真偽の証明
「へぇ~現世では今そういうのが流行っているんだね? 興味深いなぁ」
辰真の話を楽しげに聴く公謐。そんな彼に苛立つでもなく、ただ辰真は沈んでいた。
(俺は確かに……今まで何も為していない。全てから……逃げて来た。だけど……それは……)
言い訳が脳内を駆け巡る。
「ねぇ、神蔵の子? 君に頼んだこと……承知はしてくれるのかな?」
突然の公謐の言葉で我に返った辰真は、顔を上げ公謐の方へ視線をやれば、彼は温和な笑みを浮かべていた。
「俺に……? あ……救えって……この、世界を……? でも、俺は……」
言葉に詰まりながら答える辰真の両肩に、彼は手をそっと添えた。
「君は、運命を信じるかい?」
「うん……めい、ですか?」
「そう。私はね……運命とは、生きとし生けるものが引き寄せ合うものだと思っているんだ。誰かが求めているから、そこに誰かが応える。それを運命と呼ぶのだと、ね?」
彼の言いたいことがわからなくて、辰真は困惑する。
(何を俺に……伝えたいんだ?)
「今、君は疑問に思っているだろう? そもそも、とうの昔に死んだはずの人間が、なぜこのような場所にとどまっているのか? そして――何を待っていたのか」
一端言葉を区切ると、彼は悲しそうに微笑みながら告げた。
「出会った時、この世界をと言ったけれどね? 本当は少し違うんだ。――神蔵の子よ。私を救ってくれないか?」
「……えっ?」
思わず訊き返した時には、先程までいたはずの公謐の姿は消えていて、声だけが響く。
「時間切れだ。私はまたしばらく実体にはなれないから……託すよ、君に。いや、君達二人に。世界を、私を、彼と彼女を――救っておくれ」
それを最後に公謐の声は聞こえなくなった。声だけではなく、気配すらもまるで最初からなかったかのように、一切感じられなくなった。
「どういう、ことだ……?」
混乱する辰真にその気配がしたのは数分が経った頃だった。短い時間のはずなのに、懐かしいとすら感じる――ライの気配に安堵ととともに……公謐の言葉が脳裏をよぎる。
(ライ……お前は……本当に……?)
【タツマ、無事だったか?】
慌てた様子で自分に駆け寄って来る彼を見つめながら、辰真はただ、俯くだけだった。
【タツマ?】
「ライ……しっかり、答えてくれないか?」
生唾を飲み込み、俯いていた視線を上げると、辰真が意を決して口を開く。
「お前は……月詠の尊なのか?」
沈黙が辺りを包む。走って来たせいで息が上がっているライは、呼吸を整えると――姿を変えた。
そこにいたのはいつもの四足歩行の黒い体毛をした獣ではなく。
黒い艶やかな髪、月と同じ輝きの瞳、そして……白絹を纏った青年がいた。それが答えだと言わんばかりに、彼は静かに口を開いた。
「すまない。タツマ……これがワタシの……本当の姿だ」
目の前がクラクラする感覚に襲われながら、辰真は静かに彼、ライと呼び続け傍にいた――月詠の尊と……視線を交らわせるのだった。




