現地
黒樹市から車を走らせること数時間。
たどり着いたのは、山が近い小さな町、響尾町。
「う~ん! 空気が美味しいね~!」
大きく伸びをする楓加の横を、疲れた顔の志修那が通る。
「あの……何時間も車を走らせるなんてさぁ……鬼畜すぎない?」
「仕方ないだろう。免許を持っているのが伊鈴ノ宮、お前だけなのだから」
あっさりと事実を告げる操姫刃に対し、志修那が更に愚痴る。
「そこ! そこなのよ問題は!? ねぇ! 辰真は仕方ないにしても、浮風と初架は十八なんだから、免許持っててもいいじゃないか! なんで僕しか持ってないわけぇぇ!?」
「それについてはごめんね、しずなん? ウチはハンドル壊しちゃうからさぁ~あはは……」
「おれについては、能力の弊害だ。平時ならまだ問題はないだろうが、有事の際に能力がどう作用するかわからんのでな。故に免許は取っていない。すまない」
二人のもっともな理由に、志修那は諦めたのだろう。がっくりと項垂れた。そこから少し離れたところで辰真は佇んでいた。
(ここは……父さんと遊びに来た最後のところ……。懐かしいな……)
四人が今いるのは、依頼人が所有する天井付きの駐車場だ。外は報告書の通り土砂降りで、道行く人は少なく、いても雨合羽に分厚い雨靴を履いて動きづらそうにしていた。
四人もトクタイ支給の雨具を装備し、依頼人との待ち合わせ場所へと向かうことにした。
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「いや~お待ちしておりました~、トクタイの方々~。私めが、今回依頼を出させて頂きました~彪ヶ崎争護でございます~」
四十代前半と思しき、白髪交じりの疲れた顔の男性が口を開く。深々とお辞儀をしながら名刺を差し出す彼を見て、志修那が大声を上げた。
「ちょ! 彪ヶ崎って……確か、前市長の苗字も彪ヶ崎じゃなかったかい!?」
「はい~そちらの市の市長めをしていたのは、弟でございます~。その節は大変なご迷惑をおかけいたしました~。一族を代表してお詫び申し上げます~」
更に頭を下げる争護に、操姫刃が志修那の頭を勢いよく叩き彼の頭を下げさせた。その様子を苦笑いしながら、楓加が頭を下げ名刺を受け取り自分の名刺を手渡す。
「そんなです! こちらこそよろしくお願いしますね! ウチ……わたしがこのチームのリーダー、浮風楓加です! それでは、彪ヶ崎さん! 早速ですが詳しい話をお聞かせ願えますか?」
楓加の言葉で下げていた頭を上げると、争護が神妙な面持ちで四人に着席を促す。今いるのは争護が用意した会議室だ。彼はこの町で役員をしながらトクタイと提携して治安維持を担当しているらしい。
「それでは~早速話させていただきます~。まずは被害状況からですね~」
話し出した争護の表情は、口調とは裏腹にとても緊迫していた。
(……それほど、事態が深刻……こと……なのか?)
自分の想定が甘かったことを内心で恥ながら、辰真は争護の話に耳を傾けるのだった。




