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ダーニンの乱①

いらっしゃいませ!

ご来店ありがとうございます。ずいぶんと時間が空いてしまいまい、申し訳ございません!


 ダーニンは激怒した。必ずかの不公平で自分勝手なギルドマスターを除かなければならぬと決意した。


 かつてダーニンは小さなギルドのマスターだった。ギルドマスターとしての責務を果たすため、寝る間も惜しんでギルドに尽くしてきた。だがリアル事情やネオオデッセイ以外のゲームへの移住など、ダーニンにはどうしようもない理由からメンバーはいなくなってしまった。


 自分以外の最後のメンバーがこの世界に来なくなって三か月が過ぎたころ、ダーニンは町でマッキーと言うアバターと出会った。


 マッキーはギルドマスターの期待に応えるためにメンバーの勧誘をしているのだという。勧誘はダーニンもしたことがある。ギルドは大切な場所だ。ネットゲームをする者達は自由時間の多くをゲームの中で過ごす。その時間を共有するギルドメンバーは大事な友人、いやそれ以上の、家族のような存在だ。


 ギルドの為にと頑張るマッキーの姿に心打たれ、ダーニンはそのギルド<なごみ家>に入会することにした。<骨董屋>や<辻ヒーラー>といった有名な女性プレイヤーが在籍しているというのも理由の一つではあったが。


 だが実際に入ってみるとギルドマスターの<ナゴミヤ>はひどい男だった。まずログインしてこない。メンバーの中にギルドマスターを見たことがないという者が大勢いる。これは大問題だ。


 ギルドマスターたる者、常にメンバーの為に行動すべきだろう。マッキーや他のメンバーに申し訳ないと思わないのだろうか。


 ナゴミヤが一部のメンバーを特別扱いするのも気に入らなかった。


 ナゴミヤはメンバーの一人にギルド拠点の一部を専用の部屋として貸し出しているのである。しかもその相手はまだ一年程度の新人である。


 理由は明らかで、ナゴミヤはひどく弱いのだ。自分でモンスターを討伐することが出来ない。だから文句を言わない者達と行動し、アイテムやゴールドを恵んでもらっているのだ。優遇はその見返りと言うわけだ。しかも自分に対して得になるならばギルドメンバーよりも関係のない別ギルドの者だって優先する。


 それにダーニンの目当ての一つでもあった<辻ヒーラー>は殆どログインしてこない。理由は<辻ヒーラー>が旧メンバーの一人<ヴァンク>と仲が悪いせいであるらしかった。この男もナゴミヤが優遇する者の一人で、ナゴミヤ同様殆どログインしてこない。だが現れる度にハクイに嫌味を言い、すぐにログアウトしていくのである。ヴァンクのパンツ一丁と言う意味不明な服装も気に入らない。ハクイが嫌がるのも無理はなかった。


 ギルド内で固定パーティーが出来上がっているのも好ましい環境とはいいがたい。


 誰もが一緒に遊びたいであろう有名プレイヤー<骨董屋>や、この世界に来てまだ一年の新人であるコヒナが一部のメンバーとだけパーティーを組むのである。これではみんなが楽しく遊ぶことが出来なくなってしまう。だがギルドマスターのナゴミヤはそのことに対し何ら注意をすることもしなかった。


 他にもメンバー同士の取引に口を出すなど、ナゴミヤのギルドマスターであることを笠に着た言動には全くイライラさせられた。


 そもそもギルド内にPKがいるなど論外だろう。


 なにもしない、何もできないギルドマスター。そのくせギルドに自分の名前を付けているのも腹立たしい。


 調べれば調べるほどおかしな点が見つかった。自分と同時期に入ったクラウンも同じように感じているらしく、ダーニンの知らない情報を持って来てくれる。


 骨董屋がよく一緒に出掛けているレナルドという男の良くない噂を教えてくれたのもクラウンだ。レナルドの少しズレた受け答えは噂が真実であることを感じさせる。そんな者をギルドに置いておいていいわけがない。みんなの為に排除すべきだ。ナゴミヤにはなぜそれが分からないのか。


 クラウンはギルドマスターにはナゴミヤではなくダーニンが適任だろうとはっきりと口にした。


 ダーニンには全くそんな気はない。だがここまで酷いなら仕方がない。ギルドの為、みんなの為、自分がやるしかないではないか。



 ■■■



 ———『ダーニンさん。今の、二度と言わないでね。』


 クソが、クソが、クソがっ! 馬鹿にしやがってっっっ!!!!



