たようなお話は現実にもいっぱいある。首をはねられて尚、部下たちを守った隊長、首だけになっても主君を諫めた忠臣、倒れることを自らに許さず立ったまま息絶えた僧兵。普通に考えればそんなことが起きるわけはないんだけど、その一方で本当なんじゃないかとも思ってしまう。
現実世界でこれらのお話の真偽を検証する術はないけれど、ネオオデッセイの騎士とお姫様のお話は本当だろう。だって私達はこの時騎士を動かし続けたのと同じ力を、「スキル」として扱えるのだ。
だから、図書館の本に書かれているお話はこれで終わりなんだけど、きっと本には書かれていない続きがあって、
それはハッピーエンドに違いないのだ。
□□□
「では双方、準備は宜しいですじゃ?」
ギルドマスターである師匠に対して反旗を翻したダーニンさん一味の七人と、師匠の代理でそれを迎え撃つヴァンクさんハクイさんペアの戦いが、今まさに始まろうとしている。
この戦いに勝った方がギルドマスターを選ぶということになっているのだ。
オンジさんは中立的な立ち位置と言うことで自分から審判役を買って出てくれた。<なごみ家>には来たばかりの人だけど、以前から師匠達ともお友達だったし私も良くお話していた人なので私的には「こっち側」だと思っている。
ダーニンさんについているのは六人。ツルサギさん、ぬーばさん、シーゲルさん、めりちょさん、おサトさん、ボルテックスさん。あまり話したこともない人たちだけど、好きにはなれない。ツルサギさんとぬーばさんはダーニンさんの後ろで「w」って打ってるだけの人たちだし、めりちょさんなんかブンプクさんが馬車貸してくれないって師匠に泣きついた人だし。おサトさんは……。
……私が師匠の家に部屋を持ってるのがズルいと騒いだ人だ。
「ワシがコインを投げますじゃ。コインが落ちたら戦闘開始ですじゃ」
「いつでもどうぞ」
ハクイさんの前には正装であるパンツ一丁のヴァンクさん。二人しかいないからね。単純ではあるけれど、これは二人の必殺の布陣だ。
「いいwwwよwwwww」
対するダーニンさん達は適当に纏まっている。ダーニンさん達のスキル構成はよく知らないんだけど、あの陣形見てるだけでもお二人が出るまでもないんじゃないかなって気もするんだよね。正直私でも勝てそう。
いやほんと。七人は無理だけど、ダーニンさんとタイマンならいけるんじゃないかな。これでもリンゴさんに色々仕込まれているのだ。
「では、行きますじゃ」
ぴん、とオンジさんがコインをはじく
<system: <オンジ>がコイントスを行いました>
・
・
・
<system:<オンジ>のコイントスの結果:裏>
ごおおおおおおおおおう!
開幕の瞬間、ヴァンクさんが雄たけびを上げ、その身体が赤く染まる。スキル≪狂戦士化≫の発動だ。
ダーニンさん達は一瞬身構えたけど、様子見にとどめるようだ。まあ、好きにすればいい。もう何しても無駄だし。
「どうした? 来ないのか?」
≪狂戦士化≫状態で真っ赤になったヴァンクさんが挑発する。
「wwwwwオマエwwwバカだろwwwwオレらこのまま近づかなかったらwwオマエww死ぬじゃんww」
ダーニンさんの言葉にぱらぱらと続く「w」の文字。嘲笑のつもりなんだろう。
バーサーク状態ではHPが低いほど攻撃力と攻撃速度が増していく。そして発動中は勝手にHPが減っていく。確かにそのままでいれば死ぬだろうけど。
「そうか。どっちでも構わないんだがな」
ヴァンクさんはそのままバーサーカーの雄たけびを上げ続ける。当然HPも減り続ける。
ごおおお、おおおおおおおおおう。
半分になって、三分の一になって。
ダーニン様ご一行は笑いながらその様子をみていた。あのHPなら一撃で倒せるんじゃね? 見てようぜ。面白いから。
精々笑っていればいい。直ぐに引き攣ることになるんだから。
HPが残りほんのわずかになってやっと、ヴァンクさんはダーニンさん達に向かってゆっくり歩き始めた。
