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狭間の世界で

 その頃。

 狭間の世界で、刃を交える李殺道(りつーうぇい)と……朱納(しゅな)は互いに譲らない状態が続いていた。


「随分とその身体に馴染んでいるな? 付き合いが長いか?」


 問われた朱納(しゅな)は、ハルバードを両手に構えながら一言だけ答える。


「あぁ、その通り。長い付き合いだから、な!」


 そうして、再度ハルバードを振りかぶると朱納(しゅな)李殺道(りつーうぇい)に向かって行く。それをかわすと李殺道(りつーうぇい)はバタフライソードで斬りかかる。

 ギリギリで避けると、朱納(しゅな)はハルバードを横向きに振る。李殺道(りつーうぇい)はバク転してかわす。そして再度バタフライソードを構え直す。


 この繰り返しが先程からずっと続いている。それにお互い気づきながら、なおも続けているのは……。


「時間稼ぎしてなにが目的だ、てめぇ」


 睨みつけながら彼が尋ねれば、李殺道(りつーうぇい)が静かな口調で答えた。


「そうだな……強いて言えば、暇つぶし」


「へぇ……その相手にわざわざハンパ者を選んだわけかよ?」


「あぁ、そうだ。俺もハンパ者だからな」


 言われて朱納(しゅな)が目を見開き……しばらく瞬きした後呟いた。


「なるほど? お前、半妖か。それも人間と妖魔が為したってとこか?」


「正解だ、人造とはいえ使い魔になり損ねた者。だからこそ、俺が選ばれた。この世から……全ての妖魔を消し去るために」


 静かに断言すると、李殺道(りつーうぇい)はバタフライソードの片方の切っ先を朱納(しゅな)へと向ける。


「遊びは終わりだ。お前の身体の主とその同胞共に伝えろ。今宵、妖魔は消える……とな」


 そう告げると、彼は風のように去って行った。それを見送ると、朱納(しゅな)は身体の主導権を志修那(しずな)へと返す。


「あ、はぁはぁ……! くっ、うぁ……!」


 思わずよろめき、手を地面に慌てておく。しばらくは休まなければ動けない。


祓力(ふつりょく)の……使い……すぎ……、()のアホ……!」

 

 朱納(しゅな)に身体を使わせたのは良かったが、祓力(ふつりょく)を引き出されすぎた。疲れがどっと襲ってくる。身体中が軋む。


 (だから……嫌いなんだ。朱納(あいつ)!)

 

 そう恨みながら、志修那(しずな)は地面に寝転がり意識を失った。


 ****


 狭間の世界、別場所にて。


 雪原(ゆきわら)(むすめ)の先導で、操姫刃(ときは)楓加(ふうか)がたどり着いたのは大きな石がある場所だった。


「ここは?」


 操姫刃(ときは)が尋ねれば、雪原(ゆきわら)(むすめ)が悲しそうに呟いた。


「この場所は、私とあの方が約束を交わした場所を……再現されている所でございます。私達は()()()()()()()()()()()()。それ故に、あの方を救うことが叶わないのでございます」


「そうなんね……。大事な約束だったんだよね?」


 今度は楓加(ふうか)が訊く。雪原(ゆきわら)(むすめ)は愛おしそうにその石を撫でながら答えた。


「えぇ、とても大切な……約束でございます」


 操姫刃(ときは)楓加(ふうか)は互いに顔を見合わせ、頷き合う。それを見て、雪原(ゆきわら)(むすめ)は口を開いた。


「それでは……あの方を。当世の妖魔王となり果てた私の愛しい人をどうか――お救い下さい」


 そうして二人に向かって頭を下げる彼女に、操姫刃(ときは)楓加(ふうか)は覚悟を決めた。


 必ず、助けると……。

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