初任務を終えて
「初任務、皆ご苦労様。それじゃあ、報告書を各自提出の後、自由行動とする。以上」
任務完了後、待機室での和沙からの指示に従い、それぞれデスクと向き合う。それを確認すると、彼女は司令室へ入って行った。
しばらく、静かな時間が流れた。それぞれの方法で報告書をまとめている音だけが響く。そんな中、慣れないパソコンに悪戦苦闘しながら辰真はふと思う。
(……そういえば。初架さんのアレは一体……? 多分前に言っていた能力だとは思うけれど……)
操姫刃が辰真と『爆炎の妖魔』の思念との間に割り込んだ時のことだ。確かに彼女は祓力とは明らかに違う力を使った。
それはわかったのだが、具体的にどう言った能力なのかがわからなくて……辰真は思わず額に手を当てる。
(……訊いて……いいものなのだろうか?)
なんだか訊きにくくて、辰真は視線を彷徨わせる。報告書は具体的な方がいい。だが、操姫刃の能力についてわからなければ、正確性に欠ける。
どうしたものか悩んだ末、辰真が意を決して操姫刃の方へ身体を向ければ、彼女は報告書を書き終えたらしく椅子から立ち上がったところだった。
視線が交わり、辰真は気まずくなって思わず視線をそらしてしまった。それに気を悪くするでもなく、操姫刃が声をかけてきた。
「辰真? おれになにか?」
「あ……その……」
口ごもる辰真に対し、彼女は合点がいったというように、口をゆっくりと開いた。
「おれの能力について悩んでいるのだな? まぁお前は間近でみたわけだから、報告書に記載するのも当然か」
彼女の言葉に反応したのは志修那だった。彼は不思議そうな顔で操姫刃を見つめ尋ねる。
「ん? 能力……って確か、『説明が難しい』とか言ってたやつかい?」
「そうだ。使う必要性に迫られたからな、使った」
あっさりと告げる彼女に対し、楓加がいつもよりワントーン下がった声色で声をかけた。
「そっか。トッキー……使ったんだね~……。具合はどうなん?」
「問題ない。……と、伊鈴ノ宮と辰真には話が見えんな。すまない。この機会だ、おれの能力を至極簡単に説明しよう。そうだな、表現としてもっとも近いのは……ハッキングだな」
「は? ハッキングぅ!? それって……アレだろう!? その、機械とかをなんやかんやしちゃうヤツだろう!? それが能力ぅ!? えっそれ人体にも使えたりしちゃったりするのかい!? というか使ったんだよねえ!?」
志修那が大きな声で尋ねれば、操姫刃は頷く。
「機械に対しての方が精度は高い。だが、確かに多少人体に対しても行使できる。もっとも、おれが人体に対して影響力を発揮できるのは、せいぜい簡単なコマンドだけだ」
「コマンドってなにさ!? 怖いんですけどぉぉぉぉ!?」
なおも騒ぐ志修那に対し、楓加が困ったように笑いながら彼に近寄る。
「まぁまぁしずなん、落ち着いて? トッキーは人に悪さしないし、それに確か表層面だけにしか干渉できないはずだから、安心してね?」
「……浮風さん、初架さんの能力について知ってたんですか?」
辰真の疑問の答えたのは操姫刃だった。
「おれ達は同じ孤児院の出身、ようは幼馴染だからな。互いのことはよく知っているつもりだ」
「そそ~。あの頃からの大親友なんだ~!」
そう言って二人は微笑み合う。それを見て、ようやく落ち着いたらしい志修那が辰真の横に近寄り、静かに耳打ちをした。
「辰真。僕達は彼女達に不干渉を貫こう? というか、お願いだから間に入ろうとしないでおくれよ? 男が挟まったら待っているのは地獄だからね?」
「……は、はぁ。意味はわかりませんが……了解です……?」
とりあえず承知した辰真に深く頷く志修那を操姫刃と楓加が不思議そうに見つめていた。