ごおおおお、ごおおおおおおおう。
その後ろで、ハクイさんが魔法の詠唱を始める。蘇生の魔法。でもこの魔法はヴァンクさんを「生き返らせる」ための魔法ではない。
さらにHPは減っていく。残り、5。
4……
3……
2……
1……。
そして、ヴァンクさんのHPは、静かにゼロに———。
そこに合わせてハクイさんが魔法を完成させる。真っ赤に染まる狂戦士の身体を、白い聖なる光が覆う。
どん。
瞬間。ヴァンクさんは一度だけ剣を振るった。前方を広く攻撃する技、<薙ぎ払い>。
おお……。期待はしてたけど凄い威力。その一撃はダーニンさん達七人全員の命を一瞬で奪い去った。
あああ、ご、ああああごあああああ。
剣を振るい終えたヴァンクさんは狂戦士の雄たけびと同時に苦し気な断末魔の叫びを挙げながら崩れ落ち、息絶える。
それでおしまい。
戦いに参加した二チーム九人のうち、生きているのはハクイさんだけ。
「今のは、バーサーカー砲……?」
「審判の爺さん。気持ちはわかるがまずは仕事を頼む」
「おおう、失礼したじゃ。それまでじゃ。勝者、ヴァンク・ハクイチーム!」
リンゴさんに急かされて我に返ったオンジさんが高らかに宣言する。解説と審判いっぺんにやるのは大変ですね。
「思った以上につまらない戦いだったな。ハクイの出番がほとんどなかったじゃないか」
「私のせいじゃないわよ」
仕方ないのだ。勝負はついてしまったのだから。本当はここからが二人の凄い所なんだけど、相手が弱すぎたんだよね。
「知らないヤツも多いだろうからな。今ヴァンクがやったことを僕が説明しておこう。今爺さんも言っていたが、ヴァンクが最後に放った攻撃。あれは俗にバーサーカー砲と呼ばれるものだ」
≪狂戦士化≫のスキルには大きく三つの効果がある。
一つ目は一見デメリット。使うとだんだんとHPが減っていく。死霊術の<リッチー化>よりは緩やかだけどそれでも長時間使うことはできない。何処かで≪狂戦士化≫《バーサーク》を解くか回復するかしないと死んでしまう。
二つ目、HPが減るごとに攻撃力と攻撃速度が上がっていく。≪狂戦士化≫状態ではゼロに近づくごとに攻撃力は指数関数的に上がっていく。HPが低ければ死にやすくなるわけで実に使い勝手の悪いスキルなのだけど、そこがいいと言うことで狂戦士化にはマニアックなファンがついている。
三つ目。HPがゼロになった後、一瞬だけまだ動けること。
一秒にも満たない時間だけど、バーサーク状態のままHPがゼロになるとそのあとほんの少しの間、動くことが出来るのだ。ただし動けるとは言えほんの極わずかな時間なのでスキルを使ったりは無理。通常攻撃が一度できるかどうかという所。
さてここで問題。
このHPがゼロになった瞬間、≪狂戦士≫は生きているでしょうか、それとも死んでいるでしょうか?
哲学みたいで答えを出すのは難しい。そして面白いことに、システム上でもこの答えは明確にされていないのである。
HPゼロになった瞬間に回復魔法をかけても死んでいるとみなされ、回復を受け付けないのだ。
ならば蘇生魔法ならどうなるのか。
実は蘇生をすることもできない。ここでは死んでいないとみなされるのだ。実際に蘇生を行った時に、不思議な現象が起きる。生きても死んでもいない状態に蘇生魔法が重なると、HPがゼロのまま動ける状態が、ほんの一瞬から数秒間に延長されるのである。
ネオデは古いゲームであちこちにバグが放置されている。だからこれもバグなんじゃないかなんて噂もあったそうだ。でも私はそうは思わない。運営からは仕様であると見解が出ているし、そもそもこんなことを言ってる人たちはマディアの図書館に行ったことないんだと思う。
ここで第二問。
≪狂戦士≫の攻撃力と攻撃速度はHPがゼロに近づくにしたがって指数関数的に上昇していきます。では実際にゼロになった時、攻撃力はどうなるでしょうか?
