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24 ドッジボール大会①~陽歌の目は誤魔化せない

 林間学校二日目、午前中の予定はドッジボール大会。


 俺たち二年三組と一年三組は黄チーム。

 各試合三本勝負で、二勝したチームが勝ち抜くトーナメント。


 とりあえず三チーム作るということで、クラスの班三つと一年生のクラスの班三つで一組のチームを三つ作り挑むことになった。


 我々黄チームの初戦の相手は藍チーム。


 まだ右手で投げられそうにはないし、普通にさっさと負けたい。

 初戦敗退したいと切に願うが、大多数のクラスメイトはそうじゃないらしい。


 六月に控える体育祭の前哨戦とでも言わんばかりの気合いの入り様に萎縮してしまいそうだ。


 「皆さん! 優勝目指して頑張りましょう!」

 「「「おぉー!」」」


 杠葉さんの優勝宣言に黄チームのボルテージが上がっていく。

 だが、これは杠葉さんの言葉に呼応しているわけではない。

 大半のクラスメイト及び一年生は、その隣にいる二岡に呼応しているのだ。


 「綾女の言う通りだ! これは体育祭の前哨戦でもある! 必ず勝つぞ!」

 「「「おぉー!」」」


 追撃の二岡の喝にボルテージも最高潮に達する。


 「はぁ……。マジか……」

 「どうしたのよ……? 元気無いわね……?」


 かなり沈んだ表情の有紗が話しかけてくる。


 「俺は負けたいのに皆さん恐ろしくやる気じゃん? 当たり前のように勝ち上がりそうで怖い……。というか、有紗も元気無いように見えるけど?」

 「え……。だって私運動できないもん。ドッジボールとか無理……」

 「あ、そうだったの。知らんかったわ」

 「というかあんた、負けたいって言ったわね?」


 有紗が睨みを利かせて俺を見てくる。


 やけに怒ってんな……。


 「き、聞き間違えじゃない……?」

 「誤魔化すなっ! 綾女が優勝するって言ってんだから本気でやんなきゃ許さない」

 「へいへい……」


 そんなこと言われても、左投げしかできない俺に本気もクソもないんだがな。


 「椎名先輩! 頑張りましょうね!」


 どこからともなく駆け寄ってきた橘も気合が入ってるらしい。


 「程々にな~」

 「だから本気でって言ってんでしょっ!」

 「――はいっ!」


 耳元で叫ばれた為、反射的に返事をしてしまった。



※※※※※



 遂に初戦が始まった。

 一試合十分間。一度外野に行ったら戻れない。より多くコート内に人が残ってたチームの勝ち。当然全滅させればその時点で勝ち。


 俺は二本目の試合に出るから、とりあえず今は応援してる風に試合を眺めている。

 もちろん応援はしてないが……。


 頼むから負けてくれっ……! そして次に俺のチームが負けて初戦敗退だっ!


 そんな俺の願いとは裏腹に、一本目は黄チーム優勢で試合が進んでいく。


 あ、陽歌が相手を一人外野に送った。相変わらず運動できるんですね。男顔負けじゃん。


 てか、何で相手チームは杠葉さんを狙わないの? 凄い弱そうじゃん? 簡単に当てれそうじゃん? 一人でも多く黄チームを削ってくんなきゃ困るんだが?


 あと涌井、お前強いのな。相手当てすぎ。もうこの試合勝ったわ。はぁ……。


 一試合目の終了時間になった。

 どう見ても余裕勝ちですね。とりあえず黄チーム一勝です。


 そしていよいよ二試合目。俺の出番だ。

 わざと当たったってバレないようにテキトーに避けつつ、何処かのタイミングでさり気なく当たって外野に行こう。


 と、クラスの意志に反する決意をしてコート内に入った。


 佐藤がジャンプボールにあっさり負けてくれた。


 良しっ! いいぞっ! 開幕早速誰かを当ててくれっ!


 俺の願いは届き、相手チームの女の子が早速俺のクラスメイトを当ててくれた。


 かなりのヘナチョコボールだったが、あっさり当たった人物、その名も姫宮有紗……!


 悔しそうな表情で外野に向かう有紗だが、運動はできないとの言葉通りに、簡単に当たる辺り好感が持てる。


 そのこぼれ玉を橘が拾って投げる。

 え……? 速くない? その小柄な体からどうやってそんなボール投げてんの?