 ■■■



 ギルドのメンバーが増え、増えたメンバーが友達に声を掛けて。どんどん増えていってなんと三十人以上。今やなごみ家は大型ギルドだ。それ自体はいいことなのかもしれない。


 でもメンバーが増えて行く中で小さなひずみがいくつも起きた。


 レナルド君は新しい人たちにパーティーを断られたそうだ。理由は教えてくれなかったという。落ち込んでいるのをブンプクさんとショウスケさんが慰めていた。レナルド君は初対面では誤解を受けやすい。私も誤解をしていたので人のことは言えないけど。


 じゃあ私とレナルド君とブンプクさんとショウスケさんの四人でどこか行こうかということになるんだけど、それはそれで不満に思う人もいるらしい。ブンプクさんのガチファンという理由でうちに来た人もいるのだ。折角同じギルドなのにブンプクさんと一緒に遊べないのは嫌だとか、固定でパーティー組まれるとやりづらいとか。


 ショウスケさんはショウスケさんでスーパーマンなのでやっぱり一緒に遊びたい人も多くて、その人たちから見るとブンプクさんとショウスケさんがいつも一緒なのは気に食わないらしい。


 ……。


 馬鹿じゃなかろか。


 失礼、ちょっと感情的になりました。


 仕方ない部分もある。その人たちはショウスケさんとブンプクさんの関係を知らないのだ。別に内緒にしてるわけじゃない。でも、わざわざ喧伝して回ってるわけでもないから、急激にメンバーが増える中で知らない人も出て来て、そんな人が二人がいつも一緒に行動することに陰で文句をつけて。


 ……。


 …………。


 ………………………………。


 よし、耐えたぞ。


 レナルド君もそうだけど、ブンプクさん自身も誤解を受けやすい人だ。パーティーに誘われてのお断り文句が「レナルド君と遊びたいから~~」では勘違いされてしまう。


 ブンプクさんと言えば、荷馬車事件というがあった。


 そもそもは事件なんて言う大したことじゃない。めりちょさんと言う人がブンプクさんに馬車を貸してとお願いをしてブンプクさんが断った。それだけのことである。


 ただお願いされたブンプクさんが「駄目~~」とだけ言って何処かに行ってしまったので、ひどい冷たいとめりちょさんが騒ぎ立てたのだ。同じギルドのメンバーなのに貸してくれるくらいいいじゃないかとか、断るにしても言い方があるんじゃないか、とか。


 でもこれはめりちょさんが悪い。


 エタリリの世界ではアイテムの所有権は「現在持っている人」にあるのだ。「貸す」という口約束の元に渡したアイテムはシステムで取り返すことが出来ない。相手から返してもらうしかない。


 失くした、取られた、売り払った、返したくなくなった。


 貸した相手にそう言われてしまえばそれでおしまいなのである。この世界に一個とか二個しかないレアアイテムを保証金もなしに借りようとするめりちょさんの感覚の方がおかしい。駄目~~で済んだのはブンプクさんが優しいからだ。


 めりちょさんはこの件でギルドマスターの師匠に泣きついたのだけど、師匠は「ブンプクさんの物だから」とばっさりと切り捨ててしまった。当たり前だ。でもその対応もひどいとめりちょさんはさらに騒ぎたてて、一部の人たちの同情を買うことに成功したのだ。


 そんなことを言われた師匠にこそ同情する。


 でも師匠の元にはほかにも色々と面倒な苦情が寄せられているのだそうだ。


 ギルド内にPKがいるのはどうなんだとか、折角加入したのにハクイさんに会えないとか。固定パーティーは困るとか。


 それに、私の部屋の事。


 ギルドの拠点である師匠のおうちに、私だけ専用のお部屋があるのはどうなんだ、とか。


 この件に関しては確かに私だけの特別扱いだ。ただ弟子と師匠の関係ならそんなこと言われても開き直っていれたかもしれない。でも私は師匠に特別な感情を持っているので後ろめたくなってしまう。でもじゃあ出ていきますなんて言えない。あの部屋は私にとってとても大切な場所なのだ。


