新生
その頃。
蒼主院公謐の目前に辿り着いた辰真は、封印され眠る彼を見つめる。
「これで……本当に?」
辰真が渡された鍵をかざせば、公謐を封じていた結晶が崩れて行く。同時に、彼の身体もゆっくりと灰になり始めた。
「え!? な、なんで!!」
驚く辰真に、公謐が微笑みながら告げた。その声は、何かを成し遂げたと言わんばかりに満足感に満ち溢れていた。
――ようやく役目を果たしたからね? 後は、頼んだよ。
その言葉だけを残して、彼は消滅し……空間の歪みが激しくなり、立っていたはずの地面が崩れて行く。
「うわぁっ!?」
意識が遠のいていくのを感じながら、辰真は気を失った。
****
空間が解放され、崩れた。
その事実は、すぐに『革命の奏者』である矢成達にも気づかれ、猛攻が一旦おさまる。
それと同時に、その場にいる全員の意識が……途切れた。
****
視界が白い。
身体が宙に浮いている感覚に、辰真は困惑する。
(なんだ、この感覚? 一体なにが?)
意識が朦朧とする中、聞きなれたその声は聞こえて来た。
『タツマ。そして、シズナにトキハにフウカ。感謝している。これにて、神の役目に戻る事になるが、本当に日々が楽しかった。特にタツマ。封印を解き、ライという名をくれて本当に嬉しかった。ワタシは、これから月詠の尊としてまた生きるが、それでも……この想いは大切にする』
(ライ……そうだよな。お前は、そういうヤツだよ)
ライこと、月詠の尊はおそらく……今まで妖魔王と蒼主院公謐が担っていた役目を肩代わりして、世界の均等を、理を守るのだ。
古き役目を解き放ち、新たな役目を神の一柱が担う。
それは、新たな理が生まれると言っても過言ではないだろう。
別れを理解していた辰真は、静かに呼吸をし、一言だけ伝えた。
――出会ってくれて、ありがとう。
そうして、再び意識を失った辰真は、相棒であった彼の気配が遠のくのを感じていた……
****
歪であった空間は正しく修正され、何度も破壊された古き理は、新たな理が形成された事でその役目を終えた。
古き理の守護者達は、輪廻転生の輪に入り、新たな守護者の出現により、世界の均等は保たれる。
そう。
世界は――新生するのだ。
破壊を望む者達から、大切なモノを守りたいと願う彼らによって。
そして、新たな世界において、破壊を望みし彼らの想いは砕かれるのだ。
何故なら、新生した世界では、彼ら破壊の者達は、排除すべき存在と成り果てたからだ――