その答えがヴァンクさんがやったこと。HPがゼロで放つ攻撃は、HPが1の時に放つ攻撃とは雲泥の差になるのだ。範囲攻撃一つでアバター七体を吹き飛ばせるくらいに。
この攻撃は躱すこともできない。HPゼロの時の狂戦士は攻撃力だけじゃなくって攻撃速度もとんでもないのだ。
防御するのも難しい。薙ぎ払いのような本来のダメージが少ない技ならともかく、単体向けの大ダメージ技を放てば防御越しにぺちゃんこだ。ショウスケさんでも一発耐えるのがやっとらしい。パンツ一丁は伊達じゃないのだ。
だからもし二人が戦った場合……。あれ? どうなるんだ? 一発耐えればその後ヴァンクさんは死んじゃうからショウスケさんの勝ちかな? でもハクイさんとペアならヴァンクさんの……。いやまてよ、それだとショウスケさんの後ろにはラスボスのブンプクさんがいることになるな。これは難しい問題だぞ?
おっと、話を戻そう。
この狂戦士が死ぬ間際に蘇生魔法を受けつつ放つ一撃は俗に「バーサーカー砲」と呼ばれている。私的にはこの技名のセンスには納得がいかないのだけど、そう言われているのだ。仕方がない。
「バーサーカー砲」はバーサーカーアニキ達の間では浪漫技なのだけど、相棒がいないとできないし、相棒が蘇生魔法の詠唱に失敗しても成立しない。それに一発撃ったらおしまいだ。その後は今のヴァンクさんみたいに死んでしまう。死んだあと蘇生して撃ちなおすことはできるけど、蘇生魔法を二回使う計算になるので効率は良くない。死んだときに剣とか鎧とか外れてたりするし。まあヴァンクさんから鎧が外れることは無いけどさ。
でもバーサーカー砲がいくら凄いって言ったって対人戦で一撃打って終わりにはならないだろうけどね。ヴァンクさんとハクイさんが凄いのはここからなんだけど、相手が弱すぎたんだよね。
「お前なあ。蘇生遅いんだよ。なんで一人で勝ったみたいな顔して突っ立ってんだよ」
ハクイさんは今になってやっとヴァンクさんを蘇生してあげていた。
「うるさいわね。試合が終わったんだから私じゃなくてもいいでしょう」
無茶言わないで欲しい。そりゃあ私だって蘇生はできる。師匠だってできるし、他にもできる人はいっぱいいる。しかし誰がこの二人の間に入ってヴァンクさんを蘇生できると言うのか。
「次はすぐしてあげるわよ。どうせこれで終わりじゃないでしょうから」
「マジかよ」
ヴァンクさん以上に長い時間幽霊状態で放置されてたダーニンさん達七人は、見守っていたギルドメンバーの一人、カオリンさんが進み出て蘇生してあげていた。カオリンさん優しいですね。勇気ある行動だと思います。
ハクイさんは絶対にしないだろうし、師匠に蘇生されるのはダーニンさんが嫌だろうし、私もできるけどしたくないしね。
「何いまのwwwチートwwじゃんwwwアレで勝ったつもりww?????ww」
生き返ったダーニンさんからはハクイさんの予測通り異議申し立てがあった。
「俺達w固まってたからいっぺんに殺されただけじゃんwwwバラけてたらあいつ一人で死んでおしまいじゃんwwww」
それはこっちがグー出してたら勝ってた、って言うのと一緒じゃないかな。こっちがパーを出しているのにチョキを出したお前らはズルいってね。
「それは通らんじゃ。ヴァンクさんが薙ぎ払いを選んだのはあんたらが固まっとったからじゃ」
審判役のオンジさんがダーニンさん達を諫めるけど、それも通じないようだ。
「なにwwwオイオイwww審判wwグルかよwww」
「儂は審判を引き受けたじゃ。ヴァンク・ハクイペアの勝ち。何と言われても譲らんじゃ」
あ、オンジさんかっこいい。猫さんに見せてあげたいな。オンジさん、猫さんと仲いいんだよね。オンジさんも寂しいだろな。猫さんは拠点を訪ねてくることは無くなったけど、マディアの町に行けば会うことはできる。猫さんの方が遠慮しちゃうからあまり一緒には遊べないんだけど。
「オンジのお爺ちゃん、いいわよ。その人たちが納得するまでやりましょ」
「しかし、ハクイさんや……」
「大丈夫よ。ありがと。お礼にいいもの見せてあげるわね」
「いいものじゃと……? ッ⁉ まさか!」
