番外編⑦芽吹く音
あいつの誕生日パーティーも無事に終わった。
部屋に戻って少し休憩した後、今はお風呂に行く為に準備をしている。
そんな中、ポケットに入れていたスマホが震えた。あいつからのメッセージだった。
どうやら、私からの誕生日プレゼントを開封したみたいだ。
食の女神、姫宮有紗ちゃん厳選、〈いつでもどこでもお食事セット〉よ!
大事に使わなきゃお仕置きよっ!
なんて心の中で呟いてみたものの、なんで私、こうも当たり前に自分の趣味をあいつにさらけ出しているのだろう。
それもこれも、あの日山根屋で遭遇しちゃったことが原因。
でも、今となってはどうしてかそれが私にとって悪いことだとは思ってなくて、むしろ良かったとさえ思っている。
「どうしたの有紗ちゃん? ニヤニヤして」
「――えっ?! な、なんでもないっ! なんでもないからっ!」
自然とニヤけてしまっていたみたいだ。はるちゃんが不思議そうな表情で言ってきた。
私は慌ててニヤける顔を元に戻し、必死に否定した。
「じゃあ姫ちんも準備できたみたいだし行こっか」
弥生がそう言って部屋の扉を開いた時、再びスマホが震えた。またあいつからだった。
今度は文章ではなく、二枚の写真。
一枚目には私がソロで写っていた。
これは昨日、ハイキングであいつに撮ってもらった写真。
流石は私。背景に完全勝利しているわ。可愛いって、罪なものね……。
続いて二枚目――。
「――っ?!」
――あいつと私のツーショット。あの時は色々必死だったから何とも思ってなかったけど、今冷静になって考えてみるとめちゃくちゃ恥ずかしいことをしている。
どうして私はこんなにあいつに密着しているのか。
『ちょ、ちょっと有紗。腕に抱きつくのやめてくれないか?』
あいつがそんなことを言ってきたことを思い出す。
あいつ気付いてるじゃないっ! ホント何やってんのよ私っ……!
どうして私の胸があいつの腕に当たっているのか。
それは、私があいつの腕に抱きついてるからであって事故であって……。
私の抜群のプロポーションに対してのお褒めの言葉は遠慮なくいただくけど、接触は違う……。いや、私のせいだけどね……。
「――どどど、どうしたのですか有紗さんっ?!」
な、何やら綾女が興奮している。私、もしかして何かした……?
「ニ、ニヤけた次は自分の胸を触り出すとは……。――さては有紗ちゃんっ! またバストアップしたのかなぁっ……?!」
「――ちょっ?! はるちゃんっ?!」
突然はるちゃんが私の胸に飛びかかってきた。
――えっ?! わ、私、自分の胸なんて触ってたのっ?!
「んんんっ……? 特に変わってないような」
「――どっ! どっちでも良いから急に触らないでよっ!」
「えへへっ、つい……」
まったく、はるちゃんってば。
と、とりあえず返信をしておかなきゃ。スタンプでいっか。
「あのー、どんどん遅くなるんだけど……」
部屋の入り口に立つ弥生が呆れた表情で口を開いた。
も、申し訳ない。つい写真に気を取られてしまっていた。
「そ、そうねっ! 早く行きましょっ! 早くっ……!」
「おやぁ? 何か焦ってますなぁ、有紗ちゃん」
はるちゃんが興味深げにそんなことを言ってくる。
「良いからっ! 早く行くわよっ……!」
「――おととととっ……?!」
そんなはるちゃんの背中を押して、無理矢理部屋の外に出た。
ふぅ……、これでやっとお風呂へ行けるわ。
浴場に向かって歩く途中、さっきの写真が急に脳裏に浮かんできた。
「ふふっ。案外良い顔してたわね。私も、あいつもっ……!」
僅かに、ほんの僅かに心臓が跳ねるのを感じた。
自分の身体の一部だからか、私の耳には聞こえてきた。
何かが芽吹いたような音――。
……いやいや、まさかね。そんなわけないわ。
これは明日、検証が必要ね……。バーベキューとか丁度良いわね。良し、そうしよう。
そこでも同じ感覚だったら大人しく認めるわ。でも、違ったら認めてあげない。うん、絶対違うわ。
「有紗ちゃんがブツブツと独り言を……。これはやっぱり、何かありますなっ……!」
「――だからっ! 何もないって言ってるでしょぉっ!」
ホントはなんでもないわけじゃなかったけど、今の私にはまだ、素直になるのは簡単じゃなかった。




