21 超人気者は明日を前に何を企む?
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家に帰り、今日もまずは自室の歯車の模型の様子をチェックする。
何処にも異常はない。
以前ズレが生じていた時に、より強度の高い物に組み直したあの日からガッチリと噛み合い、一切隙も見当たらない。
まるで俺自身を表現しているようだ。
いや、俺自身を表現しているのではなく、俺の世界を表現しているのだ。
俺の為の世界、花櫻学園を――。
これが明日、実現する。
違う、以前までは実現していたのだ。
だから、再生――。
そうではなく、進化すると言った方が正しいだろうか。
大丈夫だ。
この歯車と同じく、一切の隙もない。
全ての準備は整っている。
つまり、明日再び、花櫻学園は俺の為の世界になることは必然なのだ。
歯が動き出したら止まらない。その記念すべき日が、明日、六月二十五日なのだから滑稽だ。
泣いて謝ろうがその時には既に手遅れ。
何を隠そう、元々正常に動いていた歯車にズレを生じさせたのはお前なのだから。
そのままにしておけば良いものを、わざわざ組み換える手間をこの俺に取らせたのはお前なのだから。
俺に勝てる奴は、花櫻学園には誰もいない――。
「それにしても、椎名には嘘を言ってしまったな……」
ショッピングモールで偶然ベンチに座っているのを見かけた。
どうやら妹と買い物に来ていたみたいだ。
随分と仲が良さげに見えたが、花櫻学園ではないから気にはしない。
椎名が花櫻学園の生徒で、それでいて俺よりも誰かから好かれていようとそれが家族なら気にはしない。
そこまで心は狭くはないつもりだ。
御影やら姫宮とも仲は良いが、奴らは異分子、そもそも俺に波長を合わせない紛れ込んだ埃のようなものだ。
所詮は埃、そんな存在が何も知らない転校生と仲良くしようがどうでもいい。
やがてそんな転校生も、俺の歯車の一部となるのだから。
いや、もう既になっていると考えても良い。
日頃の接触から感触は良好だ。
彼に俺を疑う余地は何もない。
「もし違うなら、それこそ猫被りも良いとこだな」
だが、普段の様子からあれは『素』そのものだ。
何故わかるかって?
そんなの決まってる。
俺という人間が猫を被っているからだ。
本性を知る者は、たった一人しかいない――。
「俺がわざわざ絆創膏だとか消毒液だとかを用意した本当の理由を知ったら、椎名はどう思うんだろうな」
そんなことを考えたところで、彼が知ることはない。
それどころか、たった一人を除いて誰も知ることはない。
何故なら、明日起こることは俺含めた二人しか知らない、必然であり、偶然なのだから――。
「一人で悟れ。一人で苦しめ。誰にも頼らず、もう誰も傷付かないように諦め、俺に従えっ……!」
そうなることは決定事項。
何故なら、俺が完璧な人間で、お前はそうではない。
俺の前に心の行き場を失い、そして屈する未来が待っている。
その心を、俺が拾ってやる。
純粋な愛情から、何とも歪んだ愛情になってしまったものだ。
だが、俺のこの歪んだ愛情を引き出したのもまた、お前本人だ。
お前にはその責任を取る必要がある。
だからお前も、この俺に愛を向けろ。
純粋な愛情でも歪んだ愛情でも何でも構わない。
愛が向けられるなら俺は喜んでそれを受け取ろう。
「明日が楽しみだ。なぁ? 綾女っ……!」
机の引き出しから一枚の写真を取り出し、俺はそう呟いた――。
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三章折り返します。