 豪速球が相手チームの男に命中する。


 「どうです椎名先輩! ドッジボールだけは芽衣も中々凄いんですよ!」

 「お、おう……。そうみたいだな」


 中々じゃなくて普通にすげーよ。あれは男が投げるボールな?


 試合中にそんな会話を交わした俺と橘だが、相手がその隙を見逃すはずもない。


 ボールが俺に向かって飛んできていることに気付いていなかったのだが――。


 俺の左肩付近にボールが当たった。


 あ、当たっちゃった。これで俺も外野行きだね。


 内心本気で喜んだのだが、俺が外野に行くことを神様は許してくれないらしい。

 高々と宙に上がったボールを橘がキャッチ。


 ――なんてことしてくれてんじゃあっ!


 「椎名先輩をセーフにできてよかったです!」

 「サ、サンキューな……」


 そして再び繰り出される豪速球。

 取れない相手の男。跳ね返ったボールがこちらのコートに入ってきてそれを取ったチームメイトが相手を当てる。


 相手チームだけが減っていく現実。

 あ、こっちも有紗が初っぱな当てられたんだった。


 けどわかった。この試合、勝つんだろうな……。


 結局その後、当初の予定通りにテキトーに避けながら良い感じのタイミングで当てられて外野に向かった俺だったのだが、その努力も虚しく予想通り試合は優勢に進み、二試合目も黄チームが勝利した。


 これで初戦突破が決まった。だが、三試合全てを行うルールの為、まだ終わったわけではない。


 二岡率いる三チーム目がコート内に入っていく。


 「ちょっと佑くん」


 何やら物言いたげな表情の陽歌が話しかけてきた。


 「どうした?」

 「ちょっと来て」


 有無を言わさず、といった具合に陽歌に左腕を引っ張られ、コートから少し離れた位置に連れて行かれた。


 「ねぇ、まさかとは思うけど……、手、抜いてないよね?」


 表情こそニコッとしているが、陽歌の目は全く笑っていない。


 「も、もちろん手なんて抜いてません……!」


 激しく動揺しつつもそれを否定する。


 「――手抜いてたじゃん! わざと当たったでしょ! バレバレだからねっ!」

 「そんなまさか……! あれが俺の実力ですから……!」

 「そうゆうのいいから……」

 「はい……。すいません」


 流石は幼馴染。やはり陽歌の目は誤魔化せないらしい。

 冷めた目で見られると謝らざるを得なくなった。


 「とりあえず手を抜くことは禁止! わかった?!」

 「はいはい……。でも俺に誰かを当てることは期待するなよ? 左手で投げても無理だろ? 右肩はもう結構良くなったけど、ここで調子に乗ったらもしかするとまた壊れるかもしれないし」


 先週のリハビリでも経過は良好とのことでおそらく大丈夫だとは思うが、こんなレクリエーションのドッジボールなんかでリスクを背負いたくなんかない。

 可能性が僅かながらにもあるなら俺はそれを回避する。


 「それはわかってるから。でも、わざと当たることはダメ。ちゃんと手を抜かずにやって当てられちゃったなら文句は言わないから」


 「りょーかい」

 「わかればよろしい! じゃあ戻ろっか!」


 そこまで言うならしょうがない。せめて当てられない努力ぐらいはしてみることにしよう。


 コートの方に近づいていくと何やら騒々しい。


 「何だ……?」

 「あー、これはあれだね……。うん……」

 「あれと言われてもさっぱりなんだが?」

 「すぐにわかるよ」


 意味深に言う陽歌と共に更にコートの方に近づいていくと、異常なまでの黄色い声援が飛び交っていた。


 「あー、なるほどなるほど……」

 「理解した……?」

 「おう」


 だって、相手コートにはもう残り数人しかおらず、黄チームのコート内では二岡がボールを持っているわけだからな……。


 この声援が向けられている相手も二岡。

 見りゃわかるよ? けどさ、何で相手チームの女子たちまで二岡に声援送ってるわけ? 普通自チームに送らない?


 その後、あっさり相手チームを全滅させて勝った三チーム目。

 これにより黄チームは藍チームに対してストレート勝ちで準決勝に駒を進めたのだった。


 

 

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