 この件も師匠は「あれ、俺の家だから」とあっさり切り捨ててくれた。でもそれが不満な人もいるらしい。


 一つ一つのことは小さな、個人的なことなんだけど、何故かそれは段々と、元々いるメンバーと新しいメンバーの溝になっていった。


 私自身もいつの間にか「元のなごみ家」と「新しい人たち」を別のものとして捉えていた。私がもう少し馬鹿じゃなかったら、そうじゃないってことに気づけていたのかもしれない。



 □□□



 その日は師匠の帰りも早く、ヴァンクさんとハクイさん、リンゴさんと旧メンバーが私を含めて五人もログインしていた。新しい人たちもいっぱい。ギルドの拠点にいる人だけで二十人くらい。魔物使いのオンジさんやギルド肥大化の立役者のマッキーさんもいる。


 拠点に来ないで遊んでいる人たちも多いのでログインしている人を全員合わせたら三十人近いんじゃないだろうか。


「凄い人数だねえ。折角だからみんなで何かしようか。あ、でもやりたいことある人はそっち優先して下さいねー」


 例によって予防線を張りながらの師匠のお誘い。これだけの勇者が揃えば最古竜セルペンスだってびっくりして逃げだしそう。


 まあセルペンスは人数多ければ何とかなると言う相手ではないけどね。ブレス一つで半分が死んで、その回復と蘇生をしてる間に残った半分が死ぬと思う。初見で勝てる相手ではないのだ。


「どこかのボスでもいいんだけど、かくれんぼとかする? ささやかだけど賞品出すよ」


 お、いいですねかくれんぼ。これだけ人数多いと面白そうだぞ。


 かくれんぼは文字通りのかくれんぼ。鬼が一人でみんなが隠れる。見つかった人も鬼になって隠れている人を探していく。鬼が増えてくのだ。待ってると暇だからね。で、最後まで見つからなかった人が優勝。


「ナゴミヤ、お前賞品出せるのか?」


 ヴァンクさんがいぶかしげに聞く。


「え、いや、まあ。あんまり期待はしないでね?」


 まあ、そうですよね。師匠だからね。かくれんぼはかくれんぼだけで面白いのだ。別に賞品がなくたっていい。モンスター退治もいいけどたまにはこういうのもね。


「ふむ。それなら僕から賞金を出そうか。マスターの財布では心もとないからな」


 ビッグなお申し出をしてくれたのは私の隣にいたリンゴさんだ。


「マジで? リンゴさんありがと。正直助かる」


「なに気にするな。丁度賞金首を一人倒して左うちわなんだ」


 おおー、とギルドメンバーたちから歓声が上がった。これはかなりの賞金が期待できる。


 リンゴさんは自分も賞金首だけど賞金稼ぎでもある。賞金首を倒すと凄い金額の報奨金が冒険者ギルドから支払われるのだ。金額は今まで賞金首がしてきた罪の重さと、討伐されるまでにかかった時間とで決められる。左うちわなんて言ってるってことは相手はかなりの大物だったんだろう。


 賞品はなくてもいいけど、あったらあったで燃える。冒険者ってそういうものでしょう?



「じゃあ、ルールを説明するね」


「ちょっとww待てよwwww」


「うん? ダーニンさんどうしたの?」


 ダーニンさんは猫さんの一件以来師匠を目の敵にしていて何かというと突っかかっている。師匠も大変だな。ダーニンさんがいない時は割とギルドも平和なんだけど、そのあたり気が付いてくれないものかな。


「鬼ごっこてwww付き合わされる身にもwwなって欲しいんだけどwww」


「あ~、そうか。ごめんねえ。最初に言えば良かったねえ。無理に付き合わなくていいよ。みんな好きなことしてね。ギルドイベントは参加自由だからね」


 いや、ちゃんと言ってたよ師匠。やりたいことあるならそっち優先してねっていつも通り予防線張ってたよ。ほんとそうしてくれたら楽なんだけど。でもダーニンさん的には納得できないらしい。


