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前夜祭 3

いらっしゃいませ! ご来店ありがとうございます。

前回クリスマス前で、本当は去年のうちにクリスマスのお話、正月のお話を書く予定だったんですが。年末は忙しいですね!そんなわけで年は明けてしまいましたが、まだクリスマス前のお話です。

「占い屋さん!」



 クリスマスの日、師匠の隣で占い屋さんをするというブンプクさんの提案に、私のテンションはぐんと上がった。


 占いは大好きだ。昔は友人たちに見させろ見させろと迫って嫌がられたくらいだ。最近は控えているけど。控えていたけどギルド内で時々ネタにしてくれるのでちょっと再燃気味だけど。



「占い屋さんやるとなると、鎧だとまずいかな」



 師匠がまたいつもの腕組みのポーズをとる。



「まずいですか?」


「いや、まずいこともないんだけど。占い師っぽくない気がする」



 ふむ。


 鎧を着た占い師さんというのはあまり見たことがないかもしれない。様々なマジックアイテムを手に入れて都度強化されてきたバルキリーコヒナの装備は大変かっこいいが、占い屋さんにいたらきっと護衛の人とかと間違われる。



「じゃあ、サンタの服着てやります!」


「お、クリスマスっぽくていいかも。んじゃ試作品持ってくるよ」



  師匠は家に入るとサンタ服を取ってきて手渡してくれた。このままここで着替えれば楽なのだけど、それをやるとむっつりすけべの師匠がうるさい。面倒だけどお部屋まで行って着替えることにする。


 師匠は売り物のサンタ服を何種類か作っていたようだけど、私にくれたのは赤と白のエプロンドレスにおなじみのサンタ帽というもの。サンタの国のアリスという感じ。


 ふむ。流石師匠。可愛いぞ。


 でもちょっとロリっぽくないかな。師匠の趣味かな? リアルでは着られないけどコヒナさんならアリ。コヒナさんなんでも似合うからね。羨ましい。


 でもアバターが可愛い服を着ているとテンションが上がるのって何故なんだろうね。直接自分が着ているわけでもないのに。



「着てきましたー! どうでしょうかー!」


「!」



 一番先に反応したのは毒ずきんちゃんのリンゴさんだった。



「コヒナ、ちょっと僕と一緒に並んでくれ。写真が撮りたい」


「いいですね! とりましょうリンゴさん !」


「よし。これを持ってくれ!」



 リンゴさんが渡してきたのはリンゴさんがいつも持っているのと同じ籠バスケットとリンゴ(食べれないやつ)。左手にリンゴ、右手にバスケット。リンゴさんと対称になるように持って並んで記念撮影。


 ぱしゃっ!


 リンゴさんのテンションも理解できる。赤ずきんちゃんのリンゴさんとサンタコヒナのツーショット。これはなかなか良い絵ですよ。



「おう、似合ってるな」


「コヒナちゃんかわいい~~。ナゴミヤ君こういうの得意だよね~~」



 他のメンバーも口々にサンタコヒナを褒めてくれる。なかなか気分がいい。



「まーな!」



 と師匠はふんぞり返っていた。偉そうだがこの服を作れる師匠は偉いので別に問題ない。



「流石です師匠!」


「まーな! まーな!!」



 大変ご機嫌だ。偉いのでご機嫌なのはいいことだ。



「にゃあー。こっひー、おめーこれで占いするのかにゃ?」



 そんな中何故か猫さんだけが渋い反応をしていた。



「え、駄目ですか?」


「いや、駄目というか。可愛いとは思うんだけどにゃあ。占い師にしてはなんつーか、いかがわしくないかにゃ?」


「そうでしょうか? 」



 そうかなあ。可愛いと思うけどなあ。



「言われてみると……客層が偏りそうではあるわね」


「あー、ちょっと心配かもな。僕もそれで困ったことがある。隣にマスターがいれば問題ないとは思うけど」



 なるほど。ハクイさんの言うことは一理あるかもしれない。そしてリンゴさんが困った件についてはいつか詳しく聞きたい。



「アンタは困るくらいならそんな恰好してんじゃないわよ」


「却下だ。可愛いは正義だからな」



 リンゴさんは右手を斜め上、左手を斜め下にして膝を付く、この世界の祈りのポーズで答えた。師匠がやると変な人の変なポーズだが赤ずきんちゃんのリンゴさんがやると可愛い。まさに可愛いは正義の体現だ。


