暴走の要因
雨がどんどん強くなっていく。それも、水神の近くに向かえば向かうほどに。
向かう先は山だ。なんでも山から流れ出る川の名前が篠雨川らしく、源流の麓に水神を祀る祠があるのだとか。
だが、いくら登山道があるとはいえ、山は山。登るにつれて足場はどんどん悪くなっていく。
ぬかるんだ地面に足を何度も取られそうになりながら、進むこと数十分以上。
ようやく、近くまでやって来れた。
「ここの先に~今回の水害を生み出している水神・篠雨主命様がおられます~」
【ふむ、比較的神格の高い神のようだな。神力を感じるぞ】
ライが魔本の中からそう告げれば、反応したのは志修那だった。
「そんなに!? その神をあまつさえ保護なんて! 無理も無理じゃない!?」
安定の弱気な彼の発言をしり目に、楓加が口元に人差し指を当てながらゆっくりと口を開く。
「うーん、その『革命の奏者』の人達が関わっているとして……どうやって、水神様を暴走させたのかな? そこに突破口がある? かも?」
「……確かに、気になりますね……。どのような手段を使ったのでしょうか?」
辰真も顎に手を当て、思考を巡らせる。
(……そもそも、人間が神をどうこうできるものなのか? いや、相手は退魔術を扱えるんだ。……なにか……)
その時だった。志修那が頭を掻きむしりながら奇声を上げる。騒がしいのはいつものことだが、様子が少し違う。それに気づいた操姫刃が声をかけようとするが、それより前に彼が早口でまくし立てる。
「そうか! 土地の不浄を水神とわざと相性の悪い術式構成で増幅させて、その上で負の感情を澱みとして無理矢理流しこんだんだ! そんなもの喰らわされたら、いくら神とはいえ暴走するに決まってる! なんてこったぁぁぁぁ!!」
「えぇ~っとぉ……しずなん? もしかして、わかった感じ……なのかな?」
楓加が尋ねれば、一人の世界にトリップしていた志修那が戻って来たらしい。驚きの表情で他の者達に視線をやる。
「え!? 逆に君ら、ここまで来といてなにも感じなかったの!? なんでよ! こんなに術式が張り巡らされてるじゃん!!」
彼の言葉に動揺が走る。つまり、この場所はもはや敵のテリトリーということ。その事実に全員の警戒心が跳ね上がる。
「……伊鈴ノ宮。お前は術式に詳しいのか?」
操姫刃が尋ねれば、志修那が困ったような表情を浮かべながら答える。
「詳しいっていうか、人造式神とかに術式解析と構築は必須だから? そりゃあ、ある程度は知ってるでしょうよ! というか初架こそ、能力使えばいいんじゃないのかい!?」
「いや、おれの能力には制約が色々あってな。その一つにおれが理解できていないものには使用できないというものがある。退魔術を会得したのは最近だ。だから、詳しく理解できているかと問われればノーだ」
そんな二人のやり取りを横目で見つつ、辰真は魔本の中で待機しているライに声をかける。
「……ライ。伊鈴ノ宮先輩が言っていた術式、なんとかできるか?」
【……どうだろうな。ワタシが頭脳戦において不得手なのは知っているだろう?】
二人の会話を聞いていたらしい楓加が可愛らしい微笑みでとんでもないことを告げた。
「う~ん、それじゃあ……。その術式? ぜ~んぶ、壊しちゃおう!」




