27 忘れてた。今日はあの日だった
林間学校二日目の夜、これからキャンプファイヤーが行われる。
が、強制参加ではないから俺は行かない。
部屋でゴロゴロする至福の時間を過ごさせていただきます。
「おい椎名。ちょっとついてこい」
相沢が寝転がる俺に話しかけてきた。
「え? どこに? まさかキャンプファイヤーじゃないよな?」
「良いから行こうぜ椎名!」
涌井までやけにノリノリだ。だが、キャンプファイヤーならお断りだ。
「キャンプファイヤーなら行かねーよ」
「最後まで話を聞けって。キャンプファイヤーじゃねえよ?」
「はぁ? ならどこに行くってんだ?」
「まぁ良いからついて来いよ」
渋々立ち上がり相沢の後についていく。隣では涌井がやけにニヤニヤしていて気持ち悪い。
「なんでニヤニヤしてんの……?」
「――べ、別にっ?! なんでもねーよ」
涌井は動揺したのか口笛を吹き出す。怪しい……。
連れてこられた場所は食堂の前。
相沢が扉を開けると同時に、涌井に後ろから背中を押された。
一歩食堂に足を踏み入れた瞬間、パンっ! という大きな音が数回鳴った。
「「「「お誕生日おめでとう!」」」ございます!」
目の前で繰り広げられたことに頭の整理が追いついていない。
「どうしたの佑くん? キョトンとしちゃって」
待てよ? 今日は五月二十六日。
――俺の誕生日じゃんっ!
「すっかり忘れてた……」
「だと思ったー! ほら、座って座って!」
陽歌に言われるがままに席に着く。
その間に杠葉さんと臼井が床にばら撒かれたクラッカーの中身を拾っている。
というか、臼井までいるんだな。ちょっと意外。
「ちょっと待っててねぇ。今弥生ちゃんがケーキ持ってくるから」
隣に座った陽歌がニコッと笑いそう言ってきた。
「――ケ、ケーキ?!」
「ケーキじゃないよー。流石に日がもたないからね」
そう言いながら春田がテーブルの上に抹茶のバームクーヘンを運んできた。
それを相沢が切り分けて皿に乗せていく。
「ごめんね椎名っち。ロウソクは用意できなくてさ」
「全然っ! こんな風に祝ってもらえるなんて思ってなかったからさ。なんなら自分で忘れてたし。みんなホントありがとう」
素直に心から出た言葉だった。こんな風に大勢から祝われることも初めてだし妙に気恥ずかしい。
いただきますをしてからバームクーヘンを口に運ぶ。
「どうかな椎名っち?」
「マジで美味いよ! これ弥生日和で作ったのか?」
「そうそう! 相沢っちが丹精込めて作ったんだよ!」
「おぉー! 相沢すげーな!」
「……そんなに見つめるな。照れるだろ」
相沢が顔を紅潮させて俺から視線を逸らした。。
だから、前にも言ったけどその反応やめろ! 気色悪いわ!
俺はただ感心して褒めただけだからな? 勘違いすんなよ?
「はい椎名っち! あたしから!」
そう言って春田が渡してきたものは弥生日和のサービス券。
なんだかんだ弥生日和は重宝させてもらってるから非常に嬉しい。
「サンキュー」
「ごめんね椎名。最初に言っておくとウチからは無いから。昨日聞いたもんでさ」
「同じく俺からも無いぜ! また今度学食でも奢ってやるよ!」
申し訳なさそうに言う臼井だがそこまで気にしなくてもいい。むしろこの場にいることが俺としては嬉しい。
対してゲラゲラ笑っている涌井だが、ここはノーコメント。
「ここで祝ってもらえるだけで普通に嬉しいよ」
俺がそう言うと二人は安堵の表情を浮かべる。
「はいこれ! ちゃんと使ってね?」
「あ、私からもこれあげるわ」
「こ、これは私からです! もしよければ使ってください……!」
陽歌と有紗と杠葉さんがそれぞれ可愛くラッピングされた袋を渡してくる。
「三人ともありがとう。開けていい?」
「いいよいいよー!」
「私も大丈夫です」
「私のは一人の時に見てもらえるかしら?」
何故かはわからないが、有紗から貰ったプレゼントはここでは開けてほしくないらしい。
「わかった。じゃあ有紗のはあとで開けるわ」
ということで、まずは陽歌から貰ったプレゼントを開封する。
中から出てきたものはデニムエプロン。まさに今俺が欲していた物の一つだ。
「おー! エプロンじゃん! 丁度欲しいと思ってたんだよなぁ! マジでありがとう!」
「自炊しようと思ってるって言ってたからね。でもよかった! 喜んでくれて」
優しく微笑みかけてくる陽歌は、わかってはいるけど今日も可愛い。つい心臓が跳ねそうになるのを感じる。
「お次は杠葉さんがくれたやつを……」
杠葉さんから貰ったプレゼントを開封し、中身を取り出す。
「ブックカバーとしおり……?」
中身を見て無意識にポツリと呟いてしまっていた。
「椎名、お前読書なんかすんのか?」
ひたすら空気が読めない涌井がそう言葉を溢すと、臼井がバシッと涌井の背中を叩いた。
「いや、俺昔からそれなりに本読む人間なんだけど……?」
「――そうですよねっ?! よく読書していらっしゃいますし……!」
学校でそんな頻繁に読書をした覚えはないけど、もしかしたら杠葉さんの目にはそう映ってたのかもしれない。
ん……? あれ……?
少しだけ何かの違和感を感じたが正体はわからない。
何にしても普通に嬉しい。これを機に学校でも積極的に読書に励むのも悪くない。
静かに読書だけすることで目立たず済むし。
「ホントありがとう杠葉さん。これでもっと読書が捗りそうだわ」
俺がそう言うと杠葉さんは少し頬を赤くして頷いてくれた。
「で、有紗のも開けていい?」
「今はダメよ。一人の時に開けて頂戴」
やはり拒否されてしまった。まぁ良いでしょう。後からのお楽しみというのも悪くない。
ここにいる人たちはキャンプファイヤーを選ばずにこっちを選んでくれた人たちだ。
多分陽歌が声を掛けてくれたんだと思う。
ありがとう――。
無意識に心の中で呟いた。
今後の学校生活において、このメンツとの人間関係は大切にしていこう。そう、心に誓った。




