30 超人気者は歯車を前に何を思う?
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林間学校から自宅に帰り、自室の歯車の模型の前に立つと、正常に噛み合っていた歯車が僅かにズレていた。
この歯車はこの俺、二岡真斗の為の世界、花櫻学園を表している。
これまで、例を挙げるなら姫宮有紗の様な異分子は紛れていたが、それでも問題なく噛み合っていた歯車。
それが二年になった途端狂いだした。
相沢を筆頭に涌井など、俺に楯突く奴らが出始めた。
それもこれも、杠葉綾女、お前が変わろうとするせいだ。
俺は昔から超人気者だった。
厳格な家庭に生まれた俺は幼い頃からありとあらゆる英才教育を受け、それに耐えてきたおかげで何でもできた。何でも手に入った。
そんな人生が当たり前だった。
だがある日、そんな当たり前が崩れ去った。
高校入学と同時にクラスメイトとなった杠葉綾女に一目惚れした。
他を圧倒するルックス、清楚感、落ち着いた雰囲気に高い学力。
今までありとあらゆる女から好意を向けられてきたが、そんなものどうでもよかった。
だが、この女は違う。まさにこの俺に相応しい。
本気でそう思って、この俺がプライドをかなぐり捨てて告白してやった。
当然結果は俺の予想通り成功する。当たり前のようにそう思っていた。
だが……、結果は違った。
俺は振られた――。
……ふざけるな! 何故この俺が振られる? 超人気者で全てが完璧なこの俺が何故振られなければならない。
心底ムカついた。苛立った。俺の今までの人生が否定された気がした。
だから決めた。
杠葉綾女に復讐してやることを。
あいつは俺を振ったんだ。ならばこの俺の彼女ということにしてしまえばさぞかし困ることだろう。幸いこの学園で俺の言葉を信じない奴はいない。
振った相手の彼氏として認知されて苦しめ、困れ、慌てふためけ。
俺が作戦を決行すると約二名、姫宮と御影という異分子こそ現れたがどこ吹く風。
あいつらを信じる者はおらず当然俺の言葉が信じられる。
困り果て、慌てふためき苦しみ続ける姿を見るのは滑稽だった。
俺も鬼ではない。自分の犯した過ちを認め、正式に俺の彼女になるのならば許してやるつもりだった。
だが事はあろうか、二年になった途端、自分を変えようと動き出すようになりやがった。
一体何の心境の変化があった?
今まで通り何もできずにただ困っているだけではないと言いたいのか?
ふざけるな。
大体お前は何を考えている? その行動のせいで頭が悪い相沢や涌井はお前を認めたが、あいつらは学園中から邪険に扱われる羽目になっている。
それがわからないほどのバカなのか?
そこまでしてまで俺を拒む理由はどこにある?
だが、春田や臼井といった面々が陰で相沢や涌井の味方をしているということもあるから、あいつらにとって大打撃ともなっていないのも事実。
仕方ない……。お前が悪い。
何も行動を起こさず現状維持のままならただお前が苦しむだけ。それでよかったんだ。
この俺は全てが完璧で超人気者。
これからもそうあらなくてはならない。
それを崩そうというのなら俺は容赦はしない。
お前のその行動がいかに浅はかなものかを教えてやる。
「杠葉綾女、お前にとって一番大切なものをぶち壊す」
そして思い知れ。
この俺に楯突く事がどれほど愚かな行いだったかということを。
復讐劇第二幕、開演といったところか……。
今まで以上に、俺の為の花櫻学園にする為に――。
一度歯車の模型をバラし、用意してあったより強度な物と組み直した。
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番外編をいくつか更新した後三章に入ります。
今後ともよろしくお願いいたします。




