約束は果たされ、再会は叶い……
機構が動き出し、理に彼が繋がってからどれくらい経っただろうか。
辰真は、自分がすべきことのために動き出した。
それは、蒼主院公謐の封印解除。そのために、走り出す。
来た道を戻ろうとするが、歪んだ空間内の中では道がわからない。
(こういう時こそ、ライからもらった札で!)
ライと別れる前、手渡された木札を取り出す。彼曰く、この木札が蒼主院公謐の元へ導いてくれるとの事だった。視線を向ければ、木札が淡白く光り出し、線が現れた。どこかと繋がっているような線に、希望を託して進む。
(お前の想いに、俺は報いるんだ!)
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同時刻。
操姫刃と楓加の二人は、妖魔王になり果てた男の前にいた。威圧感に緊張し、冷や汗が二人の背中を伝う。
ようやく二人に視線を向けた妖魔王は、静かに尋ねて来た。
〔小娘二匹が、何故ここに居る?〕
威圧感のある野太い声と、興味が無いと言わんばかりの冷たい視線。だが、楓加は負けじと、勇気を振り絞って声を発する。
「あなたに会いたがっている人がいるから、ウチらは伝えに来たの」
〔興味等無い。失せよ〕
「雪原の娘。そう名乗る者に心当たりはないか?」
操姫刃が尋ねると、妖魔王の瞳が揺らぐ。どうやら心当たりはあるようだ。楓加がトドメを刺すかのように、雪原の娘から託された想いを言葉にして、彼に伝える。
「約束の場所で待っていると、言っていたの。あなたは会いたくないん? 好きだったんでしょ?」
〔異形と成り果てたこんな男が、今更会わせる顔等どこにあるという?〕
「どんな姿でも、好きな人は好きやと思うよ? だって、ウチがそうだから! 答えてあげてよ! 想い合っていたのだから!!」
妖魔王と名乗って来た男の姿が揺らいでいく。二人が驚いていると、背後から空間が開き、女性の姿が現れた。
雪原の娘を名乗って来た女性だ。
彼女は、彼を包容し、涙を流して言葉を紡ぐ。今までの想いを込めて。
「ようやく、繋がりましたね、縁が。お二人のおかげです」
〔は……な? 華、なのか?〕
「左様でございます、零壱様。お会いしとうございました」
彼女の涙が、彼の首元に落ちたと同時に、姿が変わって行く。異形であったはずの姿は、青年の人の形へ戻って行った。
「楔が……役目から解かれた、のか?」
戸惑う零壱に華が接吻をした。それをきっかけに、二人の身体が透けて行く。
「そうか。解放されたから、あなた方はこれから本当の意味で眠りにつくのだな」
操姫刃が口を開けば、華が微笑み零壱もつられたように笑う。穏やかな笑みを浮かべ、互いを見つめ合いながら二人は消えて行った。
それを見届けると、操姫刃と楓加がいる空間が崩れ始めた――