 うん。可愛いは正義なんだからこのサンタ服でもいい気がするんだけどなあ。



「俺的にはアリだな。クリスマスのプレイヤーイベントっぽくっていい」


「僕も問題ないとは思います。でも猫さんのおっしゃる通り、占い師っぽくは見えないかもですね」



 ヴァンクさんとショウスケさんの男性陣からも意見があがる。



「ううん、今年作った中では一番占い師っぽいのだったんだけどなあ。さてどうしたものか」



 師匠はまた腕組みポーズをとった。おおっ、この流れはもしかすると。



「んじゃ、いっそ占い師用の服作ろうか」


「いいんですかっ、師匠!」


「おおう、食い気味……」


「ありがとうございます!」



 だってねえ。師匠が占い師用の服作ってくれたらそれが一番いいに決まってる。作って欲しいなあとは思っていたけど、忙しく走り回ってる師匠に頼むのも申し訳ないと我慢していたのだ。



「材料あれば服作るくらい時間かかるものでもないからね。作るの好きだし。占い師か~。どんな感じにするかなあ」


「あ、師匠! それなら一つお願いが。ちょっと待ってて下さい!」



 返事を待たずにお部屋に戻り、大切に壁に掛けてあったマギハットを持ってきて師匠に手渡す。



「これを使って頂きたいです!」


「お、この帽子か。懐かしい」


「おー、あの時の帽子かにゃ。もう半年も前なんだにゃあ」



 師匠と猫さんもこのマギハットのことは覚えてくれていた。これは私が初めて手に入れた「お宝」だ。


 師匠と猫さんと一緒に倒した強敵がドロップした、紛れもない私の宝物である。


 強力な魔法効果を宿しているのだが戦士の私には使えない。でも占い師には良く似合うだろう。占い師に魔法の効果は必要ないけどね。



「そうだな、折角いっぱいあるからクリーピーダイの染料使ってみようか。この緑とかどう?」

 


 ダイの染料には聞いただけでは想像がつかない柔軟剤の香りみたいな複雑な名前が付いている。でも私にはどうにも覚えられないので「真っ赤」とか「うっすーい青」みたいな覚え方をしている。


 師匠が出してきた染料はやや青みを帯びた鮮やかな緑色だった。細かい銀色の砂のようなものが混じっていて微かに輝いている。


 染料の名前はエメラルドサンド。南の島の海みたいな色。


 ふむ、キラキラ緑だな、これは。



「綺麗だと思います!でもキラキラ緑はクリスマスで使うのでは?」



「キラキラ緑? いや、クリスマスの緑はもみの木の濃い緑だから道具屋さんの緑の方が合う。んじゃこれで帽子を染めて、と。よし、被ってみて」



 師匠から手渡されたマギハットは翠玉(エメラルド)を細かく細かく挽いて作った砂に同じく細かなダイヤモンドの砂を少し足した様な不思議な艶のある緑色に染められていた。リアルにあるものだと絹の光沢が近いか。ゲームの中の世界では、染料一つで素材の質感まで変わるのだ。


 これは綺麗だ。恐るおそる被ってみる。



「可愛い! 綺麗です!」



 更に魅力を増した自分の「宝物」を被っているのがうれしくて、思わずくるくると回ってしまう。

 

 

「んじゃ、それと合わせてっと」



 師匠のハサミの音がちょきちょきと響く。



「ラインは色を変えるか……?」


「いや待った。丈が……」




 ぶつぶつぶつ、ちょきちょきちょき。


 考えてることが(チャット)に出てますよ師匠。ってか独り言をチャットで呟くのはどういう状態なんだろう。聞いて欲しいのかな?


 師匠はぶつぶつ言いながら試行錯誤を繰り返す。私はいいんだけど、皆さんの時間が心配になってくる。あの、皆さまお先寝ちゃっていただいても大丈夫ですからね?



「よし、これでどうかな?」

 

 

 渡されたのはキラキラ緑で染められたドレスと金細工の施されたサンダル。うわ、占い師って言うかちょっとお姫様みたいだぞこれ。いいのかな私がこんなの着ちゃって。



「ありがとうございます!着替えてきます!」



 早く着てみたいし、皆さんの寝る時間も迫ってるし。


 大急ぎで再び自分のお部屋に駆け込んだ。


 ヴァルキリーコヒナの鎧を外し、帽子とドレス、サンダルを身に着ける。


 自分のアバターが綺麗な服を着るのは嬉しいことだ。とても素敵なことだ。


 まるでリアルでドレスに袖を通すときのような期待感がある。これも師匠の言うアバターとリアルの自分の繋がりなのだろうか。


 着替えたアバターを確認するのに鏡は必要ない。くるりと回ってリアルの眼でドレス姿になったコヒナさんを見る。


 ドレスを纏ったコヒナさんは綺麗だった。ドレスだけを見た時には「お姫様みたい」と思ったけどそんなことは無い。


 肌の露出は少なく、長い袖が腕全体を覆っていてスカートはロング。着る人の魅力や個性を引き出すよりも逆に覆い隠すような。ドレスの美しさには目を惹かれるけど、着ている人自身の印象は薄くなるような。


