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続々と集合し

 赤い月を彼方に見つめながら、彼は静かに歪な玉座に座っていた。

 現在の妖魔王――かつての名を衛刹零壱(えいせつれいいち)

 異形になり果てた己の身体にすら、興味がないのだろう。

 戯れすらすることなく、ただ見つめていた。

 ――戦いの始まりを予見しながら、それでも一切動くことなく。


 ****


「たっくん?」


 楓加(ふうか)に訊かれるが、辰真(たつま)は返事をしない。うつむいたままだ。その様子を見かねた操姫刃(ときは)が声をかける。


「……なにがあった?」


 それでも黙り込む辰真(たつま)に、操姫刃(ときは)楓加(ふうか)は顔を見合わせる。


「あの……失礼ながら一言よろしいでしょうか? 辰真(たつま)様、為すべきことを為す時が来たのではないですか?」


 雪原(ゆきわら)(むすめ)の言葉に、辰真が思わず彼女に視線をやる。その瞳は揺れていた。


「お、れ……は……」


 言葉を詰まらせる彼に対し、冷静に告げた。


「逃げるのですか? それは……あなた様の目指す道だったのですか?」


「それは……」


(俺は逃げて来た……。父さんの死からも、母さんの再婚からも。そして――今は相棒からも)


 再び沈黙する辰真(たつま)に、雪原(ゆきわら)(むすめ)が更に続ける。


辰真(たつま)様。酷な事を申しますが、逃げ続けることは不可能です。生きているかぎり……いえ、()()()()()()()()()


 彼女の言葉に、辰真(たつま)は伏せていた顔をようやくあげる。それを確認した彼女は優しい声色になる。


「わたくしの勝手な想いでございますが……あなた様なら大丈夫だと信じております。いえ、確信しているのです」


「なんで? 俺にそこまで期待するん、ですか?」


 その問いに答えたのは……水晶からの声だった。


『それは、君が心では望んでいることだからだよ』


 驚き、水晶の方へ視線を向ければ……うっすらと公謐(きみひつ)の姿が浮かび上がった。


蒼主院公謐(そうじゅいんきみひつ)様……?」


 雪原(ゆきわら)(むすめ)が、初めて戸惑いの表情を見せる。

 

『やぁ、ようやくお会いできましたね? 雪原(ゆきわら)家の娘殿。これも、やはり運命が回り始めた証拠なのでしょう』


「そのようですね……」


 二人にしかわからない会話をされ、三人が困惑していると背後から聞き覚えのある声がしてきた。


辰真(たつま)ぁぁ‼ それになんで、浮風(うかせ)初架(はつか)もいるわけぇぇ!?」


 声の主、志修那(しずな)の方へ視線を向ければ、その隣にもう一人いる。


「あなたは……?」


 雪原(ゆきわら)(むすめ)の問いに彼は穏和な微笑みで返す。


「どうも~オレちゃんは、蒼主院等依(そうじゅいんとうい)っス! よろしくちゃ~ん! なんて、冗談めかしてる場合じゃなさそうっスね? ご先祖様?」


 等依(とうい)の言葉に、半透明な公謐(きみひつ)が苦笑しながら答えた。


『子孫の子か。あの子以来だね……ここに来ることができた子は。相当やられたはずだけれど、彼は元気なのかな?』


「あー……一応無事っスよ。まぁかなり損傷ひどくて片目義眼の片手義手に両足義足。そんな状態でも退魔師やってるス。まぁさすがに恥だったのか、今はルッツとか名乗ってるけど……」


 公謐(きみひつ)が気にしている人物……ルッツの名を聞き、辰真(たつま)志修那(しずな)が驚いた。


 トクタイでも最上級に強い退魔師――ルッツこと蒼主院輝理(そうじゅいんかがり)の肉体の状態を初めて知ったからだ。

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