初めて聴く声
無事に持ち出し許可をもらった辰真は、妖魔王について記載された資料本を持ってEチームの待機室へと戻って来た。
まだ他の三人は戻ってきてないようで、その事に安堵した辰真は自分の席に着くと資料を開く。
(えぇと……知りたいのは……これじゃない……これでも、ない)
資料をめくりながら、辰真は目的の記述を探す。だが……。
「……はぁ。ない、か……」
残念ながらめぼしいどころか、かすりすらしなかったことに落胆しながら、辰真は背もたれに寄りかかる。
【少し目を休めた方がいいのではないか? 酷使するのは良くないぞ】
ライに指摘され、辰真は目を閉じることにした。少しでも休めるためだ。しばらくして、気付けば辰真は寝入っていた。
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――夢。
事故で父さんが死んで……しばらくして、新しい父親を名乗る男が現れた時の苦い思い出。
大好きな父さんの代わりなんていない! そう言って逃げ出して……逃げた先でライと出会ったんだ。
……あれから、俺はずっと探している。自分の、生きる意味を。
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「たつま……さん?」
聞きなれないか細い声だったが、気配に敏感な辰真はすぐに目を覚ました。起きて辺りを見れば、そばに白い髪と黒い髪をした少女、射離凪がいた。
(射離凪様が……喋った……のか?)
このEチームに配属されてからというもの、彼女の声を今まで聞いたことがなかったためについ驚いてしまったのだ。
「あの……だいじょうぶ、ですか?」
「えっ……?」
射離凪に尋ねられ、困惑を隠せない辰真。そんな彼に対し、彼女は小さな手で顔に触れた。
「ないていたから……きになったのです……」
ようやく、彼女が自分の身を案じてくれていることに気づいた辰真は、もたれていた椅子から上半身を起こして立ち上がり頭を下げる。
「……大丈夫です。ご心配おかけし、申し訳ありませんでした」
「なんで、あなたがあやまるのです? なにもわるいことはしていない、でしょう?」
言われてみればその通りなため、辰真はいよいよ返答に困ってしまう。どうしたものかと思案していると、ライが魔本の中から助け船を出す。
【祓神よ、タツマはあまり話すのが得意ではないのだ。気にしないでやってくれないか?】
「そう、なの? なら、わかったわ」
それだけ言うと、射離凪は透明になって行きその場から姿を消す。取り残された辰真は、困惑しながらデスクに置いた用済みの資料に視線をやる。
「……これ、どうしよう……」
あと数十分もすれば、今回の任務についてのミーティングがある。資料室に返却へ行くのは次の機会にしようと決めた辰真は、もう少しだけ休憩することにした。
外から聴こえてくる小鳥のさえずりが耳に心地よかった。