別にえっちな話ではない。<バーサーカー砲>を知っていたオンジさんは、ハクイさんの言う「いいもの」が何か気が付いたらしい。
「ではハクイさんの温情により、再度試合を始めますじゃ。引き続き儂が審判をつとめるじゃが、異論があれば降りるじゃ。変わってくれる人がいたら喜んで変わるじゃ」
誰も手を上げなかった。ダーニンさんも言い過ぎたと思ったのか「w」と一つ打っただけにとどまった。
オンジさんを真中に、二つのパーティーが再び向き合う。
「ちょwwこれ別に向き合わなくてもwwwいいんじゃwww」
ほほう、そう来ましたか。
ダーニンさんの指示の下、ハクイさんとヴァンクさんを七人で取り囲むように並ぶ。なるほど少しは考えたのかな。
「はじめていいよwww」
この形で一斉に攻められるとハクイさんにも攻撃が当たってしまうため、さっきの技<薙ぎ払い>は使えないと言うわけだね。
「では。双方宜しいですじゃ?」
<system: <オンジ>がコイントスを行いました>
・
・
・
<system:<オンジ>のコイントスの結果:裏>
「辻ヒーラーからやれ!」
やれやれ。作戦はパーティーチャットとかでやりなよ。あ、わかった。見てるギルドメンバーへのアピールだな。
舐めて貰っては困る。実はハクイさんの防御力は高いのだ。<辻ヒーラー>が死ぬわけにいかないからね。白いローブに加えて上半身には金属製の白い胸当て。籠手もブーツも金属製。盾も小さいながらも性能の良いものを使っている。金属部分も表面はローブと同じ真っ白。でもつなぎ目からは時折内側の黒い部分がのぞく。鎧表面にも模様のように黒い線が走っている。
元はここも真っ白だったのだ。でもある日を境に鎧に黒いラインが入ることになった。<ニゲライト>という真っ黒なで補強したためだ。
真っ白へのこだわりと鎧の性能を天秤にかけた結果、しぶしぶ(ということになっている)ハクイさんは鎧をニゲライトで強化する方を選んだ。
結果、ハクイさんは、ギルド<なごみ家>において、ショウスケさんに次いで二番目に堅い。そして当然自分への回復力はものすごいのでそう簡単に倒されはしない。当然ヴァンクさんがハクイさんへの攻撃をむざむざ許すはずもない。
攻めあぐねている所をヴァンクさんが襲う。先の戦いの後、蘇生しただけで回復していないヴァンクさんの攻撃力と攻撃速度は既に他の追随を許さない。まずは一人、シーゲルさんが倒れた。
「くそっ、やっぱり裸の奴からやれ!」
はい悪手。ヴァンクさんへの攻撃はヴァンクさんが無敵になるまでのタイムリミットを縮めるだけだ。ま、どうやっても勝てないんだけどさ。
攻撃を受けてヴァンクさんのHPがゼロに。同時にハクイさんの蘇生魔法が発動。真っ白な光がヴァンクさんを包む。
どん。
ヴァンクさんの振るった剣はツルサギさんを一撃で葬る。そして同時にヴァンクさんの断末魔が響く。
「wwwやっぱり一発屋wwwww後は」
どん。
続いてぬーばさんが倒れた。
「あ?」
どん。
更に一振り、ボルテックスさんが倒れる。
「アイツなんで、生きて……?」
ごおごうという断末魔が、とぎれない。
ごおおおうという狂戦士の叫びも、途切れない。
ぐおおおぐおおおおおおおおおおお!
二つの声があわさって、身の毛もよだつような音となって空気を振るわせる。≪狂戦士化≫状態で真っ赤に染まるヴァンクさんを、真っ白な聖なる光が包んでいる。
「無限バーサーカー砲……。二人で、じゃと?」
オンジさん、審判と解説、一緒にお疲れ様です。
——昔、面白いことを考えた人たちがいた。
バーサーカー一人を三人がかりで蘇生するとどうなるのか。HPゼロの状態を長引かせることが出来るのではないか。面白い。ならば試してみようじゃないか。
実験は成功した。なんと三分もの間、バーサーカーはHPがゼロのまま生き続けたのだ。死ぬまで戦い続けるバーサーカーは、死んでも戦い続けるバーサーカーとなった。
世の中にはとんでもないことを考える人がいるものだ。三分間バーサーカー砲が打ち放題。バーサーカーアニキなら一度はやってみたいであろう夢の境地。この状態を一般に、<無限バーサーカー砲>と呼ぶ。
……。
凄いんだけどさ。ほんと、もうちょっとかっこいい名前つけられなかったのかな!
