続々と集合し
赤い月を彼方に見つめながら、彼は静かに歪な玉座に座っていた。
現在の妖魔王――かつての名を衛刹零壱。
異形になり果てた己の身体にすら、興味がないのだろう。
戯れすらすることなく、ただ見つめていた。
――戦いの始まりを予見しながら、それでも一切動くことなく。
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「たっくん?」
楓加に訊かれるが、辰真は返事をしない。うつむいたままだ。その様子を見かねた操姫刃が声をかける。
「……なにがあった?」
それでも黙り込む辰真に、操姫刃と楓加は顔を見合わせる。
「あの……失礼ながら一言よろしいでしょうか? 辰真様、為すべきことを為す時が来たのではないですか?」
雪原の娘の言葉に、辰真が思わず彼女に視線をやる。その瞳は揺れていた。
「お、れ……は……」
言葉を詰まらせる彼に対し、冷静に告げた。
「逃げるのですか? それは……あなた様の目指す道だったのですか?」
「それは……」
(俺は逃げて来た……。父さんの死からも、母さんの再婚からも。そして――今は相棒からも)
再び沈黙する辰真に、雪原の娘が更に続ける。
「辰真様。酷な事を申しますが、逃げ続けることは不可能です。生きているかぎり……いえ、存在し続けるかぎり」
彼女の言葉に、辰真は伏せていた顔をようやくあげる。それを確認した彼女は優しい声色になる。
「わたくしの勝手な想いでございますが……あなた様なら大丈夫だと信じております。いえ、確信しているのです」
「なんで? 俺にそこまで期待するん、ですか?」
その問いに答えたのは……水晶からの声だった。
『それは、君が心では望んでいることだからだよ』
驚き、水晶の方へ視線を向ければ……うっすらと公謐の姿が浮かび上がった。
「蒼主院公謐様……?」
雪原の娘が、初めて戸惑いの表情を見せる。
『やぁ、ようやくお会いできましたね? 雪原家の娘殿。これも、やはり運命が回り始めた証拠なのでしょう』
「そのようですね……」
二人にしかわからない会話をされ、三人が困惑していると背後から聞き覚えのある声がしてきた。
「辰真ぁぁ‼ それになんで、浮風と初架もいるわけぇぇ!?」
声の主、志修那の方へ視線を向ければ、その隣にもう一人いる。
「あなたは……?」
雪原の娘の問いに彼は穏和な微笑みで返す。
「どうも~オレちゃんは、蒼主院等依っス! よろしくちゃ~ん! なんて、冗談めかしてる場合じゃなさそうっスね? ご先祖様?」
等依の言葉に、半透明な公謐が苦笑しながら答えた。
『子孫の子か。あの子以来だね……ここに来ることができた子は。相当やられたはずだけれど、彼は元気なのかな?』
「あー……一応無事っスよ。まぁかなり損傷ひどくて片目義眼の片手義手に両足義足。そんな状態でも退魔師やってるス。まぁさすがに恥だったのか、今はルッツとか名乗ってるけど……」
公謐が気にしている人物……ルッツの名を聞き、辰真と志修那が驚いた。
トクタイでも最上級に強い退魔師――ルッツこと蒼主院輝理の肉体の状態を初めて知ったからだ。




