一途な想いを託されて
五奇達……トクタイが合流した頃。
操姫刃達もまた、雪原の娘の案内で道なき道を進んでいた。
「どこに向かってるんかな……?」
「妖魔王の近くでございます」
聞こえていたのだろう、雪原の娘が言葉短めに答えた。その声色はどこか焦っており、不安を覚えるものだった。
「何故焦る? 理由を教えてくれ」
「それは……時が来たからでございます。ようやく、勝利への道が開かれた……救われる時が来たのです」
「へ? 時は来たって……どういう事なん、です?」
「楓加様、それはこれからわかります……ここでございます」
雪原の娘が立ち止まったのは、開けた場所。相変わらず歪な空間の中、中央にあるのは文字が書かれた簡素な物体だった。現代で例えるならひし形のモニュメントのように見える。
そこに触れると、雪原の娘は涙を流した。
「これは……石碑……いえ、妖魔王の……零壱様と私の事が書かれた……呪いでございます」
「呪いだと?」
「左様でございます、操姫刃様。歪んで残された話、これを呪いと言わずなんと申すのでしょうか? 私とあの方は互いに深く愛し合っておりましたのに……」
「それをわざと違う出来事として残されたわけか。確かに、呪いだな」
石碑に肌を寄せると、雪原の娘の姿が透けて行く。
「透けて……!? どういう事?」
「落ち着け楓加。もしや……この石碑、墓という側面もあるのではないか? なぁ?」
「はい。この下には……私の遺体が。零壱様といつか共に過ごそうと誓い合った何もない丘に、私は自ら埋まったのです。ですが、私達の愛は赦されず……妖魔にたぶらかされ、呪い殺された哀れな女として後世に残されました。なんと……惨めな事か」
その言葉を最後に、彼女は姿を消した。
「ここで、待っているって事なんだよね?」
「間違いなくな。後をおれ達に任せてくれたんだろう」
二人に自然と気合が入る。今まで失敗作と揶揄され、酷い扱いを受けて来た。それをトクタイに救われ……仲間が出来た。
だから、今度は自分達が救う番なのだと――。
頷き合うと、操姫刃と楓加は歩き出した。目の前にある石碑に触れると、黒いモヤが広がる。そこから感じる強大な妖魔の気配に怯える事無く二人はモヤの中へ足を踏み入れた。
「必ず、二人を再会させようね……」
「無論だ」
二人の身体はモヤの中へと消えて行った。向かうは、当世の妖魔王となり果てた……男のもとへ。
託された想いに応えるために。