 所謂、神秘的と言うやつだ。


 これは占い師だ。凄いぞ師匠。あの短時間でこの服を作るのって、天才なんじゃないだろうか。

 

 となればあとは。


 今まではタンスの肥やしでしかなかった、見た目は可愛いが性能は微妙なアクセサリーたちをごそごそと引っ張り出してくる。

 

 占い師はアクセサリーを沢山つけているものだ。

 

 初めて買ったタロットカードの解説書の表紙に沢山アクセサリーを付けた占い師さんが描かれていたので間違いない。大変美人で大きなアクセサリーが似合っていた。

 

 派手なアクセサリーには見た目の神秘性の演出というのもあるけれど、場や自分を聖別する意味もある。タロット占いには直接関係のない水晶玉やパワーストーン、魔よけの品等を側に置いていたりするのも同じ理由だ。雰囲気づくりの為だけではない。


 雰囲気作りと場の聖別はもしかしたら一緒なのかもしれないけどね。

 

 リアルの私ではとてもじゃないが大きな宝石なんか付けられない。完全に宝石に負けてしまう。でもコヒナさんなら問題ない。なにしろ世界を救うために召喚された勇者だ。どんなに大きな宝石にだって負けたりはしないだろう。

 

 ネックレスは一番大きくて派手な緑色の宝石のついた物。師匠みたいにそれぞれの指に意匠の異なる指輪。腕輪は細かい金細工の施された物をやはり左右で別々に。ピアスはリング状になった大きなものを選んだ。

 

 じゃらじゃらじゃら。

 

 リアルだったら派手さや金額もさることながら、重量的にも大変になるだろうアクセサリー達。

 

 でも翠玉の砂(エメラルドサンド)で染められた帽子とドレスを纏ったコヒナさんには良く似合っていて。


 我ながら神秘的だ。これはいける。

 

 着替えを終えた私は再び、皆様の待つ庭へと飛び出した。



「じゃじゃーん!」



 おー!

 


 皆様から拍手が起きる。


 

「コヒナちゃんかわいい~~」

 

「これは綺麗だ。似合ってますね。流石マスター」

 



 手放しで褒めてくれたのはブンプクさんショウスケさんペア。


 でしょう、でしょう? 流石二人とも、わかってる。


 

「師匠師匠、どうですか? 神秘的ですか? 」



 服を作ってくれた師匠の前まで行ってくるくると回って見せた。


 

「おーすごいすごい。神秘的神秘的」

 

 

 ぱちぱちと手を叩く師匠。むう。なんかおざなりだな。不服。


 他の方にも聞いてみよう。



「どうですか? どうですか? 占い師っぽいですか?」



 みんなの前をくるくると回りながら占い師っぽさをアピールしてみる。



「あー、なんだにゃ。その。服は良く似合ってると思うにゃあ」


「うん神秘的。見た目は」

 

「そうだな。占い師っぽいな。服装は」

 

「当たりそうな気がするわね。しゃべらなければ」



 みんな褒めてくれたがどうにも歯切れが悪い。ハクイさんに至ってはなかなかひどい。しゃべらないでどうやって当てると言うのか。

 

 

「よしわかった。コヒナさん、もうちょっと占い師っぽくしゃべってみよう」



 師匠の言葉にはっと気が付く。そうだ。私は占い師になるのだ。見た目だけではだめだ。しゃべり方や立ち居振る舞いも占い師にならなくてはいけないのだ。


 

「師匠、占い師っぽいってどんな感じですか?」


「えっ、俺っ? ど、どんな感じだろう」



 自分で言いだしたくせに師匠にはビジョンがないらしい。全くもう、仕方ないな師匠は。

 


 

「言われてみれば占い師ってどんな感じでしゃべるんだ?」

 

「さあ……? 汝、幸運が訪れるであろう、みたいな感じ?」



 なるほど。早速リンゴさんから出た意見を採用してみることにする。

 



