為さずして
「あ、の? 俺が……月詠の尊と、契約……? ライが……月詠の尊?」
困惑する辰真に、公謐が静かに頷く。
「そう。君が契約しているのは、月詠の尊という日本の神の一柱さ。神蔵家は、本物の神と対等になった唯一の一族なんだ」
「どう、いう……?」
「神蔵家はね? 神禊家の血統であり、神と縁のある一族ではあったんだ。元々ね? だけれど、神禊家が辿り着いたのは神の再現体を使役するところまでだった。それを――超えたのが神蔵家なのさ」
公謐の言葉に、辰真は声を出すことができなかった。
(理解……できない。いや、したくない……!)
だが、無情にも公謐は話を続けて行く。
「だから君と出会えたのかもしれない。この世界で唯一の、神との契約者であり――そして未だ何も為していない君にね?」
公謐に言われたことをすぐに理解できなかった。辰真は回らない頭で必死に何か言わねばと言葉を探す。
(えっ? あ……ライが月詠の尊で、それで? 父さんの血筋が……あぁ! まとまらないし、俺が何も? して――)
全身から力が抜ける。血の気が……引く。
「……俺、は……」
「君は、いつまで目を逸らしつづけるんだい? 全てから」
公謐の言葉が辰真の心を確実に抉って行く。……その通りだからだ。
(目を……逸らして? ……俺は……)
俯く辰真に、公謐が再び優しく語りかける。
「君も、何かを為す時がきたんじゃないかな?」
「為す……時……?」
「そうさ。君は……このままでいいと本当に思っているのかい?」
そう問われ、辰真は思考が停止する。……拒むかのように。その様子を見て、公謐は話を変え始めた。
「そうだ、せっかくなんだし今の現世の話題でもしてもらいたいかな?」
「あ、えっと……はい」
公謐のペースに飲まれていることを自覚しつつ、辰真は今の自分の時代の話をし始めた。
……気を紛らわせるかのように。
****
その頃。
トクタイ本部、会議室にて。
「浮風楓加君と初架操姫刃君、そして八月一日辰真君と伊鈴ノ宮志修那君……つまりは九十六期Eチームの四人が行方知れずとなっていることは、みんなもう把握しているね?」
会議室の中央で、ルッツが話始めた。集まっているのは、なんとか飲まれることを防げた麗奈と雅姫、そして……自身の部下である二人。
雅姫は俯き、麗奈が唇を震わせる。その様子を横目にしながら口を開いたのは……茶髪の青年だった。
「確か、病院で浮風さんと初架さん、戦闘中に八月一日君と伊鈴ノ宮君が行方知れずになったんですよね? それも……全てに門が関係しているのでしょう?」
彼の言葉に続くかのように、桃色の髪の女性が吐き捨てるように言う。
「ちっ! あのわけのわかんねえ門からは嫌な気配がしやがる! なにが起こってやがんだ?」
その疑問に答えられるものはいない。だが……それでもルッツは話を続ける。
「彼らを救出するためにも、そして、この不可思議な門をなんとかするためにも……情報を集めようか?」




