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23 体育祭、始まる

 「宣誓! 我々選手一同は、これまで共に練習してきたクラスメイトとの絆を胸に、スポーツマンシップを大切にし一瞬一瞬を全力で戦い、最高の思い出にすることを誓います! 選手代表、二年三組、二岡真斗!」


 吹奏楽部のファンファーレを合図に各チームが入場を終え、それから体育祭実行委員長の開会宣言を聞き流したり、旗が上がるのをボーッと眺めたり、校長の話や生徒会長の話を聞き流しつつ時間は流れ、そして今、二岡の選手宣誓を口火にいよいよ花櫻学園の体育祭が開幕した。


 どうして二岡が選手宣誓をやっているのかは知らないが、流石と言わざるを得ない完璧な選手宣誓だった。


 みんな空気を読んでか歓声こそ目立ってはいないが、大きな拍手が沸き起こっている。


 「椎名せ~んぱいっ! おっはようございまぁす!」

 「あ? 橘か。おはようさん。つか、何でここにいるわけ? クラスのところに戻れや。まだラジオ体操残ってるんだけど?」

 「良いじゃないですかぁ。どこで体操しようとも、そんなの芽衣の自由ですよ。それに、ほら」


 橘の視線に合わせて周囲を見渡すと、各々自由に広がっている。


 こうゆうのって、クラス毎に綺麗に広がっていくものだと思ってたんだけど、この学校は違うんだな。

 なんか人が密集している場所が一ヶ所あるんだけど、多分二岡が囲まれてるんだろ。知らんけど。


 「ね? だから芽衣は椎名先輩と体操をするんです」

 「はいはい……。それくらいならまぁ、良いけど」


 橘はストーキングをしてきているわけではない。

 むしろそれとは真逆で積極的に絡んできている。

 それを拒絶するほど俺は心無い人間ではない、はず……。


 音楽と共に体を動かしていく。

 ラジオ体操なんていつぶりだろうか。

 多分小学校の夏休み以来な気がする。


 中学の頃と、皇東時代の体育祭はラジオ体操じゃなかったし多分そう。


 「そういえば……、椎名先輩、チラ子さんには、会えましたか……?」


 ラジオ体操中だというのに、橘がそんなことをリズムを乱しながら聞いてくる。


 「会えて、ねえけど?」

 「まぁ、ヒントでも、無ければ、探すの、大変そう、ですもんね……」


 そのヒントは本当に身近なところに落ちていた。

 だから、この体育祭が終わったら本格的に動き出そうと思ってる。

 もし仮に、全てが俺の勘違いだとしたら再びまっさらな状態に戻ってしまうのだが、それでも今は信じて賭けてみるしかない。


 「それより橘、リズムめっちゃ乱れてるぞ」

 「ちょっと、口を開き、過ぎました。今から、真面目に、やります」


 橘は言い終わると少しだけ真剣な顔つきになり、リズムを取り戻そうと体を動かした。


 「そういや橘、お前個人種目何出るんだ?」

 「椎名先輩」

 「ん?」

 「乱れるんで、今は、話しかけないでください」


 橘は再びリズムを乱しつつそう言った。

 つまり、俺が橘のリズムを奪ったわけだ。

 せっかく戻したばかりなのに悪いことをしたなと思って口を閉じ、ラジオ体操に集中した。



※※※※※



 「椎名先輩、さっきの話なんですけど、芽衣は残念ながらハードルに出ることになってしまいました。まぁ、自分で決めたんですけどね」


 設置されている各チームのテントに向かう途中、橘は俺が先程ラジオ体操中に聞いた質問に答えてくれた。


 「残念って、嫌なら何で選んだんだよ……。んじゃ陽歌と同じだな」

 「ぐぬぬっ……。御影先輩って確か運動神経凄い良かったですよね? 芽衣じゃライバルにすらなれないじゃないですか……」」


 どうしてライバル同行の話になったのかさっぱりわからないが、仮に同じ組で走ったとしたら間違いなく陽歌が勝つだろう。

 そもそも、陽歌は決勝まで進むと思うし。


 というか――。


 「同じ黄チームなんだからライバルも何もないだろ。それに、同チームで同じ組にはならねぇんじゃね?」

 「まぁ、そうなんですけど……。御影先輩とか姫宮先輩に勝てるところが一つも無いのは嫌と言いますかなんと言いますか……」

 「あ、それなら有紗には運動神経は間違いなく勝ってるぞ。つか、お前も知ってるだろ? ドッジボール同じチームだったんだし」


 ここ最近の特訓で有紗の運動神経は飛躍的に向上したはずだが、それでも悪いことには変わりはないし、普通に橘に分があると思う。


 「――そうでしたっ! でも、御影先輩には……」

 「思いつくだけでもとりあえず若さでは勝ってるぞ」


 『若さ』、この言葉も大概信頼度が低い。年下でも老けてる人は普通にいるし、逆に年上でもやたら若々しく見える人も普通にいる。陽歌に関していえば、俺には明らかに同世代より若く見える。何が言いたいかというと可愛い。橘と比較しても当然陽歌の方が可愛い。このことを橘に言うのはやめておこう。だって、それじゃまるで俺が橘をいじめてるみたいになってしまいそうだから。


 「し、椎名先輩から見て芽衣って若く見えてますかっ?!」

 「え? 流石に若く見えるけど? そのフレッシュさでも活かして今日は頑張ってくれや」

 「はいっ!」


 冷静になって考えてみたら、俺たちは一体何の話をしているのだろうか。

 高校生なのに若い若くないって、次期相応すぎる……。

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