交差する想い
「……」
長い沈黙が辰真とライ……もとい月詠の尊を包む。
先に口を開いたのは月詠の尊だった。
「タツマ……ワタシは……」
「……もう俺は、何も信じない……」
それだけ言い捨てると辰真は、月詠の尊から距離を取るかのように走り出した。
「待ってくれ、タツマ! ここは危険なんだ!」
その声すら振り切って、闇雲に走る。走って走って……。気づけば、妙な場所へとたどり着いた。
「はぁはぁ……」
息が切れ、心臓の音がうるさい。だが、目の前のモノを見た瞬間――辰真は思わず声を漏らしていた。
「なん、だ……これは……?」
そこにあったのは、大きな水晶の塊。
それもただの水晶ではない。
中に……人がいる。それも先程まで会話していた――公謐そっくりな人物が眠っているかのように入っていた。
「どう、いう……こと?」
あらゆることが起こりすぎて、辰真の思考はまとまらない。そんな最中だった。
聞き覚えのある声が響いてきた。
「あれ~? たっくん?」
声した方へ視線を向ければ、そこには入院中なはずの楓加とその付き添いの操姫刃が、知らない女性とともに歩いてくる。
「なんで二人がここに? それに……その人は?」
尋ねる辰真に、彼女が名乗った。
「私は雪原の娘でかまいません。どうか……お救いください」
「……救、う?」
辰真の様子に何かを察したらしい、操姫刃が口を開き説明をし始めた。
それに耳を傾けながら……辰真は悟った。
――歯車は回り出したのだと――。
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その頃。
辰真を追うか悩み、立ち尽くすしかない彼はこの狭間の世界に帰って来たことを痛感していた。
「……ワタシは……」
そう呟く彼の瞳は何かを決意したような意志を宿していた。
「タツマ……お前の信頼を……裏切るつもりはないんだ。だから……だからこそ……ワタシも覚悟を決めよう」
静かに呟くと、彼はゆっくりと動き出す。
全ては――あの日誓った約束を果たすために。
****
赤い月夜が街を照らす。
不気味なほど美しい月明かりが、霧によってかすんでいく。
何かの予兆といわんばかりの気配の数々に、彼らは息を飲む。
「みんな、準備はいいね? 行くよ?」
ルッツの言葉に、近くにいた茶髪の青年が声をあげる。
「当然です、ルッツ先生。俺達の世界を守るためにも、行きましょう! 狭間へ!」
「いい意気込みだ五奇君。では他のみんなも準備はいいね? 総員、突入だ!」
静かに彼ら、トクタイが動き出す。そして、『革命の奏者』との決着をつける時が迫るのだった。
――世界の命運とともに。




