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現地

 黒樹(くろき)市から車を走らせること数時間。

 たどり着いたのは、山が近い小さな町、響尾町(ひびおちょう)


「う~ん! 空気が美味しいね~!」


 大きく伸びをする楓加(ふうか)の横を、疲れた顔の志修那(しずな)が通る。


「あの……何時間も車を走らせるなんてさぁ……鬼畜すぎない?」


「仕方ないだろう。免許を持っているのが伊鈴ノ宮(いすずのみや)、お前だけなのだから」


 あっさりと事実を告げる操姫刃(ときは)に対し、志修那(しずな)が更に愚痴る。


「そこ! そこなのよ問題は!? ねぇ! 辰真(たつま)は仕方ないにしても、浮風(うかせ)初架(はつか)は十八なんだから、免許持っててもいいじゃないか! なんで僕しか持ってないわけぇぇ!?」


「それについてはごめんね、しずなん? ウチは()()()()()()()()()()()さぁ~あはは……」


「おれについては、能力の弊害(へいがい)だ。平時ならまだ問題はないだろうが、有事の際に能力がどう作用するかわからんのでな。故に免許は取っていない。すまない」


 二人のもっともな理由に、志修那(しずな)(あきら)めたのだろう。がっくりと項垂(うなだ)れた。そこから少し離れたところで辰真(たつま)(たたず)んでいた。


(ここは……父さんと遊びに来た最後のところ……。懐かしいな……)

 

 四人が今いるのは、依頼人が所有する天井付きの駐車場だ。外は報告書の通り土砂降りで、道行く人は少なく、いても雨合羽(あまがっぱ)に分厚い雨靴を履いて動きづらそうにしていた。

 四人もトクタイ支給の雨具を装備し、依頼人との待ち合わせ場所へと向かうことにした。


 ****


「いや~お待ちしておりました~、トクタイの方々~。私めが、今回依頼を出させて頂きました~彪ヶ崎争護(あやがさきそうご)でございます~」


 四十代前半と思しき、白髪(しらが)交じりの疲れた顔の男性が口を開く。深々とお辞儀をしながら名刺を差し出す彼を見て、志修那(しずな)が大声を上げた。


「ちょ! 彪ヶ崎(あやがさき)って……確か、前市長の苗字も彪ヶ崎(あやがさき)じゃなかったかい!?」


「はい~そちらの市の市長めをしていたのは、弟でございます~。その節は大変なご迷惑をおかけいたしました~。一族を代表してお()び申し上げます~」


 更に頭を下げる争護(そうご)に、操姫刃(ときは)志修那(しずな)の頭を勢いよく叩き彼の頭を下げさせた。その様子を苦笑いしながら、楓加(ふうか)が頭を下げ名刺を受け取り自分の名刺を手渡す。


「そんなです! こちらこそよろしくお願いしますね! ウチ……わたしがこのチームのリーダー、浮風楓加(うかせふうか)です! それでは、彪ヶ崎(あやがさき)さん! 早速ですが詳しい話をお聞かせ願えますか?」


 楓加(ふうか)の言葉で下げていた頭を上げると、争護(そうご)が神妙な面持ちで四人に着席を(うなが)す。今いるのは争護(そうご)が用意した会議室だ。彼はこの町で役員をしながらトクタイと提携(ていけい)して治安維持を担当しているらしい。


「それでは~早速話させていただきます~。まずは被害状況からですね~」


 話し出した争護(そうご)の表情は、口調とは裏腹にとても緊迫していた。


(……それほど、事態が深刻……こと……なのか?)


 自分の想定が甘かったことを内心で(はじ)ながら、辰真(たつま)争護(そうご)の話に耳を(かたむ)けるのだった。

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