激しい戦いの末に
最初に動いたのは志修那? だった。彼は手にしているハルバードで勇生の拳を振り払うと、勢いよく斬りつける。
それを受け止めようとして……やめた勇生は距離を取って体勢を立て直す。
「ふぅむ? 人間……か?」
少し困惑した様子を見せる勇生に、志修那? は静かに殺意を向ける。そこに普段の彼は微塵も感じられない。
「オレは人間だ。てめぇこそ、どこがまごうことなきだよ? 身体弄ってんじゃねぇか!」
そう言い放つと彼はハルバードで再び勇生を襲う。その斬撃は凄まじく、どう考えても扱いなれている熟練者の動きだった。
「ほう? 弄るのは純粋な人間じゃないと言いたいかね? なら問おうじゃないか。人間とはなんだね? ハルバード使い君!」
勇生の問いに、彼は答えなかった。そのかわりに、容赦のない突き技が放たれる。唖然とするしかない辰真に、ライが声をかけた。
【タツマよ、シズナからいつもの気配がしない。だが、妖魔の気配もしない。……どう思う?】
その言葉で我に返った辰真は、静かに口を開いた。
「いつもの伊鈴ノ宮先輩じゃない……気配も違う。でも、妖魔は関わってない……なら……」
辰真が出した答えはある意味とてもシンプルだった。
「……二重、人格……?」
二重人格。なんらかの要因により、人格が二つ存在する状態。一般的に主人格はもう一人を認識できないことが多いとされている。
「つまり、伊鈴ノ宮は実は二人いたということか」
近くに気を失っている楓加を抱えた操姫刃がやってきた。水神・篠雨主命は争護が抱えている。
二人の戦いから少しでも遠ざけるために、運んできたのだ。それほどまでに……激しかった。
「浮風さんと篠雨主命様の容態は……? 大丈夫、ですよね?」
心配そうに辰真が訊けば、争護がゆっくりと答えた。
「しっかりと診ないと~詳細はわかりかねますが~。致命傷ではないかと~」
「あぁ。だが、一刻も早い治療が必要だ。だが、あの状況の伊鈴ノ宮を放っても置けまい。どうするか……」
珍しく判断に迷う操姫刃の様子に、辰真もつられて迷ってしまう。
(どうしたらいい? このまま放置していいのか……?)
その時だった。後方から、大きな声が響いてきた。
「おーい! 九十六期Eチームよ! 無事か!?」
声が近づくにつれて大きくなっていき、そのまま辰真達の横をその声の主は駆け抜けて勇生の背後に回った。
「火の術式! 弐銘! 紅蓮剛弾!」
それを飛んでかわす勇生に向かって、今度は上空から黒い半透明のなにかが降って来た。瞬時に右へ避けると彼は舌打ちをする。
「分が悪いな、ここは引こう。覚えたぞハルバード使い……そして忘れんからなぁ、彪ヶ崎!」
恨みを込めた言葉を呪詛のように吐くと、神速の如き速さで勇生は撤退して行った。
「逃がしはしないぞ! 輝也! 柩! 空飛! 私は彼を追う! 君達は彼らの保護を頼んだぞ! ではな!」
そう告げると、灰色の髪の青年は走り去っていってしまった。その背を見送った志修那? が意識を手放したのと黒髪を一つに束ねた青年が彼を抱えたのは同時だった。
「大丈夫じゃなさそうね? 安心して、味方よ? トクタイの精鋭部隊所属、鬼神柩よ? よろしくね?」
その言葉で全身の力が抜けた辰真をライが支え……ようやくひとまずの決着が着いたのだった。




