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すれ違う想い

 黒樹(くろき)市内、某ファミリーレストランにて。

 賑やかな店内の中、辰真(たつま)とその家族である継父(けいふ)と母が座る席だけが重苦しい空気に包まれていた。

 なお、ライは魔本の中で静かに待機している。


 沈黙(ちんもく)を破ったのは辰真(たつま)の実母、結乃(ゆいの)だった。彼女は先程から一切視線を合わせようとしない辰真(たつま)に向かって、優しく声をかけた。


「……辰真(たつま)。その……最近、どうなのかしら? 怖い目とかには合ってない?」


 母としての心配を、だが、辰真(たつま)は言葉で突っぱねた。


「……怖いとか、関係ない。任務だから」


辰真(たつま)……」

 

 寂しげな母の声色にも、辰真(たつま)は無反応を貫く。その様子を見かねた継父(けいふ)幸太郎(こうたろう)が静かに辰真(たつま)の方へ視線をやり、声を発した。


辰真(たつま)君。おか……結乃(ゆいの)さんは心配なんだ。その気持ちだけは……汲んであげてくれないかな?」


「……」


(……この人が悪いわけじゃない……母さんも、別に……ただ……()()()()()()()()()

 

 辰真(たつま)は食後に残っていたコップの水を飲み干すと、静かに立ち上がる。


「……辰真(たつま)……?」


 結乃(ゆいの)が声を上げるが、視線をやることなく辰真(たつま)は告げる。


「……もう、話は終わったから戻る。じゃあ」


「えっ……ま、待って! 辰真(たつま)、まだ……!」


 結乃(ゆいの)の話を待つことなく、辰真(たつま)は会計へ向かいその場を足早に去って行った。その背を、お腹をさすりながら結乃(ゆいの)が寂しげに見つめ呟くが、その声が届くことはなかった。


 ****


「……今夜の月は、赤くなるな……」


 市内の某ビル屋上にて、赤い長髪の青年が呟く。それを聞いた洋風の喪服に近い服装をした『革命(かくめい)奏者(そうしゃ)』の一人であり、代表である女性が声を上げて笑いだす。


「あははは!! 李殺道(りつーうぇい)、お前がそれを言うのか! 全く退屈しないねぇ!」


 どこか侮蔑(ぶべつ)を込めた声色に、李殺道(りつーうぇい)が答える。


「……それはお互い様だろう? 名河矢成(ながわやなり)


 名前を呼ばれた矢成(やなり)は、笑い声をピタリと止め、ドスの利かせた声で威圧する。


「あ? 半妖(はんよう)ごときが私の名前を呼ぶんじゃないよ! ……殺すわよ」

 

「構わんが、計画に支障が出ても知らんぞ。俺が()、なんだろう?」


 挑発するような李殺道(りつーうぇい)の言葉に、矢成(やなり)が殺意を込めた視線を向ける。緊張感が走る中、その空気を矢成(やなり)(かたわ)らにいた男性が壊した。


矢成(やなり)様、お(たわむ)れはほどほどに……。計画通りに事は進んでおりますし、今宵(こよい)半妖(はんよう)の言う通り赤き月です。ゲートを……蒼主院(そうじゅいん)の連中が気づく前に開かねば」


 男性の言葉に、矢成(やなり)が一転、(たの)しそうに答えた。


諒詠(りょうえい)。ま、貴方(あなた)の言葉通りね……半妖(はんよう)ごときに構ってる(ひま)はない。さ、(うたげ)の準備を始めましょう?」

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