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34 危機迫る②~画面の奥の真実

 「椎名先輩、騎馬戦が終わったら中庭で落ち合いましょう。丁度お昼にもなりますし」


 一年生の大玉転がしも終わり、次は二年生の騎馬戦が始まるわけだが、その前に橘が俺たちの待機場所までやってきてそれだけ言い残して下がっていった。


 まずは男子の騎馬戦から始まる。

 各クラス五騎の八クラス対抗バトルロイヤル。五分間で残った騎馬の数だけ十ポイントずつ加算される。

 うちのクラスだけ俺が転校してきたせいで男子が一人多いから、騎馬戦に出ない男子がいる。申し訳ないです……。


 号砲とともに数多の騎馬が入り乱れていく。

 だが、俺たち黄チームは一ヶ所に固まっている。


 「じゃ、じゃあ、まずは二年八組、虹チーム狙いってことで良いかな?」


 一応、体育祭クラスリーダーということもあり、俺が騎馬戦においてのクラスの司令塔役となっている。

 今この瞬間においては、二岡より俺の方が立場は上なのだっ……!


 とは言っても……。


 「そうだね。良しっ! みんなっ! まずは虹狙いで行こうっ!」

 「「「おおっー!」」」


 俺の提案に反応することはなく、結局皆さん、二岡の言葉を待っているんですがね……。

 俺の存在意味とはなんなのだろうかと、少し考えさせられてしまう。


 「……じゃあ、そうゆうことだからよろしく」


 騎手である俺を(かつ)ぐ騎馬役の三人、相沢と佐藤と涌井に移動の指示を出す。


 とある虹チームの騎馬に近づくと、騎手の頭に巻かれたハチマキがハッキリと見える。

 ここまでの個人種目では各チームその色のビブスを着ていたわけで、虹チームは何ともカラフルなビブスでちょっとダサいな、なんて思っていたのだが、ハチマキもハチマキで、ダサいというよりちょっと気持ち悪い。

 レインボーって、無敵感あるけどこれはこれで巻いてるの見るとゾッとするから、さっさと奪わせていただこう。


 虹チームの騎馬に向かって突撃していく。相手も狙われていることに気付いたのか、距離を取ろうとしてくるが俺の騎馬を(にな)ってくれている三人がそれを許さない。

 猛スピードで追撃する。相手も逃げることを諦めたのか、こちらに向いて戦闘準備といった感じだ。


 相手騎馬の目の前に来るや、俺はすかさず右手を繰り出す。が、普通に(かわ)された。

 相手も俺のハチマキを奪おうとしてくるから、それを何とか躱していく。


 「――っ! あっ! 逃げたぞっ……!」


 ここまで交戦したというのに、突然相手騎馬が慌てて逃げ出した。


 「――椎名っ! 危ないっ!」


 二岡の叫び声が聞こえたような気がした。気のせいかもしれないけど。


 「――っ?!」


 頭部に髪を引っ張られたような、いや、引っ張られた際と同様の痛みが走り、ついでに僅かに頭が涼しくなったような気がした。思わず自分の頭を触ってしまう。


 ――あれっ?! 無い……?!


 髪が無くなったのではなく、ハチマキが消えていた。いや、もしかしたら髪も数本お亡くなりになったかもしれない。


 体を(ひね)って後ろを向くと、赤チームの奴がしたり顔で黄色いハチマキを指で回していた。


 ――しまったっ……!


 気付いた時にはもう手遅れ。俺、どうやらやられてしまったようです。司令塔(仮)開幕早々倒される。

 まぁ、この後の司令塔は二岡がやってくれるでしょう。


 というか、このしたり顔、どこかで見覚えがあると思ったら林間学校のドッジボールの決勝の二本目の試合で最後に俺に当てられた奴じゃねーか。さてはこいつ、あの時の恨みか何か知らねーけど、最初から俺を狙ってやがったな……。