「汝に幸運が訪れるであろうっ!」



 びしっ、と指を突きつけるポーズで決めてみる。突きつける先は師匠だ。お世話になってるからね。


 

「なんか違えんだよにゃあ」


「かわいい」


「需要はあると思う」


「一周回って当たりそう」

 


 皆さまからの評判は上々。でもなんか求めるものと違うな。できれば一周回らないで当てたいものだ。



「実際当たるんだからしゃべり方は変に作らなくても普通でいいと思いますが」



 ショウスケさんがいいことを言った。


 

「ほらほら! 師匠、ショウスケさんが普通でいいって言ってますよ!」

 

「うん、普通なら俺もいいと思うんだけどね」



 どういう意味だ。私が普通じゃないみたいじゃないか。



「う~ん、もう少しなんとか説得力を付けられないものかな」



 失敬だな師匠。私に説得力がないみたいじゃないか。


 ほら、そんなこと言うからみんなしてう~んとか言いながら腕組みポーズを始めてしまった。師匠のせいだぞ。



「ねえ、私思うんだけどね~~?」



 コヒナ占い師化計画会議の停滞を破ったのはブンプクさんだった。



「多分コヒナさん頭の回転早すぎるんだよ~~」



 えっ。何、何の話? 私の頭の回転が速いって言われた?


 そんなこと始めて言われたんですが。落ち着け、とはよく言われるけど。


 そうなんですか。私、頭の回転早いんですか。そうなんだ。へー。へーーー! 知らなかったなあ!



「チャットもさ、相手の話す内容予測しちゃうから食い気味になるんだと思うの。それにチャット自体早いから早口に聞こえるんじゃないかな~~。もう少しゆっくりしゃべってみたら~~?」



 なるほど。流石は私の頭の回転の速さを見抜いたブンプクさん。いいことを言う。


 言われてみれば私のチャットのスピードは早いのかもしれない。ギルドメンバーの方に師匠よりも早くつっこみを入れて師匠を思い切り悔しがらせたこともある。悔しがりつつも師匠はなんと30点くれた。普段だと多くても20点。大量得点である。よっぽど悔しかったんだろうな。


 その後しばらく、師匠は私に負けまいと素早いつっこみを心掛けていたが、そのせいでチャットが雑になり噛むことが多くなった。ひどい時には何言ってるかわからなかったっけ。うぷぷぷぷ。



 それはさておき。



 チャットでゆっくりしゃべると言うのも難しいものだ。まさか一文字ずつ打っていくわけにも行くまい。多分うっとうしがられてしまう。



「師匠師匠、ちょっとゆっくりしゃべってみて下さい!」


「えっ、俺!?」



 振られた師匠はしばらく悩んでいたようだったが



「チャットでゆっくりしゃべるってどうやるの?」



 それを聞いてるのに、まったく師匠は仕方がないなあ。



「ナゴミヤもコヒナと同系統のしゃべり方だからな」


「えっ、マジで!?」



 師匠、何だその反応は。マジで? はこっちのセリフですよ。



「まあ、師弟だからにゃあ。芸風は似てくるもんだろうにゃ」



 猫さんがとんでもないことを言い出した。この誤解は解いておかねばならない。



「芸風じゃないです!」


「芸風じゃないよ!?」



 くっ、被った。



「芸風じゃねえか」


「タイミングまでバッチリだったわね」


「練習に練習を重ねたとしか思えねーにゃ」



 違うんです皆さん。今のは師匠が悪くてですね。


 しかしそうか。私のしゃべり方は師匠に似てるのか。確かに師匠早口の印象あるなあ。つっこみ早いしなあ。負けじと私も頑張ってたからなあ。そりゃあ似てくるか。


 となると、師匠以外の人を参考にすればいいのかな。


 つっこみに命かけてる師匠以外はみんな早口ではないけれど、その中でも、特にゆっくりしゃべっているように聞こえるとなると―


 ぐるっとそこにいるメンバーを見渡してみる。



「ん~~? なあに~~?」



 骨董屋のブンプクさんと目が合った。


お読みいただきありがとうございました。


昨年の終わりにこちらの作品、「世界渡りの占い師はNPCなので世界を救わない」にいただいておりますブックマークが100件を超えました。ありがとうございます。続けて読みに来ていただけるというのはやはりとても嬉しいです。見に来てくれる方がいる。そう思うと凄く力が出ます。今後も私にできる精一杯を続けて参ります。


今年もコヒナさんと「世界渡りの占い師はNPCなので世界を救わない」を、どうぞよろしくお願いいたします。

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