荒ぶる水神
『革命の奏者』の襲撃を受けたことにより、危機感を更に募らせながら水神の元へとようやく辿り着いた一行が目にしたのは。狂気に満ち溢れ、縦横無尽に暴れ回る水神、篠雨主命の姿だった。
本来白いであろう和装は黒に染まり、美しい水色の髪は逆立ち、瞳は真っ黒に染まっていた。
その勢いに思わず圧されてしまう。
「ちょぉおお!? なになに!? 想像以上に荒ぶってんだけど!? 術式壊したのになんで!?」
驚きと困惑の声を上げる志修那の横で辰真が小さく呟いた。
「……澱み」
「えっ……? たっくん、なにかわかるの?」
楓加が尋ねれば、真っ直ぐな目で荒ぶる篠雨主命に視線をやりながら、辰真は言い切る。
「『革命の奏者』が用意した術式による澱みを取り込みすぎて、それの放出と吸収する割合のバランスが崩れているのかと。だから、術式を破壊しても澱みに汚染されて……あんな風になっているのだと思います」
「なるほどな。つまり、水神が取り込んでしまった澱みをなんとかしなければならない……ということなんだな?」
操姫刃の言葉に辰真が小さく頷く。そうしている間にも、状況はどんどん悪化してきている。猶予はあまりない。
「よしっ! それじゃあ、その澱みをなんとかすればいいってことだね! たっくん、出来る?」
楓加の言葉に辰真が小さく頷く。それを確認すると彼女が声を少しだけ張り上げた。
「トッキー、たっくん、しずなん! ……戦闘体勢! だね!」
「はぁぁぁぁ!? 僕を戦力にはいれないでおくれよ!? 無理だよぉおおおお!」
安定の志修那の言葉に、楓加がふんわりと微笑みながら告げる。
「大丈夫! ぶーちゃん使えばいいんだし、ここはがんばろー!」
「いやそれ大丈夫っていわな……もうみんな動き出してる!? あーもう! おいで、武律!」
志修那が武律を呼び出したのを合図に、楓加、操姫刃、辰真とそしてライも本から出てきて動き出した。
最初に操姫刃が伍掛剣を鞘から抜刀した。それに続いて辰真が魔本・刹歌から黒い刀を取り出す。その背後から武律が戦闘体勢に入る。
まず動いたのは操姫刃だ。彼女は伍掛剣を大きく振りかぶり、篠雨主命に向かって一直線に剣を振るう。
それを帯で受け止めた篠雨主命の背後から、ライの背に乗った辰真が黒い刀で水神の……背後にある何かを切った。それと同時に溢れ出た澱みを武律が殴って払って行く。
澱みが抜け出し始めたことで篠雨主命は苦しいのか、がむしゃらに暴れ回る。だが、今までに比べたら威力はかなり落ちていた。
そうして、篠雨主命が溜め込まされていた澱みをすべて払い切った頃には、美しい女性の水神へと戻った彼女はぐったりとその場に倒れこんだ。
「水神様のケアは~私共にお任せを~。皆様は……」
争護が続ける前に、操姫刃が伍掛剣を抜刀したまま答えた。
「警戒を解くな。来るぞ……何かがな」