おほん。
そして、世の中には蘇生役三人分を一人でこなしてしまうとんでもない人がいる。<三重蘇生>を操る<辻ヒーラー>、ハクイさんだ。
<無限バーサーカー砲>発動中はどうやってもヴァンクさんを止めることはできない。だってすでにHPはゼロなのだ。ハクイさんへの攻撃は通らない。誰よりも早く、誰よりも強い攻撃を放つヴァンクさんがそれを許さない。
どん。どん。
おさとさんとめりちょさんが続けて倒れる。
時間にして一分弱。ハクイさんの力を以てしてもそれが限界。
だけどこの一分足らずの時間で、二人は最古の竜さえも屠ってみせる。
「終わりだ」
「ww卑怯www」
最後の一人、ダーニンさんを構えた盾ごと一刀のもとに両断。役割を終えた狂戦士がゆっくりと倒れる。
「勝者、ヴァンク・ハクイチーム!」
オンジさんが高らかに宣言し、見守っていた十人以上のギルドのメンバーから一斉に拍手が上がった。
□□□
「何、今のww完全チートじゃんww」
「<無限バーサーカー砲>は仕様じゃ。運営からしっかり回答が出とるじゃ」
カオリンさんに蘇生して貰ったダーニンさんはまだ納得していない様子。でもそろそろ飽きてきたな。弱い者いじめも可哀そうだし。
「こっちが逃げてたらあいつ勝手に死ぬじゃんwwwそしたらこっちの勝ちじゃんww」
さっき師匠のこと逃げてただけって言ってなかったか? そして別に逃げててもヴァンクさん死なないからね。スキル解けばいいだけだから。ハクイさんもうんざりしてるんじゃないかな。
「いいわよ。何回でも、何人でも。そっちが納得するまでやりましょう?」
あ、そうでもなかった。まだやり足りないんだ。
「俺はそろそろ落ちたいんだが」
そうだよ。ヴァンクさんだってお子さんの事あるんだかからね。いい加減納得してくれないものかな。
「なんなのもう。七対一で勝てないとか意味わかんないんだけど。何で誰も止められないわけ?」
「めりちょ……。お前だって何もできなかっただろう」
「なに言ってるの? 一番最初に死んだくせに! 私は最後まで死ななかった!」
おや……? ダーニン一味の様子が……? めりちょさんとシーゲルさんが喧嘩を始めたぞ?
「一番上手い奴最初に潰すのは当然だろ」
ぼそっと呟かれたヴァンクさんの言葉にめりちょさんが口を紡いだ。気が付いたかな。ヴァンクさんはほっといて問題ないかなって思ったからあなたを後回しにしたんだよ。
「なんなのもう。最悪なんだけど。なんか私こっちについたみたいになってるし」
「ああ? そもそもお前がギルドマスター変えるべきだって言いだしたんだろ」
今度は本当は師匠側だったみたいなことを言い出しためりちょさんに言い返したのはツルサギさんだ。
「酷い!私そんなこと言ってない! 」
めりちょさん、自分が少数派だと知って怖くなったのかな。さっきの拍手見ちゃったらね。
「言ったろ、はっきりと!」
「言ってない! 嘘だからね。信じないでね、みんな!」
どっちなんだろね。どっちでもいいや。めりちょさんが馬車のレンタルを断られて師匠に泣きついて冷たい対応をされたと騒いでたのは事実だけど。喧嘩止めて欲しいなあ。やるなら二人でどこか行ってやってくれないかなあ。あ、七人でもいいよ。そしたら時間ある人でどこか遊びに行くから。
どうやって収集付けるのかなあこれ……。
『ただいまあ~~』
おや、ギルドチャットに響くこの癒し系ボイスは。
『お~~、ログインしてる人多いね~~。みんなどこ~~? 何してるの~~?』
ブンプクさんだ! いい所に来てくれた。ブンプクさんは嫌な雰囲気を払拭することにかけては定評がある。私の中で。
『お帰りなさいブンプクさん。師匠の家です~。実は戦って勝った人がギルドマスターを決めるって話になっちゃって、今それが』
