すれ違う想い
黒樹市内、某ファミリーレストランにて。
賑やかな店内の中、辰真とその家族である継父と母が座る席だけが重苦しい空気に包まれていた。
なお、ライは魔本の中で静かに待機している。
沈黙を破ったのは辰真の実母、結乃だった。彼女は先程から一切視線を合わせようとしない辰真に向かって、優しく声をかけた。
「……辰真。その……最近、どうなのかしら? 怖い目とかには合ってない?」
母としての心配を、だが、辰真は言葉で突っぱねた。
「……怖いとか、関係ない。任務だから」
「辰真……」
寂しげな母の声色にも、辰真は無反応を貫く。その様子を見かねた継父、幸太郎が静かに辰真の方へ視線をやり、声を発した。
「辰真君。おか……結乃さんは心配なんだ。その気持ちだけは……汲んであげてくれないかな?」
「……」
(……この人が悪いわけじゃない……母さんも、別に……ただ……俺が赦せないだけだ)
辰真は食後に残っていたコップの水を飲み干すと、静かに立ち上がる。
「……辰真……?」
結乃が声を上げるが、視線をやることなく辰真は告げる。
「……もう、話は終わったから戻る。じゃあ」
「えっ……ま、待って! 辰真、まだ……!」
結乃の話を待つことなく、辰真は会計へ向かいその場を足早に去って行った。その背を、お腹をさすりながら結乃が寂しげに見つめ呟くが、その声が届くことはなかった。
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「……今夜の月は、赤くなるな……」
市内の某ビル屋上にて、赤い長髪の青年が呟く。それを聞いた洋風の喪服に近い服装をした『革命の奏者』の一人であり、代表である女性が声を上げて笑いだす。
「あははは!! 李殺道、お前がそれを言うのか! 全く退屈しないねぇ!」
どこか侮蔑を込めた声色に、李殺道が答える。
「……それはお互い様だろう? 名河矢成」
名前を呼ばれた矢成は、笑い声をピタリと止め、ドスの利かせた声で威圧する。
「あ? 半妖ごときが私の名前を呼ぶんじゃないよ! ……殺すわよ」
「構わんが、計画に支障が出ても知らんぞ。俺が核、なんだろう?」
挑発するような李殺道の言葉に、矢成が殺意を込めた視線を向ける。緊張感が走る中、その空気を矢成の傍らにいた男性が壊した。
「矢成様、お戯れはほどほどに……。計画通りに事は進んでおりますし、今宵は半妖の言う通り赤き月です。ゲートを……蒼主院の連中が気づく前に開かねば」
男性の言葉に、矢成が一転、愉しそうに答えた。
「諒詠。ま、貴方の言葉通りね……半妖ごときに構ってる暇はない。さ、宴の準備を始めましょう?」