「いやwwそうじゃwねえだろwwwwww」


「うん?」


「何でwwギルド優先しないんだよwwwwwwwおかしいんじゃないのかwwアンタww」


「う、ううん? 俺は確かにおかしいけど、ううん?」


 ダーニンさんとしてはみんなでモンスターを一緒に狩るのが正しいらしい。それもボスだと効率が悪いから適度な中級モンスターを。そしてみんなが均等にダメージを与えないとダメ。師匠みたいにダメージ与えられないとか論外。


 今までのダーニンさんの主張をまとめるとそうなるんだけど。


 それ、楽しいのかな。ダーニンさんは楽しいのかもしれないな。ダーニンさんはな。


「アンタさ、いっぺん俺とタイマン張ってよwww」


「おお、模擬戦? いいよー。じゃあ今日はそれで行こうか」


 これだけ無茶苦茶言われても相手の意図を組んであげようとする。どこまでもお人よしの師匠である。模擬戦も楽しいけどね。でもモンスター討伐と違って勝ち負けが出ちゃうし、興味ない人にはつまらないんじゃないかなあ。でもみんな一度くらいはやってみたいかな?


「模擬戦じゃwねえよwwwwww」


「うん?」


「俺が勝ったらwwギルドマスター降りて貰うからw」


 は?……はああああ?


 どんな思考回路だ。ダーニンさん要はこの大人数の前で師匠を負かしたいのかな。師匠がギルドマスターを降りたらどうするつもりなんだろうね。まさか自分がやるとか言いださないだろうな。


「うう~ん、それは困るなあ」


 流石に師匠もいいよ、とは言わなかった。良かった。この人なら言いかねない。


「元々wなんもしてないからw困んねえよwwww自信ないのwwwwwギルドマスターの癖にwwww」


「ううん、そうだねえ」


 まあダーニンさんじゃ絶対師匠には勝てないだろう。本気になったら多分一発もダメージ入れられないよ。ダーニンさん別にうまくないし。


 でも師匠もダーニンさんには勝てないだろう。師匠ダメージ当てられないし。


「何なんだよwwオマエwwww」


「何なんだって言われてもねえ」


 のらりくらり答える師匠だけどそもそもダーニンさんの主張には正当性がない。何なんだって言われても困るのだ。


「言っとくけどコレ、ここにいる全員の総意だからwwww役に立たないギルドマスターに降りて貰うってwwwwww」


「えええ、まじかー。ギルドマスターって役に立たないと駄目なの?」


 大丈夫でーす!


 しかし総意て。ダーニンさん大きく出たなあ。意味知ってるのかな。今ここにいる二十人くらいの中で精々五、六人ってとこじゃない? 今ダーニンさんの後ろにいる人たち。他の人はみんなかくれんぼ歓迎ムードだったよ。


 ダーニンさんの言う「役に立たない」は「ダメージを当てられない」っていう意味なんだろうけど。別にギルドマスターのお仕事はダメージ当てる事じゃないからね。大体ギルドマスターの仕事っていうけど、師匠だって遊びに来てるんだよ。


 私が平静でいられるのには理由がある。私の隣にいる人が私以上に物凄く怒っているからだ。いや、怒っているなんて生易しいもんじゃないな。私に向けられているんじゃないのはわかっているんだけど、それでも怖いくらい。


 私は占い師なので勘は鋭い。でも特に武道とかをやっているわけではないのでソレを肌で感じたことなんて勿論なかった。リアルは平和だからね。


 だけど今私の隣にいる人。リンゴさんから発せられてるコレ。画面越し、ネット越しにビリビリ感じるコレはいわゆる「殺気」という物じゃないだろうか。


 ダーニンさんコレほんとにわかんないのかな。


「ぶっちゃけww空気読めないリーダーってw迷惑だからwwwリアルと一緒でwww」


 殺気がついにはじける。私の隣からリンゴさんの姿が一瞬で書き消えて———


 私はリンゴさんがダーニンさんに飛び掛かってぼこぼこにしちゃうんだろうなって思っていた。でも次に起こったの私の予想外のことだった。


 リンゴさんが襲い掛かったのは、ダーニンさんじゃなくて師匠の方だったのである。


お読みいただきありがとうございます。

次回の投稿は明日の夜の予定です。また見に来ていただけたらとても嬉しいです。

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