『ええええええええええ~~~、だめ~~~~~~!』
『あ、いえそれはもう……』
『待って~~私が行く~~~~』
『いえ、ですから……』
『まだ始めちゃだめだよ~~。すぐ行くから~~~~』
いつもより~~が多いなブンプクさん。まあ来てから説明すればいいか~~、と思っていたのだけど。
「まずいわ。どうしましょう」
「いや、流石にやらないだろ、こんだけ人数いるんだし……」
「それは楽観が過ぎるわ。だってブンプクよ?」
「…………」
ハクイさんとヴァンクさんがなにやら不穏な会話をしている。ん? ブンプクさんが何かするの? まあ、ブンプクさんはラスボスだからな。馬車とは名ばかりの戦車とか持ち出してくるのかな? もっとすごいものかもしれない。まあ、それならそれでいいか。見てても面白そう。
「お待たせ~~。さあ、やろっか~~」
転移魔法で現れたブンプクさんは一本の杖を手にしていた。
ブンプクさんは刀使いだ。なんで杖なんか……。変に禍々しいし……?
あれ、待てよあの杖。博物館で見たことあるぞ。
ブンプクさんのステータスを開いて持っている杖を確認する。
<ウモの怒り>
…………。
マジでヤバい。
<ウモの怒り>はダンジョン<ウモ>が出来たばかりの頃に手に入れることが出来たアイテム。一度しか使えないが一帯を強力な炎で包み、そこにある全てを焼き尽くす。アバターなんかどんだけ固くってもオーバーキル。炎に強いセルペンスだって焼き殺してしまうのだ。
いや、セルペンスってめちゃくちゃ強いんだよ? 一分で、とか一撃で、とかそういうの普通ないからね?
それも恐ろしいんだけど、もっと恐ろしいのは値段で。
<ウモの怒り>は手に入れられた当時は面白半分に使われることもあったみたいだけど、使えばなくなってしまうわけで、現存する物は下手したらいまブンプクさんが手にしているその一本だけかもという代物。ブンプクさんの博物館でも最高クラスのレアものだ。
繰り返して言うと、使うとあの杖は失われる。
「わあ、ブンプクさんちょっと待って」
「落ち着け。落ち着くんだ」
「ブンプク、大丈夫だ、大丈夫だから」
「うん~~。大丈夫~~、任せて~~!」
うわあ、本気だ。
「ショウスケ君は? ショウスケ君いないの? 画面見てない?? ショウスケ君ブンプクを止めて!」
「なんですじゃ? あの杖が何か?」
「あの杖はね、いや、とりあえず逃げて、みんな逃げて―!」
「駄目~~~~、逃げないで~~~~!!」
□□□
全員で説得した結果、ブンプクさんは大量虐殺を思い留まってくれた。
ギルドからはダーニンさん、ツルサギさん、ぬーばさん、おさとさんが脱退。
シーゲルさんとボルテックスさん、あとめりちょさんはギルドに留まることになった。シーゲルさんとボルテックスさんは師匠に謝っていたけれど、師匠はそれを快く受け入れた。まあ、師匠だからね。ちなみにめりちょさんは私は何も悪くないと言うことで特に謝罪は無かったようだ。
でもそれと別に数人脱退者が出た。気持ちはわかる。せっかく遊びに来てごたごたに巻き込まれるのは嫌だ。ごたごたはざりざりしちゃうからね。これも仕方のないことだろう。
ギルド勧誘を頑張っていたマッキーさんはこの件で責任を感じたらしくすっかりしょげてしまった。他の人もしばらくはメンバーを増やしたいとは思わないだろう。
だから。一応とりあえずはこれで一件落着、だ。これでギルドが落ち着いて、みんなが楽しく遊べるようになるといいんだけど。
お読みいただきありがとうございました。
本当に遅くなってしまいまして申し訳ありません。
次回も張り切ってまいります。
また見に来ていただけたらとても嬉しいです!




