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誘い

 夜になって。

 赤い月を病室から静かに見つめる青年、榛登(はると)はため息を()く。

 『爆炎の妖魔』から解放されたのは良かったが、その後遺症は大きかった。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 そのせいで、トクタイの監視下に置かれたままだ。


(……迷惑なことだよ、まったく……)


 あの日。

 死にたさが()()()()()()()榛登(はると)は『爆炎の妖魔』に憑りつかれた。

 大騒動に巻き込まれた挙句、死にたくても死ねない状態に陥ってしまってたことで、彼の心は更に闇に染まる。


「あぁ……死にたいなぁ……」


 一人ぼやいたつもりのはずだった――。


【そんなに死にたいのなら、死なせてやろうぞ?】


「な!? だ、誰だ……!!」


 声を荒げる榛登(はると)に対し、その声は静かに響く。


【どうした? 死にたいのであろう? この售月(しゅうげつ)が死を与えてやると申しておるのだ。喜ぶがいい】


 その言葉は、榛登(はると)にとって甘美なものだった。生唾(なまつば)を飲み込むと、ゆっくりと口を開く。


「……本当に、死ねるのか……?」


【あぁ、この售月(しゅうげつ)に委ねるがいい。さぁ、開くのだ。門をな?】


 そう言われたのと”門”が榛登(はると)の前に現れたのは同時だった。座っていたベッドから立ち上がると、榛登(はると)は……触れた。

 今まで触れたことのない感触が、なぜだか心地よくて榛登(はると)は全てを委ねる――死ぬために。


 ****


「はぁぁぁぁぁぁ!? 魅使榛登(みのつかはると)が姿を消しただってぇぇぇぇぇ!?」


 夜も深まって来た頃、突如来訪してきた和沙(かずさ)により(しら)せを受けた志修那(しずな)が大声を張り上げる。


「そう。トクタイが()()していた彼は、その室内から出ることなく姿を消したわ。だから、ここにきた。緊急任務。魅使榛登(みのつかはると)を探し出し、早急に身柄を再度()()すること。以上」


 こんな状況だと言うのに、いつもの調子で告げる和沙(かずさ)辰真(たつま)が珍しく反論する。


「あの、教官。俺達……今はライと伊鈴ノ宮(いすずのみや)先輩との三人だけで、浮風(うかせ)さんと初架(はつか)さんが不在のままなのですが……」


 その言葉に答えたのは――聞きなれない男性の声だった。


「そこについては安心しておくれよ。手筈(てはず)は済んでいるからね……おっと、自己紹介がまだだったね? 僕はルッツ、しがない退魔師(たいまし)さ」


 リビングの入り口付近を陣取っていた和沙(かずさ)の背後から顔を出したルッツは、そのまま話を続ける。


「さ、そういうわけで行こうか? 辰真(たつま)君、志修那(しずな)君? おっと、忘れてはいけないね? 辰真(たつま)君の()()()()()()?」


「ちょっ!? ルッツ……さぁんん!? 手筈(てはず)ってなに!? なんなわけ!?」


 またしても大声を上げる志修那(しずな)に、ルッツは微笑みながら答える。


「大丈夫! 仲良くやれるさ!」


「ぜんっぜん大丈夫じゃあないいいいい!!」


 嫌がる志修那(しずな)を連れて、一同は家を出た。不気味な赤い月に照らされながら。

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