億劫な日
トクタイには特殊なルールがある。それは入隊時に振り分けられるA~Eまでのチームは通常通りなら二年で解散し、メンバーはそのまま、または追加や配置換えなどでそれぞれ正式な部隊へと編成されなおすというものだ。
それを知ったのは入隊後だった。二年とは短いな……というのが辰真の印象だった。そんな彼は今、Eチーム専用の家近くにある自販機の前にいた。
幸いにも、水神・篠雨主命は順調に回復し始めており、楓加もたいした怪我ではなかった。だが、辰真がここにいるのは別の理由がある。
それは――。
【今日は、お前の父親の命日だな。そして……彼らと会う約束の日でもある。いつまでもここにいるわけにはいかないぞ?】
そう。今日は辰真の実父、神蔵龍二の命日なのだ。この日は家族が集まる日と約束されている。だが辰真は継父にも、実母にも会いたくない。
(父さんが死んでたったの二年で再婚されて、新しい父親なんて言われても……受け入れられるわけないじゃないか……)
そう。辰真が十歳の時に龍二は事故死した。その悲しみは深く、幼い心にトラウマを宿すには十分で、だからこそ、たったの二年で別の男と再婚した母を――赦せないでいる。
だからこそ、気が重い。重いのだが……。
「……そろそろ、行くよ」
【あぁ、共にな】
待ち合わせにはギリギリになるだろう。それでいいかと思い直し、辰真とライは家を後にした。
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その頃。
楓加は経過観察で入院中で、操姫刃はその付き添いで家を空けている中、リビングで一人志修那は静かに本を読んでいた。
別に自室でもよかったのだが、今は広い空間にいたい気分だった。
(最悪だよ……またアイツが出たなんてさ……)
志修那は認識こそしていないが、周りからの証言で存在は知っていた。もう一人の人格、朱納を。
彼の発現要因は理解している。だからこそ――周りも手が出せない状況だ。
そんな自分の現状が心底嫌なのだが、尊敬する祖父に「お前は人を救える!」と力説されてしまったからには、入隊試験を受けるしかなかったし、なんとか人造式神で誤魔化していたつもりだった。
しかし、今回の件で自分にもう一人の人格が存在することはバレてしまった。この状況だからこそ追求されていないだけで、おそらく今後なにかしら説明しなければならないだろう。
それが億劫で仕方ない。自分の負をさらけ出すような行為が、志修那は嫌だった。
「……はぁ~……」
こんなにも明日を迎えるのが嫌なのは久しぶりで、志修那は深くため息を吐きながら座っていたソファに沈み込むのだった。




