失敗作
トクタイ所有の病院内、一室にて。
ベッドで横になっている楓加の傍で、操姫刃が伍掛剣を磨いていた。その仕草は手慣れたもので、彼女がこの武器とどれだけ長い年月を共にしてきたかがわかるものだった。
だが――。
「……ねぇトッキー? あの男の人に言われたこと、気にしてる……よね?」
横たわったまま、楓加が尋ねれば操姫刃が静かに息を吐き答える。
「……わかるか……。そうだ、おれは気にしている。あの男の言う通り……剣術に関しては素人も同然だからな……」
剣から片手を離し、握りこぶしをつくると操姫刃が続ける。その目に光はない。
「……これでは、失敗作として扱われていたことを否定できんな……」
「……トッキー……」
この二人を育てた孤児院を所有していた一族、藤波家。トクタイとの戦いに敗れ、断絶した一族。
彼女達はそこで、被検体として扱われていた。その目的は「人為的な手法を用いて妖魔と互角に戦える能力を付与する」こと。
だが、その実験は過酷であり、かつ、失敗も多かった。楓加は身体能力こそ超人だが、藤波家が望んだような特異能力を持てなかった。操姫刃は、能力こそ得たが扱いに難を要した。
その結果、二人は失敗作として……非人道的な扱いを受けて来た。そのあまりの劣悪な環境で沢山の同胞達が命を失った。そうでなくても、自分を失った者もいる。
だからこそ、彼女達にとって今のトクタイにしか居場所がないと感じ、自分達の非力さを嘆いてしまう。
所詮は――失敗作なのだと。
重苦しい空気の中、楓加が静かに呟いた。
「ねぇ……失敗作のうちらじゃ……たっくんやしずなんに迷惑かけちゃう、かな?」
いつもの彼女からは想像もできない弱気な発言。だが、操姫刃もまた、いつもの様子とは明らかに違った声色で答えた。
「どう……だろうな。おれ達は彼らに事情を説明していない。それは向こうもだが……知った時、どんな反応を返すかは……想像、できん」
どこまでも気持ちが沈んでいく。二人だからこそ吐き出せる弱音だが、だからこそ鬱々とした気持ちの晴らし方がわからない。
「……しずなんとたっくん……なにしてるのかな?」
話を強引に変える楓加に、操姫刃が少し考えた後口を開いた。
「伊鈴ノ宮は確か、家にいると言っていたな。辰真は……なにか予定があるから外出するとか。詳細は、言いたくなさそうだったな」
「そっかー。……二人とも……」
それ以上の言葉が浮かばずに、楓加は静かに泣き出してしまった。今の彼女にはメンタルにもかなりダメージがキているのだ。
操姫刃は静かに傍に寄り添う。姉妹のように育った絆を守るように。




