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13 あり得ることのない想像

 「ふっふーんっ! どうよ! 十回も飛んでやったわよっ!」


 昨日から始まった体育祭練習、その朝練を終え教室に戻ってきたのだが、隣の席の姫宮有紗がやたら上機嫌である。


 「あー、そう……。良かったね」


 昨日の最高記録であった六回を更新する十回という記録を叩き出した俺たち二年三組だったのだが、それでもやっぱり先が思いやられる記録でもある。


 長縄は跳んだ回数がそのまま得点になるらしいから、学年で一番を目指すなら一回でも多く跳んだ方が良いのだが、現状では他クラスに大きな差を付けられることになりかねない。

 二岡擁するクラスであるにも関わらず他クラスに負けるなんて事態にでもなろうものなら、全責任を負わされかねない体育祭クラスリーダーという立場上、一応学年で一番のクラスになることを目指しているわけだが、長縄の惨状は嘆かわしいものである。


 「何よっ! そのどーでも良さそうな反応は」


 興味がないわけではなく、寧ろ興味はあるけど気持ちが乗らないだけのこと。

 だがしかし、このような雰囲気を出してしまっていては有紗のやる気に水を差しかねないとも思った。

 有紗には何がなんでもある程度は跳べるようになってもらわなければならない。


 何も、長縄で一番を取らなくても良い。

 幸いと言って良いのかはわからないが、俺は千六百メートルに出ることになってしまったし、それで一位を取ってある程度カバーできる範囲で良いから跳べるようになってくれ。


 なんなら、有紗が二人三脚で一番を取っても意味なんて無いと思っていたくらいだが、杠葉さんを取り巻く環境以前に、俺を取り巻く環境が超絶悪化しかねないからやっぱり是非とも二人三脚で一番を取ってほしいかも。

 まぁ、無理だと思いますけどね……。


 とりあえず、長縄さえある程度跳べるようになってくれさえすれば、リレーなりその他の人の個人競技の結果次第で充分学年一位も狙えるだろう。


 だから今は――。


 「どーでも良いなんて思ってねーよ。むしろ感心してるんだわ。昨日の今日で四回も多く跳べるようになるなんてあれから曽根と随分練習したんだな」


 ――とりあえずご機嫌とりをしておこう。実際、僅かでも成長してるのは事実だし。


 「そう思ってたなら、最初から褒めてくれれば良いのに。見てなさい! 本番では百回跳んでやるわよっ!」


 なんて意気込んでいらっしゃいますが、いや、無理だろ……。

 有紗どうこうより、その回数に辿り着くまでに確実に誰かしら引っかかるから。


 でもまぁ、気合があるのは悪いことでもないわけだし――。


 「そっか。頑張れよ!」


 ――一言だけ、激励を送っておいた。



※※※※※



 「椎名くん、今日の放課後の練習はどうする?」


 休み時間、曽根が俺の元にやってきてそんなことを尋ねてきた。


 「どうするって? 今日は無しにするかってこと?」

 「違うよ。長縄にするか、リレーにするかって話。休みは週の真ん中、水曜にしよう」

 「あー。なら、今日はリレーにすれば良いんじゃね? 長縄とリレーを交互に。長縄をある程度跳べるようになってからリレーの練習に切り替えて、それでリレーの練習をしてる間に長縄の跳び方忘れちゃ練習損だし」


 そうなってしまっては意味はない。絶対そうなるというわけではないが、有紗の場合はそれが簡単に起こりそうな気もしてしまう。

 だったら、長縄もリレーも両方とも感覚を忘れないように配慮してあげるべきだと思った。

 なんとも個人的感情で動いてしまっているなぁとも思うが、曽根も恐らく俺の意見に文句は無いはず。


 「オッケー。じゃあそれで決まりね。これから様子見ながら、走順の調整していこうね」


 それだけ言い残し、曽根はゆったりと自分の席に戻っていった。


 一応仮の走順は既に提出してあるが、リレーの走順だけは本番ギリギリまで調整可能だ。ついでに、選抜二百メートルリレーもそれは可能。だが、その他個人競技に関してはもう入れ替えはできない。

 それが花櫻学園の体育祭の決まりらしい。

 少々複雑で面倒だなんて思ったりもするが、融通が利く部分があるだけマシなのかもしれない。


 ちなみに今のところ学年対抗リレーのアンカーは二岡ということになっている。

 仮に一位でバトンが回らなくても、一位と五メートル以上離れていない限り抜かしてくれるんだろうなぁと期待している。


 ついでに言えば、選抜二百メートルリレーの二岡の方のチームのアンカーも二岡ということになっている。

 俺も出場するのだが、二岡とは別チームに決定したからアンカーは避けておいた。

 何故かというと、仮に決勝に進んだ場合に一位でバトンが回ってきちゃったらわざと二岡に抜かされるというお膳立てでもしなきゃならなくなりそうなのが嫌だったから。

 二岡が一位でゴールすることには特に何も思わないが、俺がその為の生贄になるのは御免だ。


 とはいえ、もしそういった状況になったとして逆に抜かされずに一位でゴールでもしてしまったらどんな空気になるのか、少しだけ気になっている自分もいた。


 まぁ、俺のチームのアンカーは現段階では涌井ということになっているから、そうはならないのだけど。

 それに、ちゃんと二岡チームが一位になる為の戦力構成にもなっているからな。曽根の進言で……。

 そのせいであんまり気が進まなかったのだが、相沢は二岡のチームということになってしまった。念の為、決定前に相沢に確認したのだが、文句を言わずにすんなり納得してくれた。


 願わくば、可能性は低いが、花櫻生が素直に相沢は二岡の勝利に貢献したと思ってくれて、それでいて今の相沢の状況の改善に繋がってほしい。


 そんなわけで二岡チームの戦力は俺のチームよりも充実しているわけだが、それでも仮に、両チーム決勝に進んだとして、僅かに早いタイミングで俺のチームのバトンが先に涌井の手に渡ったら、涌井はそのまま一位でゴールできるのだろうか。


 考えてもそんなこと、全く想像できなかった。


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