 見事に仕返しされてしまったわけだ。無念……。


 「残念だったな椎名っ! 姫宮さんの前でテメェを倒してやったぜっ! これで姫宮さんも俺に――」


 いや、馴れ馴れしく話しかけてくんなや。そもそもお前、名前何だよ、顔しか知らねーよ。

 しかも何? お前有紗派かよ。あいつマジで可愛いよな。良かったな、良いところ見せれて。だからといって、お前に興味持つことは無いだろうけどな。


 「おいおい椎名、油断しすぎだぞ」


 いやいや、俺だけじゃなくてお前らも油断してたろ。


 佐藤の指摘に心の中で異議を唱える。


 「すまんなマジで」


 それでもハチマキを取られてしまったのは俺だから、一応詫びを入れつつ騎馬から降りた。


 「まぁでも、俺たちも警戒しとくべきだったよな」


 相沢が、簡単にやられた俺にフォローを入れてくれた。


 「それよりあいつ、林間学校で椎名に最後当てられてた奴じゃね?! 恋の恨みは力を引き出すってなぁっ! がははははっ!」


 涌井もそのことを覚えていたのか、先程赤チームの騎手が俺に言い放った言葉の意味も合わせてゲラゲラと笑っている。


 「叶わぬ恋でも力をもたらす、か。さてと、戻ろ……」


 騎馬を崩した状態でいつまでもフィールド内にいるわけにもいかない為、駆け足でテントに引き上げた。

 その際、男子の騎馬戦の後に騎馬戦を行う女子の待機場所をチラ見してしまったのだが、有紗から明らかに俺に向けられているドス黒いオーラが目に入った。

 幸い、この後の三年生の学年種目で午前中は終わり。つまり俺にとっては既に昼休みに突入したようなもの。


 ドス黒いオーラに若干の恐怖を抱いた俺は、慌ててテント内にある弁当やら飲み物が入った鞄を手に取り、中庭に向かった。



※※※※※



 中庭に向かう途中、そこに向かって歩いている橘が目に入った。スマホの画面を見つめながら歩いている模様。歩きスマホは危ないよ? と叱ってやろう。まぁ、まだ競技中なわけで、周囲には誰もいないんだけどね。


 「おーい橘っ! 歩きスマホは危ない――」


 言いかけていたのだが、言葉が止まってしまった。だって、振り返った橘が大粒の涙を(こぼ)していたから。


 ……まさか今の騎馬戦を観てて、呆気なく俺がやられてショックで泣いているとかじゃないだろうな? けど、そんなことで泣かれても困る。俺、騎馬戦専門じゃなくて、テニス専門なわけだから。それに騎馬戦って、別に運動神経が良いから強いってわけでもないと思うし。


 「――ごめんなざい、椎名ぜんぱい。芽衣の……、芽衣のせいでぇっ……!」


 橘がまるで子供のように泣いて喚き出す。

 流石に、騎馬戦の件で泣いているわけではなさそうだ。恐らく、先程言っていた危機についてだろう。


 「――お、おいっ! 落ち着け橘……。何があったんだ?」

 「芽衣がざっき、椎名ぜんぱいにあっだどぎに、動画のがくにんがでぎながっだがらぁっ……!」


 呂律(ろれつ)が上手く回っていない橘だが、言っている言葉は理解できる。やはり間違いなくさっき言っていた危機についてのことだ。


 「今頃がくにんしでもおぞがったんでず……。もう、おぞいんでずっ……!」


 そう言って橘は俺にスマホを渡してきた。


 画面に映し出されていたもの。

 それは、二岡と曽根だった――。


 まだ、静止画だ。画面中央を押せば再生される。

 橘の様子も相まって、嫌な予感しかしない。


 迫り来る危機。この動画がそれを証明するなら、曽根から俺への攻撃であるはずだ。同時に、それには二岡も一枚噛んでいることになる。


 見なければわからない。ボタンを押そうとする指が僅かに震えた。


 「ふぅっ……」


 一度息を吐き、無理矢理震えを抑え込み、再生ボタンをタッチした。


 『今の長縄は椎名の言い分で断念せざるを得なかったが、まぁ良いだろう。特に計画の進行に問題はない』

 『わたし的には、ちょっと納得いってないんだけどねー。邪魔しやがって』


 計画? 一体それは何のことだ。それに曽根の言い方、俺を敵視しているのが簡単に見て取れる。やはり俺を狙った計画なのか?


 『椎名は姫宮とは仲が良いからな。だから姫宮が引っ掛かっている事実にも簡単に踏み込めたんだろ。そうなってくると、あの状況では場所移動させるのも必然的さ。一応、体育祭クラスリーダーなわけだし』


 この感じ、二岡は俺を敵視しているという雰囲気ではなさそうだ。つまり、俺に何かしら仕掛けようとしているわけでもさなそうでもある。

 だが、今は何故だか『一応』と付けられたことが妙に苛つく。


 俺に危機が迫っているわけではないのか……?


 じゃあどうして橘はあんなことを言ってきて――。


 『二人三脚、良くやってくれた。次の騎馬戦も頼んだよ。そこでは俺も動くから。心を砕きにいくぞ。仮に騎馬戦で無理だったとしても半壊までは追い込めるだろう。大丈夫さ、保険でリレーも残ってるからな』


 ――その理由が、今わかった。


 画面の奥に映る光景が、真実を物語る。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん、どうせ改心なんてせずに悪巧みしてるんだろうなって知ってたよクズ2人…
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