26 バーベキューでの一幕
ドッジボール大会、結局決勝戦三試合目は二岡の活躍で相手チームを全滅させたことにより黄チームの優勝で幕を閉じた。
そして迎えた昼、只今バーベキュー中。
「ねぇ椎名くん? どうしてここにいるのかな?」
「そんなこと言わないでくださいよ反町姉様。プロの焼き方を再び拝見しに来たに決まってるじゃないですか」
クラス会の時、反町姉がやたら丁寧に肉を焼いていたことを思い出し、俺に戦力外通告をした有紗に一矢報いる為に観察に来たのだ。
「流石わかってるね椎名っち! うちの希っちは天才だからね!」
何故そんなに春田が誇らしげなのか意味不明だが、ここは春田に乗っかろう。
「よっ! 天才!」
「そんな大袈裟な……。もう! 仕方ないなぁ! よーく見てなさい!」
俺たちに煽てられて気分が良いのか、反町姉が次々に網の上にトングで丁寧に肉を乗せていき、おそらく丁度良い具合の所でひっくり返していく。
相変わらずの手際の良さに感心してしまう。
反町姉が完璧に焼き上がった肉を班員の皿に取り分けていく。
「どんなもんよ!」
「「「おおぉー!」」」
皆拍手して反町姉を褒め称える。
「だからただ焼いただけじゃん……」
「弟、あんたは黙ってなさい」
「――なっ! 僕が兄だ!」
始まった……。俺は用は済んだし面倒なことに巻き込まれないうちに早くここから退散しよう。
そう決めて気付かれないように忍び足でこの場を去った。
さて、さっさと班に戻りますか。
「――おっと」
キョロキョロしながら歩いていたら誰かと軽くぶつかった。
「――すまん!」
誰かを確認する前にすかさず謝る。
「大丈夫だよ、気にしなくて。こっちこそちゃんと前見て歩いてなかったからごめんね」
目の前に突如現れた圧倒的爽やかスマイル。
毎度のことながら男の俺が何故ドキドキしてしまうのだろう……。
「な、なんだ二岡か……! よかったよ変に因縁つけてくる奴じゃなくて」
「ははっ! 確かに世の中にはそういう人もいるからね。そういえば椎名、さっきのドッジボールはホント凄かったね! あれが無きゃ黄チームは負けてたよ」
「あー、あれはホントに奇跡だったな。とりあえず勝ててよかったよ」
陽歌に奇跡と言われたことを否定しておきながら、ここで自ら奇跡と言う俺。ひたすら矛盾してんな。
「奇跡でもなんでも勝ちは勝ちだよ」
いや、二岡っ……! やっぱお前も奇跡って思ってたんかいっ!
「それにしても二岡、ホントすげーな。初戦から決勝まで相手全滅なんて目を疑ったぞ」
「俺一人の力じゃないよ。周りのみんなも頑張ったからね。そろそろ班に戻んなきゃ。じゃ、またね」
最後まで爽やかスマイルを貫いていた二岡。おまけに言うことまで格が違う。
うん、流石だ。さて、俺も戻ろう。
「あんた、どこ行ってたのよ? もうとっくに食べ始めちゃったわよ?」
「プロに焼き方を学んできた」
「あっそ。じゃあ勝手にやったら?」
有紗はそう言いながら網の上に乗っかった肉を自分の皿に乗せて食べている。
「興味なし?!」
「椎名先輩! 芽衣は興味津々です!」
キラキラと目を輝かせている橘だが、そこまで期待されると逆に怖い。
「ただ焼くだけだからそこまで期待せんでいい」
さっき反町姉がやっていたように肉を網に乗せて焼いていく。
「いやあんた、ただ普通に焼いてるだけじゃない……」
「やっぱそう思う? 俺もそう思ってたとこ」
「プロに学んできたとか言ってたくせにホント普通なんだけど……。まぁさっきよりはマシだけど」
普通で悪かったですね。そもそも肉焼くのに普通も何もないけどな。
「あら、結構いけるわね! やればできるじゃない」
有紗がしれっと俺が焼いた肉を食べている。
俺、まだバーベキュー始まってからいまだに何も食べてないんだが?
「なら何でさっき戦力外通告してきたし……」
「いくらなんでも雑すぎたからよ! 網の上にドバッと乗せるとかありえないからね! あの後大変だったのよ?」
「ふーん、ごめんごめん」
「全く謝られてる気がしないけどまあ良いわ。はい、あーん」
「――はぁ?!」
つい反応して有紗の方を見てしまった瞬間、口に肉を詰め込まれた。
「自分で焼いた肉の味はどうかしら?」
「いや普通に美味いけど、……えっ? どうゆう心境の変化?」
いきなりあーんしてくるとか、頭でもぶつけたのかとか思ってしまう。
対する俺は当然めちゃくちゃ動揺している。心臓もバクバクなんだが。
「え? 何が?」
「――ひ、ひひ、姫宮先輩っ! 芽衣の椎名先輩になんてことしてくれてんですか?!」
「いや、間違ってもお前の俺ではない……」
「あーんしてあげただけじゃない」
自分でやったこと理解してたのね……。しかもあっけらかんとしてるし。
まさか俺の焼いた肉に何か良からぬ成分が含まれてたりしないよな……?
「し、してあげただけっ?! だ、だって、あーんですよ?!」
「大丈夫よ。椎名は常日頃からはるちゃんのママにあーんされてて慣れてるから、私がしても変な気起こしたりしないわよ」
いや、するわっ! もう今にでも欲望が暴走しそうに――って! そうじゃなくてっ……!
「されてねーよ!」
「あれ? 前にはるちゃんが言ってなかったっけ?」
「あれはあの時だけだろ! たった一回、そう、たった一回だけ……。しょうがなく妥協してあーんされてあげただけなんだ……」
「そうだっけ? ま、なんでも良いわぁ。よかったわねぇ、超美少女の私にあーんしてもらえて」
有紗は悪戯に微笑んでそう言った。
ま、まぁ、ラッキーと言えばラッキーだが。勘違いしそうになるからやめてくれ。
でも本人も気にしていないみたいだし、それならそれで有難くあーんされておこう。
「め、芽衣もしてあげます……!」
「いや、しなくていい。自分で食えるから」
橘の誘いを丁重にお断りして焼いた肉を口に運んだ。




