狭間の世界で
その頃。
狭間の世界で、刃を交える李殺道と……朱納は互いに譲らない状態が続いていた。
「随分とその身体に馴染んでいるな? 付き合いが長いか?」
問われた朱納は、ハルバードを両手に構えながら一言だけ答える。
「あぁ、その通り。長い付き合いだから、な!」
そうして、再度ハルバードを振りかぶると朱納は李殺道に向かって行く。それをかわすと李殺道はバタフライソードで斬りかかる。
ギリギリで避けると、朱納はハルバードを横向きに振る。李殺道はバク転してかわす。そして再度バタフライソードを構え直す。
この繰り返しが先程からずっと続いている。それにお互い気づきながら、なおも続けているのは……。
「時間稼ぎしてなにが目的だ、てめぇ」
睨みつけながら彼が尋ねれば、李殺道が静かな口調で答えた。
「そうだな……強いて言えば、暇つぶし」
「へぇ……その相手にわざわざハンパ者を選んだわけかよ?」
「あぁ、そうだ。俺もハンパ者だからな」
言われて朱納が目を見開き……しばらく瞬きした後呟いた。
「なるほど? お前、半妖か。それも人間と妖魔が為したってとこか?」
「正解だ、人造とはいえ使い魔になり損ねた者。だからこそ、俺が選ばれた。この世から……全ての妖魔を消し去るために」
静かに断言すると、李殺道はバタフライソードの片方の切っ先を朱納へと向ける。
「遊びは終わりだ。お前の身体の主とその同胞共に伝えろ。今宵、妖魔は消える……とな」
そう告げると、彼は風のように去って行った。それを見送ると、朱納は身体の主導権を志修那へと返す。
「あ、はぁはぁ……! くっ、うぁ……!」
思わずよろめき、手を地面に慌てておく。しばらくは休まなければ動けない。
「祓力の……使い……すぎ……、僕のアホ……!」
朱納に身体を使わせたのは良かったが、祓力を引き出されすぎた。疲れがどっと襲ってくる。身体中が軋む。
(だから……嫌いなんだ。朱納!)
そう恨みながら、志修那は地面に寝転がり意識を失った。
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狭間の世界、別場所にて。
雪原の娘の先導で、操姫刃と楓加がたどり着いたのは大きな石がある場所だった。
「ここは?」
操姫刃が尋ねれば、雪原の娘が悲しそうに呟いた。
「この場所は、私とあの方が約束を交わした場所を……再現されている所でございます。私達は近くにいながら遠いのです。それ故に、あの方を救うことが叶わないのでございます」
「そうなんね……。大事な約束だったんだよね?」
今度は楓加が訊く。雪原の娘は愛おしそうにその石を撫でながら答えた。
「えぇ、とても大切な……約束でございます」
操姫刃と楓加は互いに顔を見合わせ、頷き合う。それを見て、雪原の娘は口を開いた。
「それでは……あの方を。当世の妖魔王となり果てた私の愛しい人をどうか――お救い下さい」
そうして二人に向かって頭を下げる彼女に、操姫刃と楓加は覚悟を決めた。
必ず、助けると……。




